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侵略少女エクレアさん(5)

「そんな卑怯な手を使う、ザラアースを、俺は、絶対に許さない」

 篠原は、怒りを押し殺すようにそう言った。

「あと、俺はおまえに謝らなければならない。俺は、地球人じゃ、ない」

 えっ?

「俺は、地球から8万光年離れた、カスパーゼからきた。……今まで、騙していて、すまない」

 それって……、篠原が、異星人だってことなのか?

「篠原、本当なのか?」

「本当だ」

 ショックを受けた。
 高校に入って、最初に友達になった篠原が、異星人だったなんて……、信じたくない。
 けれど、エクレアのこともあるし、本当なのかもしれない。

「そんなこと、僕にしゃべって、大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。おまえが、俺が異星人だ、と誰かにしゃべったところで、誰も信じねーよ」

 確かに……、そうですね。

「そこで何をしている!」

 怒鳴るような大声がした。
 篠原の後ろに、急ぎ足で近づいてくる二人の警察官が見えた。

「君達、今、ケンカをしていただろう!」

「やっべ、」

 篠原は警察官を見るなり体を半回転させて、スクールバッグを拾うと、一目散に駆けだした。

「おい、こら! 逃げるな――!」

 警察官のひとりが、篠原を追いかける。

「おい、君! これはどういうことだ? 納得できるような説明がないと、署まで、きてもらうよ」

 もうひとりの警察官が、首を傾けて殺気を僕に向けていた。
 うわ――、どう説明したら、いいんだよ! エクレアは空き地で倒れているし……。誰か、助けて。

「ハイハイ、そこまーで、デス! 君達、よかったデース! 名演技だったデスヨ!」

 ヘンな日本語をしゃべりながら、チャラい声の若い男が僕に近寄って来た。
 その男、茶髪でマッシュボブ、大きな丸いサングラスをかけて、顎が細い。
 派手なアロハシャツに、真っ白なズボン。どこから見ても、ちょー怪しい人だ。

 ギロリと、警察官がアロハシャツの男を睨む。

「誰ですか、あなたは?」

 アロハシャツの男はニッと白い歯を見せると、腰を90度に折って警察官に名刺を差し出した。

「ワタクシ、こーゆーものでして、自主製作映画の、マ、ネージメントをしておりマース」

 そのしゃべり口調、なんか、イラつく。

「自主制作映画? そんな許可は、知らないぞ」

「そんなハズはありませーん。ほーら、これが、区役所からもーらった、撮影許可証デース!」

 アロハシャツの男は、ひらりと一枚の紙切れを警察官に見せた。

「本物の、許可証だ……」

 警察官はまじまじと許可証を見ながら、さらに質問を続ける。

「じゃ、カメラは、どこにある?」

「ハーイ、あそこデース!」

 と天に向かって指をさす。
 大空に一機、ヘリコプターが飛んでいた。
 僕には、ナゾの光の正体を取材しにきた、テレビ局のヘリコプターのようにしか見えませんけど。

「ヘリコプターから撮影? 自主制作にしては、やけに金かけているな……。じゃあ、あのヘンな光や、車に跳ねられた少女も、映画のトリックだと、いうのか?」

「ハーイ、ヘンな光は、しっりまセーン! しかし、あの少女は、精巧に、作られた、ロボットなのデース!」

「ロボットだと? 血が出ていたぞ?」

「ハーイ、あれは、血のりなのデース。ショックを与えると、自動的に、ドバッと、出るように、なってマース! ドバッと、ネ!」

「……じゃ、なぜ消えた?」

「消えた? 何を言っているのデースかぁ? 少女型ロボットなら、ホーラ、あそこデース!」

 アロハシャツの男が、ある方向に指をさした。
 救急車のそばに生えている大きな木の根っこに、白シャツにグレーのプリーツスカートを着せられた少女の人形のような物体が、転がっていた。
 大きな草が生い茂り、ちょっと見えにくい場所だ。

「担架から、おっこちた、ヨーデスネェ」

 アロハシャツの男が、両の手のひらを上に向けて、ニッと白い歯を見せる。

「ちっ、全く、人を騒がせやがって! 一応、あのロボット、調べるからな!」

 警察官は、許可証をアロハシャツの男に突き返すと、釈然としない顔で咳払いをした。

「もう今日は、映画撮影は中止にしてください。騒ぎが大きくなっている。いいですね!」

 気が付くと、僕達の周りに人だかりができていた。

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