【マッスル・イン・ザ・ファクトリー】 7 (忍殺TRPGソロアドベンチャーシナリオ3より)
前回までのあらすじ:突如として消息を絶ったヘルカイトを捜索すべくサポートドロイドD6と共にザイバツのアジトへと潜入したソウカイニンジャ、プレートメイル。無事ヘルカイトを救出し、ザイバツの機密データも奪取した彼の前に立ち塞がったザイバツニンジャ、ブラックドラゴン。圧倒的カラテ力量差の前にあわや爆発四散しかけたが何とか逃げ延びることに成功。さあ、トコロザワ・ピラーに帰還だ!
【マッスル・イン・ザ・ファクトリー】 7
「機密データをUNIXから盗み、ヘルカイトと生還」
【万札】13+20 → 【万札】33 【名声】0+3 → 【名声】3
ミッションより三日後。トコロザワ・ピラー、トレーニング・グラウンドにて。
「グフゥーッ・・・よし、もう一度」
プレートメイルはコンテナから新たな強化ガラス瓶入りケモビールを手に取り、台座にしっかりと固定した。ゆっくりと腰を落とし、上向きにした右手の平をケモビール瓶の横に添える。
「バルク!」 CRASH!
横一文字に振り抜かれた力任せの雑なチョップは、ビール瓶の首を見るも無残に砕いた。ボトルネックカットチョップ、またしても失敗である。 「グフフ、うまくいかぬワイ」 ぼやきながらアブドミナル・アンド・サイを決め、台座から瓶を外す。不恰好に砕けた口から、白い泡がシュワシュワと弱々しく吹き出してくる。
「イェーフー!また失敗したぞ!」 「今日はプレートメイル=サンのお大尽だぜ!」 「あんまり破片入れんなヨォー?」 後ろから聞こえる野次に向けて瓶を放ると、すでに顔が赤くなっているニンジャ達が歓声を上げる。 「ひっでぇなこれ!」 キャッチしたニンジャが瓶の砕け具合を見てゲラゲラ笑いながら、手にしたグラスに中身を注いでいく。
彼らはプレートメイルと同じくニュービー、サンシタのソウカイニンジャである。ここトコロザワ・ピラーのトレーニング・グラウンドでカラテ訓練をしていたのだが、プレートメイルがビール瓶を用いてのボトルネックカットチョップ訓練を始めると、瓶の中身を目当てに集まってきたのだ。
「今日はツイてるなぁ!飲み代が浮いたぜ!」 「次はビールだけじゃなくサケも用意してくれよ!」 「イカジャーキーも頼むぜ!」 タタミにアグラし、好き勝手なことを言いながらグラスを飲み干す彼らの横には、割れ砕けたビール瓶が山と積まれていた。ナムサン、これではまるでノミカイだ!
「グフフー・・・」 プレートメイルは野次を気にせぬ。ギャラリーがいるのは彼にとって望むところであったし、彼らが瓶の中身を飲んでくれるのはありがたいことであった(プレートメイルは下戸だ)。ビールもまた人類の英知と技術、即ち筋肉が生み出した産物。無為にしていいものではない。以前の訓練時も彼は見物ニンジャにビールを振舞っていた。
再びビール瓶を台座にセットする。ニンジャ数人が完全に出来上がるほどのビール瓶に挑みながら、いまだ一本たりとも成功していない。自分の不器用さ、ワザマエの低さは自覚していたが、まさかこれほどまでは思っていなかった。
(グフフ・・・だからこそ!鍛えねばならぬのだワイ) 先日のミッションを思い出す。あの日は幸運とD6に助けられ、奇跡的に生き延び、ヘルカイトの筋肉を救うことができた。だが次はどうか?幸運は二度続くだろうか?
(次回もD6=サンが助けに来てくれるとは限らぬワイ・・・センセイの手を借りずとも、あらゆる事態に対処できるようになっておかなければな)
ニンジャ威力部門たるシックスゲイツの所属でなくとも、いつ何時あのようなミッションに挑むことになるとも限らぬのだ。ソウカイニンジャである以上、ニンジャとしての能力を可能な限り伸ばし鍛えておかなければならないことを彼は痛感していた。
ニンジャとして強くなれば様々なミッションに挑むことができる。それはより多くのモータルやニンジャの筋肉を救うことにも繋がるだろう。そしてミッション成功で得たカネで自分の筋肉を育て、ニンジャとして強くなり、ミッションをこなし、他人の筋肉を救い、カネで自分の筋肉を育てる。ニンジャと筋肉とカネのトモエめいた永久機関である。
その第一歩として、プレートメイルは自分にもっとも足りぬニンジャ身体能力であるニンジャ器用さ・・・即ちワザマエを鍛えるため、ケモビールを買い込んでボトルネックカットチョップ鍛錬に挑んでいるのだが・・・
「バルク!」 CRASH! 「ハッハー!」 「オカワリ入りましたー!」 またしてもビール瓶無残!ネックカットと呼ぶには程遠い有様! 「グフゥ・・・」 砕け割れた瓶を情けない気持ちで眺めてから後方に放る。笑い声を背に受けながら、再び新しい瓶を手に取った。
(インストラクションが欲しいワイ・・・) プレートメイルのボトルネックカットチョップは見よう見真似である。ゆえにこの姿勢や腕の振りが正しいものなのかどうか皆目わからぬ。後ろで騒いでいるニンジャ達に教えを乞おうにも、彼らとてプレートメイルと大差無いサンシタだ。有用なインストラクションは得られぬだろう。
仮に十分なワザマエを持った熟練のニンジャ・・・例えばシックスゲイツのニンジャがこの場にいたとしても、シックスゲイツ所属でもないプレートメイルにインストラクションを授ける義理もない。手駒として使うアンダーカードでもないニンジャを鍛えたところで彼らにとって何の得にもならないからだ。
ゆえにこそ、プレートメイルは手探りでコツを掴むしかない。一本ごとに、ほんの少しだけでも上達していくのを信じて。それは彼が今まで行ってきた筋肉トレーニングに比べ、なんと手ごたえの薄く心細い前進であることだろう。だが、やらねばならぬのだ。なんとしてでもニンジャとして強く・・・
「随分盛り上がっているな」 「グフッ?」 「「「アイエッ!?」」」
突如かけられた声に振り向くと、そこに立っていたのはオフホワイト装束のやや小柄なニンジャ。だが腕を組んでプレートメイルらを見るその姿から発せられる強大なカラテは、その体躯を二倍にも三倍にも大きく見せていた。ノミカイで顔を赤くしていたニンジャ達が一瞬でアグラから正座に座り直すのを一瞥すると、シックスゲイツの六人、その内の一人であるニンジャはアイサツをした。
「ドーモ、プレートメイル=サン。ヘルカイトです」 「グフ・・・ドーモ、ヘルカイト=サン。プレートメイルです」 プレートメイルは慌ててポージング・アイサツを返す。装束を新調し、医者にかかり、休息をとり、スシを食べたヘルカイトは、爆発四散寸前だった三日前とは見違えるほどに恐るべきニンジャ存在感を放っている。
(なぜシックスゲイツがここに?) トレーニング・グラウンドは基本的にニュービーやサンシタの鍛える場所。特別な用件が無ければカラテ強者たるシックスゲイツが来ることはさほど無いはずだ。それにわざわざサンシタのプレートメイルにアイサツを?何か用件があって?
(先日のミッションで何かシツレイをしてしまったか?) そういえばフロッピーをスリケンめいて投げ渡してしまった。緊急時とはいえあれはシツレイであったか。シックスゲイツを使い走りめいて扱ったと受け取られたかもしれぬ。
今すぐドゲザすべきかと逡巡するプレートメイルをよそに、ヘルカイトは静かに呟いた。 「喉が渇いた。一本貰うぞ」 「グフフ、ヨロコンデー!」 プレートメイルは手に持ったケモビール瓶を恭しく差し出・・・そうとして気づく。栓抜きが無い!このまま出しては目上のニンジャに対してシツレイにあたる!
(いかん、どうすれば!?) 狼狽するプレートメイル!焦りのあまりフロント・ダブル・バイセップスを繰り出してしまいそうになるのを必死で抑えながら彼のニューロンは高速回転を 「そのままだ。縦にして持っていろ」 「グフッ!?」 ワケがわからぬままに、プレートメイルは言われた通りにケモビール瓶を縦にして持つ。
「見ておけ」 ヘルカイトはプレートメイルにしか聞こえぬほど小さな声で呟くと、弓をひきしぼるように右腕を振り上げた。一瞬の緊張の後、それを解き放つ!
「イヤーッ!」
プレートメイルの眼前を、タツジンの振るうイアイド斬撃めいたチョップが走った。横一文字に繰り出されたチョップで切り飛ばされたビール瓶の首がタタミに落ちて音を立てると、思い出したかのように瓶からアワが噴き出してきた。
呆然としたまま動けないプレートメイルの手からケモビール瓶を取って一息で飲み干し、「片付けておけ」 と瓶を放り投げると、ヘルカイトはそのまま背を向けて歩き出した。放られた瓶を手にとって見る。切断面は、まるでカタナで斬られたか如き滑らかさだ。
ノミカイニンジャ達は正座したまま、ワケがわからぬといった表情でヘルカイトが立ち去るのを見送っていた。プレートメイルはその後ろ姿に向かって深くポージング・オジギし、奥ゆかしいインストラクションに感謝した。
眼前で行われた超高速のチョップ斬撃は、プレートメイルの目に強く焼きついていた。その腕の動き、筋肉の躍動、チョップのタイミング。まるでサイバネアイで録画したかのように何度も再生することができる。シックスゲイツの六人による最高のインストラクションだ。忘れようとして忘れられるものではない。
プレートメイルは台座にケモビール瓶をセットする。ゆっくりと腰を落とし、上向きにした右手の平をケモビール瓶の横に添える。目を閉じ、先ほどのインストラクションを再生し、強くイメージする。あのように腕を上げる。あのように筋肉を動かす。あのように振り抜く!
「バルク!」
横一文字に振り抜かれたチョップは、見事にケモビール瓶の首を斬り飛ばした。台座から手に取り、白く噴き出す泡を指でぬぐって切断面を確認する。それはヘルカイトのお手本に比べれば随分荒く、雑なものだったが、切断面と呼んで差し支えないものであった。ボトルネックカットチョップ、初成功である。
「グフフ・・・」
プレートメイルはにこやかに笑み、すでに姿の見えぬヘルカイトに向かってもう一度ポージング・オジギした。ビール瓶を手に取り、泡が吹き出す切断面をしげしげと眺め、しばし考えた後におそるおそる口に運んだが、やはり飲めぬものは飲めず盛大にむせて咳き込み、それからまた笑った。
【マッスル・イン・ザ・ファクトリー】 終わり。
ニンジャ名:プレートメイル
【カラテ】:6
【ニューロン】:6
【ワザマエ】:2
【ジツ】:2(ムテキ・アティチュード)
【体力】:6
【精神力】:6
【脚力】:3
装備など:無し 【万札】:33 【DKK】:1 【名声】:3
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