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光をすくうように

両手ですくってもすくっても、指の隙間からたちまち溢れ落ちていくほど、愛おしい瞬間が次々にやってきている。そこに存在しない幻のようなものを見つめている暇なんて、ほんの束の間の人生にはもう、残されていないのかもしれない。

此処はとてもうつくしい、手に負えないほどに。なすすべがない。私が踊れる人だったら、歌える人だったら、瞬きで写真が撮れたなら、よかったのだけれど。ぴったり表す言葉さえ見つからないまま、また次の瞬間に出会う。だからいつも慌てて、記号のような言葉をノートの切れ端に書き留めている。断片的な愛しい記憶をつなぎ合わせたら、いつか世界へのラブレターみたいな、あるいは長い遺書みたいな、そんなものが出来るだろうか。

素晴らしい人生だと思ってはいけないだろうか。いつかの私にそう問いかけてみたい。永遠はないけれど、一瞬のなかには永遠によく似たものが隠れていることを教えてあげたい。それは砂漠の中から砂金を探すほどむずかしいことではなさそうだよ、と。

しっかりと今を慈しむことが出来ていれば、お祭りみたいな時間が過ぎたあとだって、その一瞬は永遠みたいに心に残るかもしれない。今はまだお祭りの中だから、答え合わせはもう少し先になりそうだけど。

背中の後ろに両手を隠したくなるときは、いつも誰かが手を取ってくれる。ぎゅっと握ったわたしの拳をそっとひらいて、惜しみなくきらきらしたものをのせてくれる。私も同じことが出来るひとでありたい。そのためには、私という器の中をからっぽにしてはいけない。うつくしいものをたくさん、入れていかないと。

臆することなく世界に手を伸ばしたい。味わい尽くすのに人生が足りるかな、と不安になりたい。表す言葉が見つからないね、ともどかしい気持ちになりたい。指の隙間から溢れて落ちていくもので、わたしたちが歩いた場所がきらきら光りますように。

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