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「鹿鳴館の夜」、祖父による最後の案内状 (16)

〜ヴィクトリア女王時代のイギリス料理〜

日増しに秋も深まり、紅葉の美しい頃となりましたが、皆様方には益々御清祥のことと御慶び申し上げます。

「鹿鳴館の夜」大晩餐会も回をかさね16回を迎えました。20数年前1町ロンドンといわれた丸の内の煉瓦建築が次々と取り壊されていた頃、大正初期生まれの私自身のノスタルジーから、敢えて後期ヴィクトリア女王時代の宮廷メニューを参考とし、これを現代風にアレンジしてみました。元来英国の食卓はローマ時代から中世迄、野生豊かな、所謂野蛮食でありました。

強大な海軍力によって世界制覇をなしとげ、各地に植民地を持つ様になった頃から、この国周辺から取れる新鮮な材料と、領有した世界各地から集まる珍味や香辛料などを用い、フランスなどの影響もあり、英国独特で豊かな食文化を作るようになりました。これにともなって、世界一といわれる銀食器や陶器を生んで、英国人の好む貴族クラブなどの食卓を賑わせるようになったのです。

何卒19世紀英国の香高いクレッセント・ハウスに皆様お揃いで御来駕賜り、数々の英国料理をご賞味なさりつつ、秋の夜長を存分にお楽しみ下さいます様、ご案内申し上げます。

平成3年10月

クレッセント・ハウス主人 石黒孝次郎

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鹿鳴館の夜、祖父による最後の案内状です。この後祖父は体調を崩し入院、心筋梗塞でかえらぬ人となりました。

平成4年からは祖父にかわって母が代表を継ぎ、鹿鳴館の夜は引き続き秋の催しとして開催されます。

鹿鳴館の夜は、一つの時代を生み出したと言ってもいい場でした。これを始めた頃に、ロンドンの街並みのようだといわれていた丸の内の煉瓦建築が次々と取り壊され美しい風景が無くなってしまったことから、そんな風景のノスタルジーがこの催しを生み出したとも言えるのかもしれません。

ノスタルジーから生まれる新しいもの。新しい時代は、つねに、2度と帰らぬ前の時代からの思い出を一つ一つ丁寧に拾い上げながら、次の時代へと渡していく、そんな思いをのせて生まれてくるもの。今の時代の中でも、きっとそうなのだと思います。


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