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ダブルの介護ベッドはないの?

私がまだ新人で、総合病院で働いていたときのこと。

脳出血後の左片麻痺で、

通常なら右片麻痺の場合に出現する失語症があって、

高次脳機能障害も結構ある、という

70代男性(Tさん)を外来でリハビリしていたのね。

失語を含めた高次脳機能障害はしっかりあって、指示理解も言語表出もほぼ不可能で、

足につけてる装具の着脱もどうしたらいいのかよくわからない感じで、

脳の障害範囲の大きさを物語っていたし、

日常生活における介助量も相当あるように思えた。


カッとなると抑制の効きづらさはあったものの、多くは穏やかで、よくニコニコしていた。

そしてとても紳士的な方だった。


私はその方とのリハビリがとても楽しかったのだけれど、その方もとても楽しんでくれていたと思う。


その方は奥さまと一緒に通院していたのね。

よく思い出せないけれど、確か奥さまの運転で病院に来られていたのじゃないかな。

奥さまはとても体の線が細くて、介護も大変だと思うのに、やっぱりご主人と同様にいつもニコニコされていて。

リハビリしながら普段の生活の様子や生活で困ることはないかを聞いたりしていたのだけど、ふと思い出したように奥さまがおっしゃった言葉がタイトルだった。

奥さま「ダブルの介護ベッドはないの?」


夫婦の愛

ご主人はこちらの言葉もわからないし、自分から言葉を発することも難しい。

(時々イテッとかの反射的な言葉は出るのだけれど)

ご主人の言いたいことを私が理解できなくて困惑されることもあったし、こちらの意図が伝わらないことも多くて試行錯誤しながら練習してた。

だから奥さまなんて相当大変な思いをしていると思うのに。


私「確かに…ダブルの介護ベッド、見たことがないですね。

 どうしてそう思ったのですか?」


私は一応聞いたの。

すると


奥さま「一緒に寝ることができたらいいのにって思って。

 そしたら近くで夫の動きがわかるし、すぐに対応できるでしょう?」


愛だと思った。

ご主人と一緒にいられる時間がとても嬉しくて、ご主人が大好きなのですって。

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突然のお別れ

今では当たり前のリハビリの「期限」。

それがなかった当時は、外来でのフォローは必要な限り続けることができた。

Tさんのリハビリも1年半くらい続けていたと思う。

お別れは突然やってきた。

そう「期限」が新設されたから。


当時、同じような脳血管障害の方のリハビリを何人も担当していた私。

リハビリの期限が設定され、突如全員のリハビリに「終了」が訪れた。


これには衝撃的だった私。

全国的に同じような想いでいっぱいだったと思う。

医療費の削減と介護保険サービスへの移行が目的だったと思う。

つまり、「医療」と「介護」がハッキリし、その移行のタイミングは「期限」でコントロールされるようになったのね。


外来でフォローしていた方とは当然お別れすることになり、Tさんとも涙を惜しんでサヨナラをしたのを覚えてる。

奥さまは最後までステキな方だった。

まだ結婚も考えたことのなかった私が、自分の夫婦の老後の理想を思わず描いた経験だったと思う。

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リハビリサービスの変化

その頃から、医療と介護の線引きだけではなくて、病院の機能分化も進んでいくことになったんだよね。

以前は総合病院などで治療を受け、在院日数もそこまでうるさくなかったから、何ヶ月か入院しながら治療し、退院後はそのまま外来でフォローできた。

ところが今は違う。

救急の病院での加療はほぼ1ヶ月程度。

状態が安定したら回復期の病院(リハビリ専門)へ転院し、集中的にリハビリを行う。

Tさんのような脳血管疾患の場合は180日の期限で、入院中はリハビリにしっかり取り組める環境になる。

そして、入院中におうちの環境を整えて退院し、退院後は介護保険サービスを利用していくことになる。


期限ができた当時は、受け皿の介護保険サービスが整っておらず、回復期病院で1日最大3時間の個別リハビリを受けて帰宅した方が、通所リハビリでは個別で20分しかリハビリできなかったりした。

今では加算も体制も充実し、リハビリ専門スタッフも増えているけれど。

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人の人生の一部と関われることの嬉しさ

私は16年この仕事を続けてきて、そのほとんどが子育てとの両立で専門性を極めたりできてないけれど、

たくさんの人の人生と関わりを持てたことは幸せだと思ってる。

ひとりひとりにストーリーがあって、一緒に頑張る期間があって。

あの人、今どうしてるかなぁーって思える人がたくさんいることって、ホント、幸せなことだなぁ。

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