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國嶌りょう
2020年2月12日 22:31
「なんかさ、亡くなっちゃったんだって。はやいよね、はやい」 いつもより饒舌な先輩の顔はほんのり赤い。テーブルの上には、もう少しで底をつきそうな赤ワインの瓶とグラス、空になった缶ビールが数缶転がっている。コンビニで買い込んだスナック菓子は、粗方彼女が食べてしまった。残っているのはミックスナッツが少量とさけるチーズが数本。 「ひとつ年上だから、27だよ。やっぱはやいわ」 ぼくは彼女の
2018年12月4日 23:22
彼女は酔うと、昔のことを話し出す。田中くんという、高校時代の同級生の話だ。 「彼は彼の心の中に温室を持っていたの。その温室は広くて、そこは温室というよりも、ひとつの世界だったように思う。どこまでも続いてた。そこには植物があって、動物がいた。濃くてみずみずしい緑の葉っぱを持つ木々があって、猫も犬も野うさぎも、鹿も、熊もいた。そこで彼は暮らしていた」 彼女は元々作家志望だったからか、言葉の扱
2018年10月28日 21:04
彼女は交通事故を起こしてばかりいる。アクセルを踏みすぎては前方車両にぶつかりそうになるし、時には一時停止線のはるか後方で急ブレーキを踏んで停まることがある。(なぜそんなに距離をあけてしまうのか?)並走している車にすれすれになっていたと思いきや、今度はえらく距離を取ってガードレールのほぼ真横をびゅんびゅん走り出すのだから、助手席に乗っているぼくからしたらたまったもんじゃない。 でも、事故
2018年10月24日 00:16
ももの皮を上手にむく方法、みたいなものをわたしは知らない。たぶんひとより知らない。その代わり、でもなんでもないのだけれど、現実からじぶんを切り離す方法をひとつ知っている。「え、どうやって現実からじぶんを切り離すの?」彼女の声は真剣味を帯びていた。秘密にする理由もないので、わたしは正直に、いつものじぶんのやり方を話す。「いろんな方法があると思うけど、わたしがやるのは境界線を見ること」