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「火のくつと風のサンダル」55〜6年前に読んだ児童文学の傑作のひとつ

小学校の低学年の頃に出会った本で、学研の児童文学全集の中の1冊だったかと思う。この本のことをふと思い出した。

何度も読んだとは思うのだが、割合細かいエピソードまで覚えているのが意外な感じがする。20冊近く家にあったこの全集の中ではそんなにお気に入りの話でもなかったと思うから。

小学低学年のチムは、太っている上に背も低い。(話の中では『デブでチビのチム』となっている。現在はこのまま表記するのがはばかられるよね)そして家も貧しいときている。今風に言えば「自己肯定感が持てない」少年チムは、誕生日のプレゼントとして夏休みにお父さんと共に旅に出ることになる。

そんなチムとお父さんは旅の間、お互いを「火のくつ」「風のサンダル」という新しい呼び名で呼ぶことにする。父が作った赤い靴を履いたチム。新しく生まれ変わるには新しいネーミングが必要ってことね。

いくらなんでもこんな感じではないと思うけど……(笑)

靴職人である父「風のサンダル」は、話が面白くユーモアと知恵がある楽しい人物だ。その父は旅しながら村々の家を回って靴直しの仕事を得、その見返りに家に滞在させてもらう。のんびりした夏休みの旅で、旅の中で出会う様々な出来事や人との触れ合い、そしてユーモアあふれる父との会話でチムは少しずつ成長して行く……。そんな話だ。

今、手元にこの本はありません。思い出して書いているので、細かい部分は違いがたくさんあるかと思います、その点はご容赦下さいませ。

今でも思い出す、この物語の中に出てくる話の一つ「黒いひつじ」のストーリー。

あるところにに1匹の黒いひつじがいた。周りには自分以外には黒い羊はいない。1匹だけ違う毛色のひつじは周囲の仲間から揶揄され、仲間外れにされていてそんな自分をさげすみ嫌っていた。ある時、そんな自分に嫌気がさしたひつじは神様にお願いして自分を他のひつじと同じ毛色にかえてもらおうとした。

天国の最初の門番は黒いひつじを邪険に扱い、門の中に通そうとしなかったが門番がよそ見をしている隙に門を潜り抜ける。2番目の門では黒いひつじを可哀想に思った門番に同情されて門内に通される。だけど最後の門番は黒いひつじを見ると「なんと美しいひつじだ!」と感激してそのひつじを抱き抱えて神様の前に連れて行く。

「神様、あなたはこの世の中の全てをなんて美しく作られたのでしょう❗️きっとあなた様はこの黒いひつじを殊の外お気に入りなんでしょうね❣️」すると神様はただ一言「そうだよ。」とおっしゃった。

物語の内容とは違うけど、顔と脚が黒いひつじちゃん。

それを聞いた黒いひつじはそれから元の仲間の中に戻ったが、もうイジメられても気にしなくなった。「自分は神様に特別に愛されているんだ!」と気付いたから。そうしだしたら周囲もその黒いひつじのことを特別視しなくなり、仲良く暮らせるようになった……大筋でそんな話だったかと思う。

そしてもう一つ「風のサンダル」がチムに話して聞かせる物語に、お終いのない話というのがある。願ったことがなんでも叶ってしまう男の子の話。旅の最中に雨に降られ、泊まらせてくれる農家も見つからずお腹も空いて疲れて不満いっぱいのチムに父が語って聞かせる話だ。

願いがなんでも叶う男の子。とても恵まれている状態なのに、幼い子供が願う稚拙な願いがいちいち願った結末とは別の結果になってしまう、という話だ。「こんな雨降りイヤだ!ずっと晴れの天気が続けばいいのに!」と思うと日照りが続いて大変なことになるし「遠くに旅に出てみたい」と願うと長い外国航路の船に乗って帰りたいのに帰れなくなったり、そんな話。

一つ一つが面白いし、父の知恵とその場で臨機応変に即興で紡ぎ出される話の巧みさは、今思い出しても面白いと思う。

この物語を書いた著者のウルズラ ウェルフェルはドイツの児童文学者。教師だったが夫を第二次世界大戦で亡くし、その後物語を執筆することになったらしい。ドイツが舞台だったことはおぼろげに覚えていたが、著書がこういう人物だったことは初めて知った。

自己肯定感と自己重要感。今よく目にする言葉だ。この物語全体のテーマでもある。コンプレックスだらけの男の子チムは、愛情いっぱいの両親に育てられ、旅先での様々な経験によって成長していく。その過程が楽しいエピソードと共に丁寧に綴られた、優れた児童文学だったと思う。

そして長い旅から帰ったチムは「お終いのない話」のお終いを見つける。「その男の子はその後はなんにも願わなくなりました。」今ある自分が満たされ、十分に愛されている唯一無二の存在だと気づきを得たから……。


あらすじ説明、ネタバレの嵐の内容になっちゃった。今思い出しても楽しい本だった。55、6年前に読んだのにこれだけ覚えているのだから相当何度も繰り返し読んだのだと思う。でもその当時あんまりお気に入りの物語でなかった理由は、主人公のチムの「見た目がイマイチで主人公として感情移入が出来なかったから」のような気がしている。

その頃はまだ低学年の女の子だった自分は、それでも「夢がある憧れの存在の女の子」を主人公にした物語が読みたかったのだろうと思うのだ。





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