OpenAI vs Anthropic - 思想の違いとAI覇権を巡る戦い
こんにちは、おがくずにゃんこです。
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この記事では珍しく生成AIに関する話題について。
最早日本人でも知らない人は居ないのではないかというほど名の知れた「ChatGPT」と、最近にわかに知名度を上げている「Claude」について、それぞれの運営企業が持つ思想を解説します。
Claudeの成り立ちは想像以上に興味深かったです。最も重要なのは、Claudeを作っているAnthropicという会社は、ChatGPTを作っているOpenAIを辞めた従業員が設立したということです。
なぜOpenAIから袂を分かったのか?
ClaudeはChatGPTとどう差別化したのか?
…そういった開発の背景にある思想を探ります。なのでChatGPTなど生成AIの使い方や活用方法については取り上げません。
ChatGPTの歩み
まずここから先の表記方法について述べておきます。日本語ライクな表現ですが、人物名は初出時に「カタカナ (英語) 」の形式で記載し、2回目以降はカタカナで記載します。会社名については「◯◯社」という形式で記載し、人物名やサービス名と区別します。サービス名は特に何もつけません。
基本からおさらいすると、ChatGPTはOpenAI社が開発したAIとチャットできるサービスです。人間のように自然な応答ができるため、質問に回答する形式で文書作成やアイディア作成など様々な知的作業を効率化・自動化してくれます。
ChatGPTのリリース当初は世界中に衝撃を与えました。わずか数日で利用者は100万人を突破し、2023年1月にはアクティブユーザ(登録し、実際に使っている人)が1億人を突破しました。
しかしそんなブームから早1年と少し。実際に使ったことがある人は、2024年2月時点で日本国内では33.5%という調査結果もあります。
そんなChatGPTを生み出したのは、アメリカのシリコンバレーにあるOpenAI社です。CEO(最高経営責任者)であるサム・アルトマン (Samuel Harris Altman) 氏は日本での市場拡大を重視しているようで、日本にはいち早く来日しています。日本支社も設立されるようですが、このような日本重視の姿勢もあってか、彼の知名度は高いです。
彼は1985年に生まれ、スタンフォード大学でコンピュータサイエンスを専攻していましたが、大学を2年で中退して以降ずっと会社経営をしています。おそらく技術力もありますが、シリコンバレーの潮流に乗っかった、今をときめく経営者です。
これまでにいくつかの会社を立ち上げたようですが、OpenAI社を設立したのは2015年ごろです。注目すべきことに、設立メンバー(出資者含む)にはあのイーロン・マスク (Elon Reeve Musk) やペイパル創業者として有名なピーター・ティール (Peter Andreas Thiel) の名前もあります。
OpenAI社は元々「安全で有益な (Safe and Beneficial) 」汎用人工知能の開発を基に設立された非営利団体でした。なぜ非営利かというと、設立時は「オープンソース」という、「ソフトウェアのプログラムを公開して積極的にいろんな人の意見を集め、良いプロダクトを人類みんなで作っていこう」という思想の流行がありました。これはIT業界で独占的影響力を持ちながらも技術を「クローズに」しているGoogle社に対抗した流れであり、OpenAI社に共感した人々の支えの下彼らは開発を続けました。爆発的に流行したのはGPT-3ですが、それより前にGPT-1、GPT-2があったのです。
そして2019年、OpenAI社は営利企業に移行し、投資額を増やしました。その後2022年に発表されたGPT-3.5は無料公開され、誰もが知るサービスになりました。
爆発的普及により、OpenAI社は約7年の紆余曲折を経て報われました。しかしその後のOpenAI社が取った道は、IT巨人の一角であるMicrosoft社との提携でした。約100億ドルという巨額の投資と引き換えに、Office 365やBingなど、Microsoft社のサービスに組み込まれることになりました。この辺りから「Open」とは名ばかりになり、「Close」な方向に舵を切ることになります。
さらに2023年11月には世界中を混乱させることになります。サム・アルトマン氏は突如OpenAI社CEOを解任させられ、Microsoft社が彼専用のAIチームを設立すると発表しました。直後Microsoft社の株価は爆上がりし、遂にIT業界のパワーバランスが変わるとまで言われましたが、なんとわずか数週間でOpenAI社に戻ることが決まりました。一連の騒動にはOpenAI社の共同創設者の一人が関わっているとされていますが、未だ詳細は明らかになっていません。おそらく真相は闇の中でしょう。
Claude誕生の背景
ここ最近までChatGPT、特に有料版のGPT-4は他社の追随を許さない精度を誇っていたわけですが、そこに突如現れたダークホースがClaude 3です。2024年3月4日に発表されたClaude 3は、3つのラインナップでChatGPTに対抗しています。
その実力は本物なのか。海外のエンジニアが比較したところ、IQテストにてGPT-4を抜いて1位となったようです。その実力は、驚愕のIQ101。平均的な人間を(甘めに見積もって)100としたなら、その知力を上回ってしまいました。
その精度の高さから日本でも一部界隈では盛り上がっていますが、ChatGPTが登場したときほど湧き立っているようには見えません。ファーストインパクトに劣るというのは当然ありますが、個人的に名前が良くないと思います。Claudeは「クロード」、Anthropic社という社名は「アンソロピック」と呼ぶそうです。せめてトップページを日本語対応してくれれば、日本人でも親しみが持てるのに…
何でそんな名前にしたんだと思うのですが、なんとClaudeという名前については公式な由来がありません。Claude 3本人に聞いてみたところ、そのように教えてくれました。
Anthropic社という社名の由来も気になるところですが、それは彼らの思想に関係するので後ほど紹介します。冒頭で紹介したようにAnthropic社は元々OpenAI社で働いていた従業員達が創業した会社で、現在のCEOはダリオ・アモデイ (Dario Amodei) 氏です。彼はOpenAI社では研究ディレクターでした。プリンストン大学で物理学の博士号を取得し、スタンフォード大学医学部の研究員だったこともあるエリートです。さらにGoogle社で働いた経験もあり、2016年からOpenAI社にジョインしました。また共同創設者の一人には妹もいて、彼女の名はダニエラ・アモデイ (Daniela Amodei) です。どちらもアモデイなので、アモデイ違いにご用心。
彼らがOpenAI社と袂を分かってまで別のサービスを作ったのは何故なのか。その理由は、上記の記事にて述べたアモデイ氏の発言から垣間見えます。
Anthropic社はAIに対し、「倫理的」であることや「道徳的」であることといった安全性を重視しています。実際Claudeは国連人権宣言などを学習し、それに準拠した発言をするそうです。
実はこのような価値観が、「Anthropic」という社名にも込められています。これは直訳が難しい言葉ですが、「人類又は人類の存在期間に関連するさま」という意味です。
難しい概念ですが、似たような言葉として「Anthropology」があります。こちらは日本語に訳すと「人類学」という意味になります。人類学は人類の起源や、人類がどのように発達してきたのかを研究する学問分野であることを考えると、この言葉には「人間中心的」価値観が込められているように思います。
AIの覇権を巡る巨大IT企業の戦い
Anthropic社が重視するように、「信頼と安全 (Trust & Safety) 」という価値観はアメリカのAI業界で最近活発に議論されるテーマです。
イーロン・マスク氏が同名の協議会を発足させていますが、はたして彼がそのような責任を果たすのでしょうか。その是非は置いておくとして、X(旧Twitter)を自分本位のメディアにし、OpenAI社に出資し、Space X社やテスラ社など革新技術を生み出す企業を設立し続ける彼の行動は、どちらかといえば「イノベーションファースト」や「利益最大化」といった価値観を重視しているように思います。
このように本音では資本主義本位な部分が邪推されつつも、建前として「公平性」や「安全性」を強調するAI業界において、Anthropic社は影響力を持つ第三勢力となるポテンシャルを持っています。
しかしAnthropic社にも巨大ITと合流する流れが来ているため、今後どのように変化していくかは不透明です。Anthropic社に対してはamazon社が出資を表明していて、最大40億ドルを提示しています。
さらにAnthropic社はAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)を主要クラウドとする方針です。エンジニアならこの意味がわかると思いますが、AWSを主要クラウドとするということは、Claudeの基盤となるインフラや計算処理に必要なリソースはamazon社が提供するということです。
一方、ChatGPTはMicrosoft社のAzureが基盤となっています。つまりChatGPTとClaudeによる勢力争いは、MicorosoftとAWSによる代理戦争の様相を呈しているのです。
生成AIには他にも有力なサービスとして、Google社が提供を始めたGemini(ジェミナイ)があります。Geminiの精度は私の体感でもGPT-4に劣りますが、Googleマップと連携しているためか位置情報の特定に強いなど、他にはない強みがあります。
生成AIの爆発的普及から1年。まだ黎明期といえるこの業界では、これからも思いがけない形で、突然のブレイクスルーがあり得るかもしれません。
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