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エッセイ「鎮守の森のきき耳ずきん」

明治神宮の森についての文章です。

SNSのブックバトンで『アースダイバー』(中沢新一著・講談社)を、ご紹介した流れで、思い出しました。

初出は、詩の有料メールマガジン『さがな。』(2005年)。テーマは「私の隠れ家」だったかと。「てにをは」を直して、再掲です。

縄文古代地図を片手に、東京の古層を訪ねる「アースダイビング」。

「悲しき熱帯」に行かずともできる、文学的フィールドワークに、当時、ひとり胸を躍らせて、あちこち歩いた記憶があります。

この文章は、そのレポートで、本へのオマージュです。

今でも、土地の記憶とつながることは好きです。体質でしょうか。

さいきんは、現代の踊り巫女のように、ダンスをしながら、町を歩いています。世界50ヶ所で踊られている「Dance Walking」の、東京チームのメンバーとして。本の付録だった縄文地図を、頭のどこかに広げながら☘️

https://www.facebook.com/1924249971169749/posts/2301982630063146/?d=n

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『 鎮守の森のきき耳ずきん』

 東京人なら、誰でも知っていて誰でも行けるところ。そこが私の隠れ家です。屋根なし。チャージなし(カンパ制)。年齢・性別・国籍、かんけいなし。服は要りますので着てください。朝から夜まで 開いてます。暗い時間はおすすめしません。

 門を入ったらじゃりじゃり音をたてて歩きます。真ん中は通らないこと。じゃりじゃりは、人の数だけあるそうです。生きてる人と死んでる人の。蚊が飛んでくることも。ありがたく食べられ ましょう。汚れた血がとれて、造血が始まります。瀉血と言います。昔ながらの健康法です。

 深く息をはいて、深く吸いましょう。たくさんの木があります。呼吸しながら挨拶をします。 檜・杉・樅・樫・椎・楠・・・東京の真ん中とは思えません。降り積もった落ち葉を見つめて 、土の声を聴きましょう。何やらつぶやいています。

 ( 敢エテ人為ノ植栽ヲ行ワズシテ永久ニ…)

 粘菌とバクテリアのやさしい声。いらなくなったもの、過剰なものが消化されて、しずかに、 しずかに、はじまりの素子へと、分解・還元されてゆきます。沈黙の音楽。懐かしい気持ちに なります。神主だった祖父の、祝詞のように。

 歩きながらハミングします。尾てい骨まで震えます。微生物の音楽に共鳴すると、体や心のつまったところがほぐれだし、消化でき なかったものが分解され、流れてゆきます。お手洗いはガマンしないこと。
 
 門をくぐって前庭の道に進むと、胃がすうっと、あるいは皮膚がとろっと、する場所があるはず。磁石に吸われる砂鉄のように、ぴったりと足の裏が地面にはりつき、頭がひんやりしてきます 。20メートルくらいの道ですが、早く動くと芯がずれてしまうので、ゆっくり、ゆっくり歩 きます。わからないときは、帰りも通りましょう。腰まわりが重く、足まわりが大きく、息が 深くなったらOK。

 奥のおうちではまずカンパを。ご挨拶は、はじめにとりつぎの方、そして、家主さん。住所・氏名・年齢・職業、感謝の言葉と、あれば、相談ごとを。気がすんだら、2度手を叩いてお別れします。

 答えが欲しい方は 100円を箱に入れて巻紙を選びましょう。歌が書いてあります。今の自分にぴったりな歌で す。その証拠に、もう100円を入れて別の箱からも引くと、あら不思議、必ずやおなじ歌が。もしちがってしまうなら、かならず理由があります。音楽を無視した、早く歩きすぎた、息が浅い 、ご挨拶を忘れた、名乗っていない、などなど。。

 さいごは、好きなだけお庭で休みます。さきほどの相談ごとも、言霊になって散り、森に咀嚼されてゆきます。
 
 原宿のこの隠れ家に、週に1、2回おとずれるようになったのは、久しぶりに町で暮らし始めてからでした。海と山のそばに住んでいた頃は、たまにで良かったのですが。もう消化が追いつかないようで…。なにしろ町は「生まれっぱなしで死ねないもの」で一杯なので。

 心身のつまりが、うまくはじまりの素子まで戻ってゆくと、シンプルな思いが涌いて来ます。殺人を戦争と言わないこと、とか、ネオ・リベって、誰の? とか、死にたいは生きたい、とか。
 
 ところでこの隠れ家には、たいそう古株の先客がいます。天ちゃん、とお呼びしましょう。天ちゃんは、もうずいぶんと長い間ここに隠れていたので、いまや森の音楽会最強のリスナ ー。「聴聞力」炸裂の、鎮めのプロです。閑なので、お手製のきき耳ずきんを縫って、希望者に配ってくださっています。ぜひいただきましょう。キャッチコピーもあります。

 ( 耳、声ヲ待ツナリ。耳、声ヲ受クルナリ )

 かっこいいですね。このきき耳ずきん、なにかと便利です。選挙の声など、嘘もホントも、よく聞えます。日本人好みの内息系小泉小唄に張り合えるのは、やっぱりユーミンそっくりのノンビブラート系福島祝詞かしら、とか。

 みなさまも、i-podで耳をつぶしてしまうまえに、ぜひ、鎮守の森へゆきましょう。きき耳ずきんをもらいましょう。どのみち私たちがこれ以上、心の声を聞かないの なら、隠れ家どころか住む家までも、やがてとりあげられてしまうでしょうから。

※ 当時の自己紹介
三上その子
はじめて街角詩人をやりました。詩のできることは、鎮めと振り。80人分くらいの物や人や 言葉の魂と交感すると、思考がストップしてトランス、詩人はただの翻訳器に。気持ちよか ったです。
「〜ことば・こえ・からだ〜 アトリエ・リベルテ」:
https://atelierliberte.blog.fc2.com/


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