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【マッスル・イン・ザ・ファクトリー】 6 (忍殺TRPGソロアドベンチャーシナリオ3より)

前回までのあらすじ:突如連絡を絶ったヘルカイトを追い、サポートドロイドD6と共にザイバツのアジトへと乗り込んだソウカイニンジャ、プレートメイル。49階を探索した彼はついに捕らわれていたヘルカイトを救出し、さらにザイバツの機密情報をも得る。だがそこに新たなニンジャがエントリーし・・・

【マッスル・イン・ザ・ファクトリー】 6

「ドーモ、ブラックドラゴンです」

ブラックドラゴンと名乗ったニンジャはアイサツを終え、プレートメイルを見据えた。爬虫類を思わせるその黒い目からは何の感情も窺えない。 (グフ・・・これは・・・) アイサツを返さねばならぬ状況であったが、まるでカナシバリ・ジツを受けたかのように彼の体はモスト・マスキュラーの姿勢のまま動けなかった。

「大変です!ブラックドラゴンといえば、ザイバツ・シテンノの一人!勝てる相手ではありません!」 動けぬ彼の耳元で、D6が警告の赤色LEDを激しく明滅させながら囁く。 (シテンノ・・・?) ザイバツには位階制度があることは聞いていたが、プレートメイルは詳しいことを知らぬ。知らぬが、目の前のニンジャが決してサンシタではないことは対峙しているだけでイヤでも理解させられた。

構えすら取っていないにも関わらず、その体から発せられる恐るべきカラテ。決して大柄とは言えぬ体格ながら、装束から覗く腕からわかるみっしりと詰まった筋肉。メンポの端から覗く黒い鱗からは何らかのバイオサイバネ手術を受けたことが窺えるが、それは鍛えられた筋肉と美しく調和し、筋肉全体のバランスをこの上ない完成度に仕上げていた。

(グフ・・・先ほどのヘルカイト=サンの筋肉と比べてなんら見劣りのせぬ・・・あるいは上回るほどの美しさ!) このブラックドラゴンこそがヘルカイトを捕えたニンジャに違いあるまい。D6の言う通り、サンシタのプレートメイルが勝てる相手ではないのは確実だった。

「グフフーッ・・・ドーモ」 プレートメイルはモスト・マスキュラーの構えを解き、リラックスポーズを取る。 「プレートメイルです」 そこからサイド・チェストに繋ぎ、そして 「こちらはサポートドロイド、D6=サンです」 センセイの紹介をした。

D6はプレートメイルの体を衛星めいて旋回した後に右肩の上に静止。まずオムラ社エンブレムの面を向け、雷神紋を稲妻めいて青白くLED発光。続いてソウカイヤ紋の刻まれた面を向けると、「キ」「リ」「ス」「テ」の文字を順に紫色点灯させ、最後にクロスカタナを黄金色に光らせた。敵対ニンジャ存在に対する威圧的アイサツだ。

アイサツを返し終えると、プレートメイルは時間を稼ぐため、あわよくば相手の撤退を誘うために口を開く。「グフフ・・・ブラックドラゴン=サン。すでに私はソウカイヤへと救援要請を済ませた。今にも増援が到着するであろう。ここは退いた方が貴公の」 「イヤーッ!」 「グフッ!?」 ブラックドラゴンは一切耳を貸さず、恐るべき連続側転で一瞬で距離を詰める! (グフン!モンド・ムヨーか!) そして情け容赦ないカラテを浴びせる!

「イヤーッ!」 「バルク・・・ッ!?」 繰り出された左カラテストレートをステップを踏んで回避に成功!成功? (グフッ?意外にキレが無いワイ) さてはヘルカイトとのイクサで相応の負傷を?そう考えたプレートメイルの考えは、引き絞られた右腕の筋肉を見て改められた。(フェイント) 回避させ、 (姿勢を崩し) 本命を確実に当てるための!

固く握り締められた拳から放たれるのは殺すためのカラテ。崩れた姿勢のまま当たればプレートメイルの体など容易に破壊するだろう。 「イヤーッ!」 引き絞られた右腕の緊張が解き放たれ、致死的ストレートが放たれた。

迫る死を前にプレートメイルのニンジャアドレナリンが分泌。ニューロンが加速して主観時間が泥めいて鈍化し、カラテストレートが彼の左胸に向かう軌道がハッキリ見えた。それは直撃と共に筋肉を破り、肋骨を砕き、心臓を潰し、そのまま背中に突き抜けるはずだ。つまり、確実に死ぬ。

何とか逃れようと防御姿勢を取ろうとするも、体は思考ほど素早く動かない。じわじわと迫る死を目で追うことしかできないプレートメイルのニューロンにソーマト・リコール現象めいて思い起こされたのは、今まで彼が行ってきた反社会的ポージングの犠牲者達の姿だった。

((ヤメテ)) ((家に帰して)) ((ゴボボーッ)) 恐怖し、嘔吐し、失禁し、発狂し、自殺していった人々の苦痛に満ちた声が聞こえる。体が動かぬのは彼らが手足を押さえつけているせいではないかと感じた。 ((お前の番だ)) ((苦しめ)) ((インガオホー)) 怨嗟の声はノロイめいて彼の体と精神を縛り、死のカラテを受け入れさせようと・・・

回避ダイス6=3:3で分割
一回目:3,3,4 成功 二回目:1,2,4 成功

「バルク!」 「ヌゥッ!?」 プレートメイルは左半身を迫り出すようにしてサイド・チェスト!心臓を狙った右ストレートは突き出された左腕の筋肉に受け止められた! (グフフーッ!死ねぬ!私は、まだ!) 「イヤーッ!」 続いて繰り出される左ストレート! 「バルク!」 右のサイド・チェストでガード!ゴウランガ!ハガネの強度とゴムの柔軟さを持ち合わせる彼の筋肉は、致死的カラテストレート二連打を防ぎきったのだ!

(そうだ・・・死ねぬのだ、彼らのためにも!) プレートメイルには犠牲者達の苦痛の表情と怨嗟の声が今やハッキリと見え、聞こえていた。自分を恨み、苦しみ抜いた彼らのことを考えるだけで、彼の体の奥底から信じられぬほどのカラテが湧いてくる!

(グフフ・・・この筋肉は多くの犠牲者の上に成り立ったもの。そして恥ずべきことに、我が筋肉はその犠牲に報いるほどのレベルに達してはおらぬ) 前ミッションのテンプルでブッダ像へポージングを挑み、完敗を喫したことを思い出す。 (あのブッダ像をポージングで屈服させられるようになれば、その時こそ我が筋肉の完成。それに至らず死んでしまっては犠牲となった人々へのハナムケにならぬワイ!)

プレートメイルは筋肉以外に価値を見出さず、あらゆる物事は筋肉が優先すると考えている。ゆえに彼の身勝手な反社会的ポージングで犠牲となった人々への謝罪と責任の取り方は、自らの筋肉をより鍛えることしかないと信じて疑わぬ。

罪悪感がプレートメイルの良心を責め苛み、悔悟の涙を流そうとも、彼は決してケジメやセプクなどしない。それでは責任を取ったことにならぬからだ。責任を取るにはより筋肉を鍛え、ポージングを続けるしかない。そして犠牲者は増え続け、さらに筋肉は鍛えられ、ポージングが行われ、犠牲者が出る。悔悟と責任と筋肉のトモエめいた永久機関である。

((お前も死ね)) ((なんで私が)) ((呪われろ)) 犠牲者の怨嗟がプレートメイルのニューロンに響く度に、彼の心に悔悟と責任感が生まれる。それは良心の炉にくべられ、カラテの火を燃やし、筋肉をハガネめいて熱し鍛える!ナムアミダブツ!なんたる犠牲者の怨嗟を都合よく利用するワガママな筋肉本位思考か!彼は狂ってはいない!ネジが外れているのだ!

「死ねぬのだーッ!」  プレートメイルは右腕に受けた衝撃を利用して体を捻らせる!目線の先にはヘルカイトが飛び立った窓!D6はすでに窓の外、誘導するようにLEDを明滅させている!

いかに覚悟のカラテがあろうとも眼前のニンジャとの筋肉力量差は歴然。 「キューソーは猫を噛んだら殺す」というミヤモト・マサシのコトワザも今は意味を成さないだろう。相手は猫でなくドラゴンであり、竜の鱗に歯が通らねばアナフィラキシー・ショックも起こるまい。死なぬためには逃げるしかない! 「バルク!」 連続側転を試みる!

ワザマエ判定:3,2 失敗
回避ダイス6=3:3で分割 一発目:2,3,4 成功 二発目:3,4,1 成功

「グフーッ!?」 ALAS!連続側転失敗!ワザマエ不足を露呈して仰向けに倒れるプレートメイル! 「ブザマな!イヤーッ!」 ブラックドラゴンは天井ぎりぎりまでジャンプして一回転、プレートメイルの無防備な腹部に右足ストンピングを突き刺さんとする!ナムサン!腹部貫通か!?

「バルク!」 だがプレートメイルにとって腹部は急所にあらず!回避は不可能と判断した彼は即座にブリッジを決めて両足と首の筋肉にカラテを込める! 「ヌゥッ!?」 極限まで緊張させた腹筋がブラックドラゴンの右足を見事に受け止めた!

「コシャク!イヤーッ!」 ブラックドラゴンは左足でのストンピング! 「バルク!」 プレートメイルは再び腹筋で受ける!さらに受けた衝撃を両足と首の筋肉で吸収し、ブリッジ姿勢のままバネめいて跳ねた! 「バルク!」 「ヌウーッ!」 弾き飛ばされるブラックドラゴン!カジバヂカラ!プレートメイルはそのまま窓に突進した! 「グフフフーッ!!」

KRAAAAASH!プレートメイルは49階の窓をつき破り、重金属酸性雨が降りしきる夜のネオサイタマへと飛び出した! (グフ、助かっ・・・!?) 一瞬の安堵は背後からのただならぬ殺意で消え去る。振り返る彼の目に映ったのは、今まさに追撃のトビゲリを放たんと床を蹴るブラックドラゴンの姿!

▶︎助けた

再びニューロンが加速。全体重と加速を乗せたトビゲリ。先ほどのカラテストレートとは比べ物にならぬ威力。加えて空中では踏ん張ることも出来ず衝撃を殺すことも難しい。ならばムテキ・アティチュードを使えば?そう考えた時には、蹴り足はすでに目の前に迫ってきていた。間に合わぬ・・・!

「イヤーッ!」 「グワーッ!?」 眼前に迫っていた死のトビゲリはしかし、横合いから突進してきた白い影によって防がれた。ヘルカイトのインタラプトである!痛烈なカウンターを食らったブラックドラゴンは吹き飛ばされ、再び49階の部屋へと戻された。

落下していくプレートメイルとヘルカイトの視線が一瞬だけ交錯した。ヘルカイトはすぐさま目を逸らし、廃工場を見やって「借りは返したぞ」と呟いた。

(グフフ・・・ゼン・・・) 自分では足元にも及ばぬカラテ強者の筋肉の躍動を間近に見たプレートメイルは、この感動的光景をニューロンに焼きつけようと (グフッ!そうだ!それどころではないワイ!) ブラックベルトに手を伸ばし、フロッピーディスクを掴む!ザイバツの機密情報だ!

「ヘルカイト=サン!」 プレートメイルは叫び、ヘルカイトに向かってフロッピーをスリケンめいて投げる! 「それにザイバツの機密が!」 低いワザマエで放たれたフロッピーはまるで見当違いの方向へと飛んだが、ヘルカイトは巧みにカイトを操って難なくキャッチした。 「ラオモト=サンに!お急ぎを!」 落下していくプレートメイルに向かって小さく頷くと、ヘルカイトは風を捕えてジェットの如き速さで飛んでいった。

(グフフーッ、これで一安心だワイ) 機密を知られた以上ザイバツが各アジトを引き払うのは時間の問題だ。だが今すぐ動けば二つ三つは押さえられよう。タイムイズマネーを信条とするラオモトが率いるソウカイヤの動きは素早く、何をするにも上に伺いを立てねばならない(らしい)ザイバツの動きは遅い。土地勘もこちら側にある。潜伏している危険分子を排除し、ネオサイタマの秩序と筋肉を事前に守るまたとない好機だ。

地面が迫る。49階からの落下、しかも下はアスファルトとくれば、ニンジャといえど何もしなければ実際死ぬ。プレートメイルには便利なサイバネも、フックロープ等の道具も、ウケミのワザマエも無い。だが、体を鋼鉄と化すジツは持っていた。

「プロポーション!」 余裕を持って空中ポージングを決めてムテキ・アティチュードを発動し、そのままアスファルトに落下。衝撃と質量でクレーターめいてヒビ割れた地面、その中心でプレートメイルは輝きながらフロント・ダブル・バイセップスを決めていた。ムテキ・ポージング。落下によるダメージは皆無。

「グフフ・・・」 ムテキを解除して49階を見上げる。プレートメイルのニンジャ視力は忌々しげにこちらを睨んだ後、彼方を見やるブラックドラゴンの姿を認めた。続いて彼のニンジャ聴力が武装ヤクザベンツの走行音を捉える。ソウカイヤの増援だ。ブラックドラゴンはもう一度プレートメイルを睨むと窓から屋上へとジャンプし、そのまま視界から消えた。

(やれやれ、撤退してくれたか!命拾いをしたワイ) プレートメイルは安堵の息を吐くと、筋肉の緊張をほぐすためにゆっくりとスクワットを始めた。実際、死なないのが不思議なほどの危険なミッションだった。彼が助かったのは筋肉と幸運、それにカジバヂカラ、そして・・・ 「おつかれさまでした!」

そして何より、傍らで見守りながら的確なナビで導いてくれた頼りになるセンセイのおかげだった。拍手するようにLEDを明滅させるD6に、プレートメイルは改めてポージング・オジギを決める。

「D6=サン、改めて礼を言う。アリガトゴザイマス」 ドロイドは誇らしげに三回転するとプレートメイルの頭上に飛び、誘導灯めいてソウカイヤ紋を光らせた。暗闇に光るクロスカタナを目標に武装ヤクザベンツが走ってくる。 「トコロザワピラーに帰りましょう」 「グフフ、そうしよう」 ヘッドライトの眩い光が迫ってくるのを見ながら、ニンジャとドロイドは楽しげに笑った。

【マッスル・イン・ザ・ファクトリー】 6 終わり。7へ続く

ニンジャ名:プレートメイル
【カラテ】:6
【ニューロン】:6
【ワザマエ】:2
【ジツ】:2(ムテキ・アティチュード)
【体力】:6
【精神力】:6
【脚力】:3
装備など:無し 万札:13 DKK:1

プレートメイルの前回の冒険はこちらを、
元となったソロアドベンチャーシナリオはこちらをどうぞ。

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