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「最強伝説黒沢」を「ちゃお」に載せようとしたら、どんな漫画になるのか【前編】

(追記)後編更新しました!


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このnoteにおける私の目指すところは「『最強伝説黒沢』の要素と『ちゃお』のような少女漫画雑誌のルールをそれぞれ理解し、『黒沢』の要素をルールの中に落とし込むこと」だ。

そのために以下の構成で進めていくが、前編である本記事では、(2)までを書いた。

(1)はじめに
(2)『黒沢』を構成する要素
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(3)少女漫画雑誌のルール
(4)『黒沢』の要素を持った少女漫画の結論
(5)所感

(1)はじめに

最近、『最強伝説黒沢』を読破した。


『最強伝説黒沢』(以降は『黒沢』と表記する)とは、『賭博黙示録カイジ』、『アカギ 〜闇に降り立った天才〜』などの著者、福本伸行先生が書く漫画作品であり、Wikipediaに載っている作品の特徴は以下のようなものだ。

(前略)この作品では冴えない中年男を主人公に据え、日常的な悩みや人間臭いエピソードを中心とした、哀愁とギャグ・コメディを交えたストーリーが大きな特徴である。さらに、バトルシーンの要素が多いのも異色で、その格闘理論は作者の得意分野である勝負事の駆け引き描写や、格闘技経験(キックボクシング)がいかんなく発揮されている。(Wikipedia「最強伝説 黒沢」の項より引用)

この概説に惹かれた人はぜひ読んでみてほしい。(今ならamazon prime会員なら無料で読めるぞ!)

主人公である冴えない中年男性、黒沢。独身・彼女なし・友達なし・職場でも浮いている男である彼の物語だ。
ウィキ内でのジャンルも「人情、バトル、コメディ、青年漫画」とされており、「まあこれは成人男性にしかウケんよなあ」という漫画だ。
もちろんこれは揶揄ではない。
**
「刺さらない層にはとことん刺さらないが、刺さる層には強烈に刺さる。」**

私にとって『黒沢』はそういう漫画であり、私を含めた「黒沢が刺さる層」にとっては「こんなにピンポイントに心に訴えてくる漫画は無い」と思わせてくれる。
『黒沢』は、それくらい尖った魅力のある漫画なのだ。

そんな尖った漫画を読破した時、私の中に一つの問いが立った。

「『黒沢』の要素を持った漫画を、黒沢が刺さる層とは正反対のところに位置する少女漫画雑誌に載せようとしたらどんな漫画が生まれるのだろうか」

というものだ。

『黒沢』と『ちゃお』とか『りぼん』のような少女漫画雑誌。
読んだことのある人なら、相容れない存在であるとすぐにわかるだろう。

だが、こんなわけの分からない問いのパワーに駆られ、私は今こうして文章を書いている。

冒頭でも述べたように、「『最強伝説黒沢』の要素と『ちゃお』のような少女漫画雑誌のルールをそれぞれ理解し、『黒沢』の要素をルールの中に落とし込むこと」を目指すため、『黒沢』の要素と少女漫画雑誌のルールを紐解くところから始めようと思う。

(2)「最強伝説黒沢」を構成する要素

『黒沢』を『ちゃお』に載せるため、まずは『黒沢』を深く知る必要があるだろう。
『黒沢』という漫画を分解し、構成する要素・主張を考えてみた。

私が6時間かけて読破した結果、『黒沢』から感じた魅力、要素を大別すると以下の4つだ。
(本当は4つなんかにまとめきれないくらいの魅力が黒沢にはあるが、大きな4つをピックアップした。これ以外にもたくさんの魅力を孕んだ作品なので、未読の方はぜひとも読んでみてほしい。)

①積み重ねてこなかった人生への後悔と、積み重ねている人間への嫉妬
②やることなすことの報われなさ
③ダサい人間の魅せる、ダサい意地の気高さ
④「真剣(ガチ)になること」こそが「生きること」であること

ここからはこれら4つの要素を一つずつ解説していく。
ただ、今回の目的は黒沢を紹介することでは無いため、軽い解説に止める。
何度も言うが、気になる人はぜひ作品を読んでほしい。

①積み重ねてこなかった人生への後悔と、積み重ねている人間への嫉妬

これは主人公黒沢の抱える様々な悩みの根底にあるものだと私は思っている。
黒沢には「人生は積み重ねたものの結果である」という描写が至るシーンでされている。
勉強、出世、恋愛…など積み重ねるべきとされるポイントは多岐に渡るが、その全てを積み重ねてこなかった黒沢は、
積み重ねてきた人間の充実した人生と、自身の人生を比べ自分の空っぽさに悩むシーンが散見される。
ちなみに1巻の1話からこの悩みを語るシーンがある。

画像1

(サッカー日本代表と自身を比べ、黒沢が自分の人生の空虚さに気づいてしまうシーン。『最強伝説黒沢』1巻より引用)

②やることなすことの報われなさ

そんな積み重ねてこなかった黒沢が奮起するのがこの『黒沢』という漫画だ。
仲間、人望、恋など今までの人生で得られなかったものを得ようと色々と行動を起こすが、そのほとんどがうまくいかず空回りで終わる。
そんな黒沢の報われなさ、悲哀も『黒沢』を構成する大切な要素である。
有名なシーンでは、黒沢が務める建設現場の仲間の弁当にアジフライをこっそり差し入れするシーンがある。

画像2

(『最強伝説黒沢』1巻より引用)

③ダサい人間の魅せる、ダサい意地の気高さ

①②のように日常では不甲斐ない姿を読者に見せ続ける黒沢だが、胸の奥には漫画の主人公らしい気高い精神を持っている。
黒沢が不良中学生にバットでボコボコにされるというシーンでは、「殺されたくなければ、土下座をしろ」と命令された時、どうしても頭を地面につけることができず

「あやまらないことによって…!何を守っている…?それは命よりも大切なものなのか…?」(『最強伝説黒沢』2巻より引用)

と、命と自身のプライドとの間で葛藤し、最後まで頭をさげずに自分プライドを守り通す。
このシーンのような「自分だけの失ってはいけない誇り」を守り抜く気高さも黒沢の魅力の一つだ。
次に解説する④と合わせ、人間讃歌をテーマとする「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズに通じるところを感じる。

画像3

(『ジョジョの奇妙な冒険』第2巻より)

④「真剣(ガチ)」になることこそが「人間として生きること」であること

③とかぶるところがあるが、黒沢では「『人間として生きること』とはどういうことか」と問うシーンも多く見られる。
これまでの人生を、将来のことを見て見ぬ振りし、なんとなく生きてきた黒沢にも「戦わないといけない場面」がやってくる。
作中では「俺の桶狭間」と表現されていたこのシーンから始まる最終章、ホームレス編で、黒沢は「人間として生きること」をこう表現している。

「損得だけで生きて何になる…?ましてや安楽…そんなことはミジンコ…
違うっ 違うっ…!そうじゃないっ…!
オレ達人間は…人間ってのは…それ以上の…何かだろう…!それ以上の何か…つまり…人間を…人間たらしめている……

心…!感情がある…!」(『最強伝説黒沢』11巻より引用)

このセリフには続きがあるが、それはぜひ作品を読んで、直接見てみてほしい。

このセリフのように『黒沢』では「ただ生きていること」を否定し、「何か『自分の桶狭間』にむけ、死ぬ気で、真剣に向かっていくこと」こそが人間として生きていくことであると主張している。


これが私の思う『黒沢』を構成する4つの要素だ。
少女漫画に詳しいわけではないが、今まで私が読んだことのある「所謂な少女漫画作品」には見られない要素ばかりだ。
見るだけで中年男性の汗臭さが漂ってくる。

これら4つの要素を①.②を「日常編」、③.④を「非日常編」とし、それぞれを一言でまとめると

「日常編」の『黒沢』は

「社会的カースト下位のおっさんが、カースト上位の層に嫉妬しながら人望を得るため奮闘するも、報われない生きづらさを味わう物語」

「非日常編」の『黒沢』は

「ときに訪れる勝負の場で、いつもダサい主人公の奮い立つ姿が胸を打つ物語」

と言えるだろう。

後半への展望

後編ではこの『黒沢』の要素を踏まえ、それを少女漫画雑誌のルールに落とし込むため、「少女漫画雑誌のルールを知ること」と「『黒沢』の要素を少女漫画に置き換える」という2点から、「『黒沢』を少女漫画にしたらどうなるのか」という問いの答えに近づいていこうと思う。

(後編はこちら)


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