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MBAで学べたことを振り返る

先日、Xで流れてきた1本の動画の中で、MBAの"資格を取りにいった"女性が、『イーロン・マスクも彼女自身も、採用時に候補者からMBAホルダーを外している。最近のMBAはほとんど役に立たないし、実際にやったことない教授が学術的な理論の講義を展開し、生徒達も偽りの自信に溢れている。』と述べていた。

彼女が、”資格を取りに行った"、のか ”学びに行った"のかはさておき、実際にMBAを体験したという点においては、捉え方は人それぞれ色んな主張があっていいと思うが、とても違和感があったのは、それきたとばかりにMBA批判を繰り広げるnon-MBA“評論家”達。『理論では全く意味がない』『学ぶ時間があれば仕事しろ』等々。私が通ったプログラミングスクールの人達までそれらをリポストし、何故MBAを持っている生徒も多々いる中、そういった反応を示してくるのか、やるせない気持ちにもなった。もはやMBA云々という話を超え、スクロールで情報が拾え、指先1本で共感も拡散もできるメディアというのは、偏った知識・情報を得ることであたかも知った気にさせてしまい、物事の真価について自ら調べ実証しよう、また学ぼうと行動する意欲さえ阻害してしまうのではないかと考えると恐ろしくなる。フォロワー数の多いインフルエンサーは、私たちに潜在的にも影響を与え、ある種の固定概念を植え付けてしまうのではないだろうか。

皮肉なことに、MBAでは、このように偏った事実だけで物事についての誤った判断を行わないよう、主観と事実を切り分けたファクト整理についてを2年間トレーニングする。自身の仮説を検証するために出そろったファクトは充分か、それらには発信者のバイアス(固定概念)がかかっていないか、そこからどういう仮説が導かれるだろうか(帰納法)、またファクトとファクトの因果関係ゆえに仮説がどう導かれるのか(演繹法)についてを徹底的に考える。いやいや、そのような理屈ではなく、実際に過去遭遇したMBAホルダーから酷い目にあったのだと主張するのではあれば、具体的にはその母数はどれくらいなのか、それは結論を出すには充分なのか。このようなトレーニングを繰り返すことで、クリティカルシンキング(建設的な批判)力が身に付く。そうすることで、安易に周りの風潮や空気に支配されない自身の中での確固たる明確な軸や根拠を持つことができる。(イーロン・マスクからすると、めんどくさいやつかもしれないが(笑))

組織にはダイバーシティが必要だ。考えの近い個々人を集めトップダウンで組織を支配するのは簡単だが、サステナブルな組織を作るためにはこのようなクリティカルシンカーの意見も採択するかはさておき、存在させなければグループシンクに陥ってしまう。これについては以前エグゼクティブリーダーシップの意思決定についてをnoteにまとめている。

話を戻すと、ビジネス以外の日常生活においても、私たちはメディアに踊らされることなく、GPTの回答が絶対だと信じ込むことなく、実際のファクトを探り、それを検証し、自ら根拠のある意思決定を行うことがますます求められる時代になってくると考える。ここで重要なのは、この意思決定に必ずしも正解というのはないということだ。例え誤った判断であったとしても、そのポイントを明確にし次に生かし、自らの固定概念を塗り替えていく必要がある。

ということで、MBAの真価については、MBAを経験して初めて語ってほしいというのはあるが、この検証のために2年という時間とお金と、恐らく想像を絶する過酷な経験をする投資対効果をそもそも感じていない人の方が多いと思うので、MBAを出て以降初めてMBAで得たものをまとめてみようと思う。

【MBAで得たマインド:7割】


①忍耐力・グリット力
働きながらのMBA2年間はガチでしんどい。私が通った学校は相対評価だったため10%が落とされるサバイバルな環境だった。評価項目は以下の通り。
・レポートの内容
・講義当日の挙手・発言のクオリティ(全員を納得させられるか)
(教授から気に入られるか、同級生の反応はどうか⇒いわばマス向けの営業力)

レポートについて
ある企業の財務情報含むファクトが収まった文章(ケーススタディ)40ページ程を3回程度繰り返し読み込み、フレームワークも活用しながら、企業課題を明確にした上で、解決策も立案し、レポート(パワポ)に落とし込む。毎週土日は朝から夕方まで講義のため、その講義が始まる朝までにレポートを提出しなければならない。なんと週末に向け、5~6社の分析(毎週200ページ×3周/週)をこなさなければならず、ほぼ毎回講義が始まる9時に間に合うよう家を出るぎりぎりまでPCにしがみつきレポートを作成していた。平日はというと仕事が9時半に開始だったので、朝7時の白金高輪駅のスタバ開店と同時に着席し、2時間モーレツ・インプットを行い、通勤中は二宮金次郎ばりに課題図書を流し読み、夜は帰宅後22時くらいから夜中まで黙々とアウトプットに励んでいた。MBA卒業後にそのスタバでゆっくりコーヒーを嗜んでいると、店員さん、何とお客さんも含め何人の方から声をかけられた。『毎朝一生懸命何をされてたんですか?』と(笑)きっと時間に追われ、毎朝ものすごい形相で課題に取り組んでおり噂になってたんだろうと思う(笑)

2年間でインプットした200社弱のケーススタディ

②成長型マインドセットへの切り替え
当日の挙手・発言
手を挙げないとソッコーで脱落。毎週末、大の大人が100名弱集まり、1日中、手を挙げ続ける滑稽さたるや・・・(何時間も挙手をし続けると、冬場は血が廻らず手先まで冷え身体的にも辛かった。)全員手を挙げている中で、指名され発言権をもらえる=評価点獲得のチャンスだが、必ずしも毎回考えがまとまっているとは限らない。変な発言をしたあとで、周りからやばいと思われただろうな・・・という劣等感。初半年は精神が病む寸前だった。あるペプシコーラとコカ・コーラの戦略比較についての講義でのディスカッション中『この2社の関係性を端的に例えると何でしょう』と教授に問われ、頭真っ白な中当たってしまい、発言の瞬発力も問われる中思わず『まるでトムとジェリーのようですね』と発言し、クラス中失笑だった・・・決してウケを狙ったわけではなく人間極度の緊張に無防備にいると自分でも何言ってるかよくわからなくなる。その日はクラスメイトとも話さず帰路につき、自分がどれほどポンコツか悶々と考え、その晩はそれ以上落ちることがないくらいのどん底まで落ちてしまった。

よく、成長するためには、『固定型マインドセット』ではなく『成長型マインドセット』が好ましいと言われたりするが、まさに『固定型マインドセット』では立ち行かないところまで追い込まれ、おのずと『成長型マインドセット』への転換が行えた。この頃ちょうど脳の機能不全のような状態になることがしばしばあり、相手が何を言っているのか会話はできているのにわからない。脳がふわふわした状態になり思考ができないというような症状が現れた。数週間で元には戻ったが、脳がアップデートしていたのかもしれない(笑)

③自己理解・自己受容
優秀なクラスメイトと机を並べ、そのようなポンコツな自分を認識し、人生で味わったことのないほどの屈辱と劣等感を感じ、半年経過したころには不思議とそれに慣れていた。あとは上がるしかない。他人と比べても意味がない。確かに半年前の自分よりは成長している気がする。それに気付けた瞬間、成長曲線はぐんと伸び、発言の質も上がり、成長曲線は上がっていった。

他人より優れていることが高貴なのではない。
本当の高貴とは、過去の自分自身より優れていることにある。
(アーネスト・ヘミングウェイ)

当時、この格言を頭の中で繰り返し繰り返し唱えていた。

④自責の念(営業マインド)
結局は世の中営業だと思っている。私自身10年以上BtoCの営業をやってきた中で、相手が消費者であろうが、教授であろうが、またクラスの同級生であろうが、彼らのニーズを引き出さなければ適切なアウトプットは行えない。例えば、同じGoogleのケースを扱っていたとしても教授によって伝えたいこと、持っていきたい方向、求めている発言は異なる。クラスディスカッションでバシッと同級生に刺さる発言ができるかもその場にいる同級生達が作り出す空気による。同級生の中には、教授を悪く言うものもいた。当ててくれない、考えをくみ取ってくれない等など。他責にするのは簡単だ。しかし、実際のビジネスにおいても100%正しいことなんて存在しない。相性が悪い上司やクライアントもいれば、彼らが間違っていることもあるかもしれない。ただそこは正しいことを主張することが正解なのではなく、彼らに刺さる提案ができているか、ただそれだけだと思う。そしてその提案力、言い換えると営業力が足りていないのは自分の力不足なのだ。過去と相手は変えられないが、未来と自分は変えられるということを強く感じることができた2年間だった。

⑤EQ、俯瞰思考、協調性
上記のように目の前の相手、クラスという場・空気の中で自分の発言がどのように相手へ影響を与えるかは自ずと考えるようになった。場を読めず冗長に話しをしてしまっていないか、クラス全体が求めている流れに沿えているか、逆に流れを変えるような一石を投じる必要があるのではないか。この全体を俯瞰して、自身はどのように立ち振る舞えばいいのか。こう考えるようになって以降、職場での役員プレゼンもスムーズに事が運ぶようになった。

【MBAで得たスキル:2割】

①インプット力&アウトプット力
前述のとおり、私はここでインプット力とアウトプット力を身に付けることができた。活字を読みすぎ限界超えると吐き気が催すということも学べたし、ファクト整理、自身の中で根拠を持ち提案につなげること、そしてパワポでの見せ方。いかに評価で脱落しないかのハングリー精神は、いかに相手に伝わるアウトプットならびに資料作りができるかの理解とスキル体得につながった。特に、アウトプットに関しては、元々会議などで発言ができるようなタイプではなかった。慎重な性格なので、間違いを恐れ、発言や発信を控えることも多かった。今では会議やX上でも、間違いや批判は恐れず自己主張をすることを、私はMBAを通して覚えた。

②傾聴力⇒概念化思考力⇒言語化力
講義の中で全員の発言を聞き、理解しなければ流れに沿った発言なんかできない。そのため相手が言っていることは何なのかを読み取ろうとする。しかし、バックグラウンドも年齢も全く異なる人たちの言語を本当の意味で理解するのは難しい。ではどうすればいいかというと、相手の話を聞きながら同時にその内容の抽象度を上げる。そうすれば、自身の考えや知識との共通項が見えてくる。その共通項を手がかりに自身の経験や知識、考えにはめ、自身の言葉で相手に返すとコミュニケーションが成り立つ。そんな傾聴力、概念化思考力、言語化力を身に付けることができ、現在のコンサルティングという仕事においての経営層とのディスカッションにおいても、MBA入学前とでは大きな精度の差が生まれたと思っている。

③処理能力・実行力・行動力
アウトプットを出さなければ課題が終わらない。捌きまくるしかない。精度にこだわる暇なく、とにかくアウトプットを期日内にださなければならない。これを繰り返すことによりめちゃくちゃインプット&アウトプットの作業効率が上がり、これは今でも仕事に役立っている。

さらにMBAの講義では全員が知っている。評論で終わってはいけないと。よって、私たちは週末の学びを平日の仕事で生かすことを心掛ける。さらに、自身が獲得したマインドとスキルを職場で発揮できないと感じたものは、そのマインドとスキルを武器に起業というアクションを起こす。私もその一人。

【MBAで得た知識:1割】

一般的にMBAというとこの部分がメインだと捉えられがちだと思っている。ひと昔ふた昔前のMBAはきっとそうだったかもしれない。しかし、知識は陳腐化する。また、フレームワーク等の知識だけなら書籍でも学べる。確かに、経営の基礎的な知識・フレームワークを学んだことによって、例えばコンサルタントとして経営者とより視座の高い話ができるようになった。また、私は人事なので、例えばCxOを採用する際や新規事業責任者を採用する際、どういう知識やコンピテンシーが必須要件、歓迎要件なのか等がクリアになり、業務も円滑に進むこともある。また研修講師として、巷には戦略・マーケティングありとあらゆる研修や書籍で溢れているが(結構著者の持論も多い)、何が基本の基なのか、アカデミックな王道なのかの軸がわかるようになり、受講生に安心して伝えられるコンテンツやおすすめ書籍の提案もできるようになった。外部環境分析から、戦略立案(マーケティング戦略含む)の王道も把握できているので、巷に溢れた書籍や新たな手法をおもしろいものとして基礎に取り入れ効果測定を見るといったこともできている。ただこれらはMBAの副産物にすぎない。

今話題になっている冒頭の”MBAへ資格を取りに行った”と発言をしていた彼女のように、私からすると1割の知識獲得を目的にMBAへ資格を取るためだけに入学をしたものにとってはMBAは期待外れだったのかもしれない。だって私からするとほんの1割なのだから。そうなると残念ながら卒業後もMBAへの思い入れ等なくあのような発言になるかもしれない。

結論として、学びとは学び自体に依存するのではなくそこから何を勝ち取るか、また勝ち取れた人材かが重要であると考える。MBAに過度に期待をし、スーパーパワーだと思い資格を取りに来た人材を採用してもパフォーマンスは発揮できない可能性も高いかもしれない。しかし、MBAで最強のマインドセットを獲得している人材も少なくはないのではないかと、私自身の誇れる同級生達を見ていても強く感じる。MBAだから採用するというのも候補者自身のパーソナリティについてを見落としてしまうリスクもあるが、MBAだから不採用にするのではなく、やはり企業側も採用力を上げ、候補者が例えばMBAでどんな経験をし、何を学んだかをバイアスなしに見極める力も必要になるのではないだろうか。そのためにはMBAを上部の理解・バイアスで捉えるのではなく、そのリアルを知る必要があると思う。

総じて、私はMBAの2年間で、マインド・スキルともに大きく成長し、偽りでない自信を身に付けることができた。そんな人生を変えるような経験ができたことに感謝し、また2年間MBAで支えてくださった教授陣、さらには同級生たちには本当に感謝をしている。その敬意も込め、世の中が、偏った情報に溢れMBAについての実態もわからないまま評価を下すことに違和感を感じ、私が捉えたMBAでの学びをまとめてみた。


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