ルースケース (ショートショート)
明日はじめて海外出張へ旅立つ妻が、スーツケースを二つ買って来た。
「なんで二個も?」
「ルースケースも古くなってたから」
「ルースケース?」
「ああ、あなたはいつも出掛ける側だったから知らないのね。ルースケースは留守番するほうが使うの」
片方を僕に差し出した。
「は?留守番が何を入れるんだ?」
「自分で考えてよ。子供じゃあるまいし」
その言い方にムッとしながら、僕はスーツ……じゃない、ルースケースを開けた。
いきなり、ヨボヨボの老人が飛び出した。
驚いて叫ぶ。
「じいちゃん!?」
それは亡くなった祖父だった。
ケースから別の老人が飛び出した。
こっちは曾祖母だ。
さらに老人、老人、ちょっと若い人、また老人……
「なんだよこれ!」
妻は慌ててレシートを確認すると、テヘッと笑った。
「ごめん。間違えて『ルーツケース』買ってきちゃった」
翌朝、リビングに溢れる自分のルーツとともに、僕は妻を見送った。
「旅」というテーマで書いたお話です。
ショートショートガーデン・プチコン参加作品。
(noteで読みやすいように体裁を整えています)
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