![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/92889792/rectangle_large_type_2_2322d9ac9e2335c8157ba25a57f73e45.png?width=800)
侵略少女エクレアさん(5)
「そんな卑怯な手を使う、ザラアースを、俺は、絶対に許さない」
篠原は、怒りを押し殺すようにそう言った。
「あと、俺はおまえに謝らなければならない。俺は、地球人じゃ、ない」
えっ?
「俺は、地球から8万光年離れた、カスパーゼからきた。……今まで、騙していて、すまない」
それって……、篠原が、異星人だってことなのか?
「篠原、本当なのか?」
「本当だ」
ショックを受けた。
高校に入って、最初に友達になった篠原が、異星人だったなんて……、信じたくない。
けれど、エクレアのこともあるし、本当なのかもしれない。
「そんなこと、僕にしゃべって、大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。おまえが、俺が異星人だ、と誰かにしゃべったところで、誰も信じねーよ」
確かに……、そうですね。
「そこで何をしている!」
怒鳴るような大声がした。
篠原の後ろに、急ぎ足で近づいてくる二人の警察官が見えた。
「君達、今、ケンカをしていただろう!」
「やっべ、」
篠原は警察官を見るなり体を半回転させて、スクールバッグを拾うと、一目散に駆けだした。
「おい、こら! 逃げるな――!」
警察官のひとりが、篠原を追いかける。
「おい、君! これはどういうことだ? 納得できるような説明がないと、署まで、きてもらうよ」
もうひとりの警察官が、首を傾けて殺気を僕に向けていた。
うわ――、どう説明したら、いいんだよ! エクレアは空き地で倒れているし……。誰か、助けて。
「ハイハイ、そこまーで、デス! 君達、よかったデース! 名演技だったデスヨ!」
ヘンな日本語をしゃべりながら、チャラい声の若い男が僕に近寄って来た。
その男、茶髪でマッシュボブ、大きな丸いサングラスをかけて、顎が細い。
派手なアロハシャツに、真っ白なズボン。どこから見ても、ちょー怪しい人だ。
ギロリと、警察官がアロハシャツの男を睨む。
「誰ですか、あなたは?」
アロハシャツの男はニッと白い歯を見せると、腰を90度に折って警察官に名刺を差し出した。
「ワタクシ、こーゆーものでして、自主製作映画の、マ、ネージメントをしておりマース」
そのしゃべり口調、なんか、イラつく。
「自主制作映画? そんな許可は、知らないぞ」
「そんなハズはありませーん。ほーら、これが、区役所からもーらった、撮影許可証デース!」
アロハシャツの男は、ひらりと一枚の紙切れを警察官に見せた。
「本物の、許可証だ……」
警察官はまじまじと許可証を見ながら、さらに質問を続ける。
「じゃ、カメラは、どこにある?」
「ハーイ、あそこデース!」
と天に向かって指をさす。
大空に一機、ヘリコプターが飛んでいた。
僕には、ナゾの光の正体を取材しにきた、テレビ局のヘリコプターのようにしか見えませんけど。
「ヘリコプターから撮影? 自主制作にしては、やけに金かけているな……。じゃあ、あのヘンな光や、車に跳ねられた少女も、映画のトリックだと、いうのか?」
「ハーイ、ヘンな光は、しっりまセーン! しかし、あの少女は、精巧に、作られた、ロボットなのデース!」
「ロボットだと? 血が出ていたぞ?」
「ハーイ、あれは、血のりなのデース。ショックを与えると、自動的に、ドバッと、出るように、なってマース! ドバッと、ネ!」
「……じゃ、なぜ消えた?」
「消えた? 何を言っているのデースかぁ? 少女型ロボットなら、ホーラ、あそこデース!」
アロハシャツの男が、ある方向に指をさした。
救急車のそばに生えている大きな木の根っこに、白シャツにグレーのプリーツスカートを着せられた少女の人形のような物体が、転がっていた。
大きな草が生い茂り、ちょっと見えにくい場所だ。
「担架から、おっこちた、ヨーデスネェ」
アロハシャツの男が、両の手のひらを上に向けて、ニッと白い歯を見せる。
「ちっ、全く、人を騒がせやがって! 一応、あのロボット、調べるからな!」
警察官は、許可証をアロハシャツの男に突き返すと、釈然としない顔で咳払いをした。
「もう今日は、映画撮影は中止にしてください。騒ぎが大きくなっている。いいですね!」
気が付くと、僕達の周りに人だかりができていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?