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侵略少女エクレアさん(7)

 僕は、香月さんの怪我が治るまでエクレアとアパートで待つことにした。
 エクレアの話ではあのアロハシャツの男はザラアースの諜報員でこの地区の担当責任者らしい。
 その男が、香月さんを連れてくる段取りらしい。

 さすがにエクレアも疲れたのであろう、エクレアは僕のアパートに着くなり、僕の秘密の部屋を勝手に開けると、万年床の布団に潜り込んだ。
 布団の下に隠してある、秘密の本がバレないか、ドキドキだったけれど、心配は無用だった。
 そのあとすぐに、エクレアの寝息が聞こえたのだ。

 布団で頭を隠して寝入るエクレアの、そのあどけない姿を見ていると、異星人とか、地球人とか、そんなこと、どうでもよくなってきた。

「はっ……」
 と目を開けると、エクレアが何かを訴えるような目つきで僕を覗き込んでいた。

 しまった……。いつの間にか寝てしまってようだ。

 枕元に置いてある目覚まし時計を見ると、午後7時を回っていた。

「やっと起きた」
 とエクレアが頬を膨らます。

「ごめん、眠ってしまったらしい……」
 言いながら体を起こすと、エクレアが僕の片腕を掴んだ。
「ね、ね、お腹すいた」


「おいしい! 茶色くて、うねうねしていて、見た目は悪いけど、これ、おいしいわ!」
「エクレア、それは、焼きそばです」
「それにこっちの、黄色いドロドロ、最初は、アレかと思って、引いたけど、スパイスと香辛料が絶妙で、お米を炊いた白飯と一緒に食べると、最高ね!」
「エクレア、それは、カレーです。間違っても、アレとか言わないでください。周りで、カレーを食べているお客様に、迷惑です」

 僕は、エクレアが「地球の、何か美味しいものを喰わせろ」と言うので、近くのファミレスに入った。
 ガツガツと、焼きそばとカレーを頬張るエクレア。
 僕はその様子を見ながら、エクレアと篠原の喧嘩を思い出す。

「ねぇ、エクレア、どうしてカスパーゼとザラアースは、戦っているのかな?」
 信じたくはないけれど、篠原がエクレアを見て、ザラアースのスパイと言ったことは事実。
 地球人が、そんなことを言うわけがない。
 だいたい、ザラアースという星がどこにあるのかすら、知らないはずだ。
 だとすれば、やっぱり篠原は、カスパーゼから来た異星人なのだ。
 カスパーゼのことについて、もっと知りたい。

「別に戦争はしていないわ。お互いに地球を調査しているだけよ。でも敵対していることは確かね。冷戦状態ってやつよ。地球侵略は両星にとって、利益があるようだから」
 エクレアは、カレーセットで付いていたコーヒーを飲みながらそう言った。

「だけど、篠原は妹が、ザラアースに誘拐されたって、怒っていたようだけど」
「単なる言いがかりよ。地球で行方不明になる諜報員は、けっこういるのよ。その大半は地球が好きになって、任務を放棄するの。アルトも、そうだったんでしょ?」

 やっぱり僕をまだ、地球人として認めていないか……。
 まぁ、この誤解は香月さんが戻ってきてから、解くことにしよう。
 今、無理に誤解を解くと、エクレアが逆ギレして、香月さんを宇宙船に乗せたまま、帰ってしまう可能性も、あるからね。

「えっと、それじゃ、篠原の妹は、誘拐されたんじゃなくて、地球で任務を放棄した可能性もあるのか」

「恐らく、そんなとこよ」

「そっか、それを聞いて安心したよ。今度、篠原に会ったら、そう言ってやろう」
 この言葉を聞いたエクレアが、ドンとコーヒーカップをテーブルに置いた。

「アルト、あんた何を言っているの? あんなカスパーゼ人に、そんなことを言う必要なんか、ないでしょう? それに、あの地球人の怪我が治ったら、あんたはあたしと一緒に、帰るのよ。ザラアースに!」
 エクレアは、物凄く興奮していた。

「……そ、そうだね」
 笑ってごまかす。

 気まずい……。

 何げなく、メニューを開く。

「あっ、そうだ! エクレア、デザート、何か注文する?」
「デザート? デザートってなに?」
 エクレアの瞳が輝いた。
「あっ、わかったわ! 食後に食べるスイーツやお菓子のことね! もちろん注文するわ! メニューかして!」
 そう言って、僕からメニューをぶんどると、ふんふんと鼻歌を歌いながら、メニューを見始めた。

 10分後、テーブルの上に、バナナとマスカットとイチゴで飾られた巨大フルーツパフェ、そしてチョコレートケーキ、アイスティラミス、カラメルソースたっぷりのプリン、さらになぜか、ハンバーグステーキとピザが、所狭しと並んだ。
 デザート以外も、混じっているよ。

「エクレア、一応訊くけど、全部、食べられるよね?」
「もちろん!」
 元気に宣言した。

 三分後。

「もうだめ、食べられない……」
 テーブルに突っ伏すエクレア。
 全てのデザートと料理に、ひとくちだけ口をつけて、お腹が一杯になったようだ。
「それ見ろ! だから忠告したのに! どーするんだよ! これ!」
「うるさいわね……。アルト、食べてよ。男でしょ……」
「無理です!」
「いつからそんな情けない男になったのよ。昔は、あたしの食べ残し、喜んで食べてたくせに」
 ……そんなアルトは、イヤだな。

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