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カモガワ奇想短編グランプリ大賞

この度、カモガワGブックス編集室による「カモガワ奇想短編グランプリ」において、自作『窓の海』が大賞を受賞いたしました。
多くの方からお祝いのお言葉をいただき、ありがとうございました。

佳作や入選の経験はありましたが、はじめて一等賞をいただき、喜びとともにホッとしているというか、肩の力が少し抜けたような気分でいます。
受賞作品の概要や選評について、主催の鯨井編集長が丁寧に書いて下さいましたので、ご一読いただければと思います。

このグランプリの募集記事を目にした時、私はちょうど「自分の書いているものは何なのか?」ということを考えていました。

戯曲を書いていた頃から、よく「奇抜なアイデア」「斬新な設定」などと評されることがあったのですが、自分ではあまりその自覚はなく、「ただ思いついたことを書いてるだけなんだけどなぁ」と思ったりしていました。
ひょんなことからショートショートを書くようになり、やはり同じような講評や感想をいただきました。
おそらく、私は現実を原寸大で捉えることが苦手なのだろうと思います。仮定の針を目一杯振りきってみたり、一番遠くにありそうな異質なものをぶつけたりしないと、世界の有り様をうまく把握できないみたいです。
だからどんなに奇妙なことが起きるお話を書いたとしても、私にとっては生活のすぐ隣にあるもの、日常の裏側にペタリとくっついているものを書いている感覚です。なので「奇抜な」と言われると少々大袈裟な気がしてしまうのでした。

とは言え、非現実的なお話を書いている自覚はあります。さすがに。
なので、ずっと自分が書いているものはファンタジーと呼ばれる範疇のものだろうと、そうぼんやりと考えていました。と言うか、それ以外のジャンルが思いつかなかった。
そんな折、好き勝手に書いて出した『幻想と怪奇』ショートショート・コンテストで入選し、幻想はともかくとして「怪奇」という思いも寄らなかった要素が自分のなかにあるかもしれない?と、新たな驚きを得ました。

その頃から「あれ?私が書いているのは何なんだろう?」と、考えるようになりました。

子供時代からの自分の読書歴を振り返ったり、自分と似たような作風(と勝手に自分では思っている)作家の作品に触れたりして、
「もしかしたらだけど、私の書いているものは奇想小説と呼ばれるものに近いものだったりするのだろうか?」
漠然とそんなことを思いはじめたのは、つい最近のことでした。
ちょうどその時、驚くようなタイミングでこの「カモガワ奇想短編グランプリ」の募集記事を目にしました。
私が知るかぎり、「奇想」とついた文学賞やコンテストは他に見たことがありません。
直感的に「これは出さなければいけない気がする」と思いました。
受賞作品は書籍に掲載され、文学フリマで頒布されるというのも魅力的でした。
ショートショートや短編は、入賞入選しても書籍化へ繋げることがなかなか難しいです。私は坊っちゃん文学賞佳作になった三本のうちの一本と、『幻想と怪奇』入選作が各々アンソロジーに収録されましたが、それはとても運が良かったと思っています。
なので、募集時点で掲載を約束している公募は貴重でした。

と言いつつも、じつはこの時点ではカモガワGブックスのことは存じてなくて(すみません!!)、鯨井編集長の経歴を検索させて頂いたところ、偶然にもその時手元に置いていた『紙魚の手帖 』に書評を寄稿されていることがわかり、その場で頁を開いて「わぁこの方だ! 記事を読んでたよ!」とびっくりしまして、それが最後のひと押しとなり、応募を決意したのでした。

何を書こうかなぁとアイデアメモを眺め、そのなかで一番「これを書き上げたとして、どこの文学賞へ出すわけ?」と思うもの、つまりこの奇想短編グランプリでしか受け入れてもらえなさそうなものを拾い上げることにしました。
それが「窓の海」でした。
まだ具体的なストーリーはありませんでしたが、波打ち際から水平線まで敷き詰められた〈窓〉がうねりながら寄せては返す、そのイメージだけがありました。
もしこれで一次選考すら通らなかったら、自分の書いているものが何なのか、さらにわからなくなってしまうなぁコワイなぁ、と思いつつも、堂々と奇想を広げて書けることに伸び伸びした気分を味わいました。
伸び伸びしすぎて、大幅に文字数をオーバーしてしまい、削るのにいまだかつてない苦しい思いをしましたが……
最終選考に残った時には「ああやっぱりこの方向で間違ってはいないんだな」と、とてもホッとしたのを覚えています。
でもまさか大賞に選ばれるとは全然思っていなくて(他の最終候補作のタイトルがみんな凄かった)、大賞のご連絡をいただいた時にはとても驚きました。

自分の書いているもの、書きたいものが「奇想小説」「奇想文学」と呼ばれるに足るものなのか、まだはっきりと確信は持てないのですが、ふわふわと宙に浮いていた足がようやく片方だけ地面に着いたような、今はそんな気持ちでいます。

また今回応募して良かったなと思っている点は、一行梗概&三行梗概を提出することになっていたことです。
長編ではたいてい梗概を求められますが、上限八千文字の短編賞で梗概を、しかも二つのパターンで求められるのは珍しいのではないでしょうか。
この理由について、選評のなかで鯨井編集長が語ってらっしゃいます。

また、応募段階にて一行梗概および三行梗概の提出を求めたのは、SNS時代において、少しでも広く作品へのアクセスを促すためには、作品へのキャッチコピー的な切り取り方を作者自身もある程度心得ておく必要があるのではないか……と考えたことに起因する。Twitterで「〜な話」とともに4ページ漫画の画像が添付され、数千〜万規模で拡散されていることを思えば、短編の範囲においてもこの応用は可能ではないだろうか(実際、三方行成氏の作品など成功例はある)。

(前出記事より抜粋)

なるほど、そのような意図があったのか、と。
もともと私はショートショートを書く時には三行プロットを作っているのですが、それは自分にだけわかるような大雑把なものだったので、他者に向けて一行&三行で概要を伝えるという作業が私自身にとって予想以上に良かったです。
今回もプロットを兼ねて本文より先に梗概を書いたので、物語の背骨がスッと通った感覚がありました。いつも書き出す時はラストは決まっているのですが(決まってないと怖くて書けない)、普段以上に着地点がクリアに見えていた気がします。見えすぎて書き過ぎたけど。
今後も一行&三行梗概は使っていこうかなと思います。ちなみに応募時の梗概はこんな感じでした。

【一行梗概】
さまざまな窓が水平線まで並ぶ〈窓の海〉があらわれた。

【三行梗概】
十年に一度、K海岸には〈窓の海〉が発生する。
窓磨きのバイトに誘われた主人公は、〈窓の海〉がもたらす出会いと別れを知る。
やがて時がきて〈窓の海〉は消え去り、彼の季節も移り変わる。

『窓の海』文学フリマ東京37(11月11日)で頒布予定の「カモガワGブックスvol.4」に掲載されることになっています。
ぜひともお手に取っていただきたく、どうぞよろしくお願いいたします!
出店ブースは【し-57 (第二展示場 Fホール)】とのことです。

鯨井編集長をはじめ、経過を見守ってくれた創作仲間、創作しない仲間の皆さま、本当にありがとうございました。
このカモガワ奇想短編グランプリが、第二回、第三回と続いていくことを奇想ファンのひとりとして心から願っています。

いただいたサポートは新作の取材費用に使わせていただきます。 どうぞよろしくお願いいたします🌙