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決めてしまえば、すべては動き始める


実家が引っ越すにあたり、私の荷物を少しずつ整理していって欲しいとの連絡があった。


私は早速実家に向かった。


というのは、丁度、その荷物の中から「あるもの」を見つけたいと思っていたからだ。

子供たちが外に遊びに行きたいというので、両親が連れ出してくれた。
私は久しぶりに実家に1人になった。


自分の部屋に入る。

私が家を出てから、私の部屋は、祖母が亡くなるまで使っていた。
今は、母が使っている。


親子3世代が入り混じっている不思議な空間。


ベッドは、私が小学生の頃からずっと使っているものだ。
そこに、祖母用に手すりを取り付けてある。
寝具は母のものだ。


本棚は、私が中学生の時に購入したもの。
そこに、私が読んでいた本、祖母が読んでいた本、母が読んでいる本が並べてあったり、私のアルバムが数冊と雑貨類が詰め込んである。

押入れの中も親子3世代のものが混ざり合っている。
私の荷物が入った段ボール、祖母がデイサービスで作ったビーズの作品やキルト作品。
その中に、母が洗濯物を干すときに使う洗濯バサミなどが置かれている。


過去の私と、生きていた頃の祖母と、今の母が、一つの部屋の中で今も仲良く会話しているような、そんな感じ。


さて。
やるか。


その空間から、私の過去たちを引っ張り出す。


とにかく大量にある。


ここで、片付けあるある、だ。


そう、


つい思い出に浸ってしまう



その日も、私は思い出という沼にまんまとハマってしまった。

まずは、本棚から攻めていくことにした。


大学時代はかなり本を読んでいた。
その本たちは売りに出すことにした。

もう使わない雑貨類は思い切って処分。

次は、アルバムか。


私は、つい、アルバムを開いてしまった・・・。


幼少期の写真やら
宝塚歌劇が好きだった頃に撮ったジェンヌの物真似してる写真やら
高校時代に好きだった先輩の席に座ってニヤコラしている写真やら(何やっとんねん)
役者時代の舞台の写真やら


わんさか出てきた。


あ〜そうそう!これ、覚えてる!とか、あ〜こんな時もあったなぁ〜とか、で、その思い出を誰かと共有したくなっちゃって、写真並べて写メなんて撮っちゃったりして、友達に送ったりして


全然進まない。

日記とかも見つけちゃって、読み始めちゃって。
おおー私の暗黒時代や。
悩んでるなー私。
とか思っちゃったりして

見事に進まない。


これでは、いかんっ
一体私は何しにきたんだ!


と喝を入れ、思い出のアルバムをひとまず中身を見ずにじゃんじゃん段ボールに入れた。


アルバムもなぁ。
どうすりゃいいのよ、この量。

特に、私が小さい頃のやつ。
昔のアルバムって、重いし大きいしで。
無駄に場所とるし、引き取ったとしても、我が家にはもう置くスペースがない。
かといって、アルバムの中の写真一枚ずつ剥がしてデーター化?
気が遠くなりそうな作業だ。
それに、そんな作業、一体誰がするんだ?


この


大量のアルバムどうするよ問題


もう、先に進まないので、小さい頃のアルバムのことはまたにしておこう。



今の所、探している「あるもの」は見当たらない。


チラッと、部屋の隅にある長細い棚を見るが、そこは時間がかかりそうなので後回しだ。


次は、押入れを攻めるか。


椅子に上り、押入れの上の方に閉まってある段ボールをとりあえず手前の3つだけ降ろした。
奥の方にもまだまだある。

全ての段ボールに「mika私物」と書かれてある。


気が遠くなりそうだ。


降ろした3つは、舞台関係のものだ。


私が演劇に心奪われ、役者の道で食べていくんだと、がむしゃらに走り続けた20代。
その過去たちが、その段ボールには詰まっている。


開封の儀。


脚本や、ノートや、予算表や、チケットとか、もう、わんさか出てくる。
舞台で使った効果音のCDまでとってあった。


もう、いらないかなぁ。


脚本と、当時のフライヤーだけ抜き取り、あとは処分することにした。


私は、ベットに横になる。
窓からの風が心地いい。


私の、過去たち、ありがとう。


気がついたら、私は思い出に浸りながら


寝ていた


あっかーん。
子供帰ってきたら集中してできない。


うおっし!


私は、チョコをパクっと口に入れ再び自分に喝を入れた。



さて・・・あそこ・・・やるか。


先ほどチラ見した長細い棚に取り掛かることした。


そこに何が納められているかというと・・・


じゃーん




全て舞台関係。
見えていない裏側にもぎっしりある。

幼少期に撮り溜めた宝塚歌劇
その他様々な舞台作品
自分で購入したビデオもある。


この


大量のVHSどうするよ問題


どれもこれも今となっては貴重な作品ばかり
おそらくもう手に入らないと思われる。

手放したくない。
でも、だからといってこれらを見る手段がない。
わざわざ機材購入するのもねぇ。場所とるし。
DVDにすることも考えたが、著作権でできないみたい。


どうしよう


もう考えたら先に進まなくなってきたので、これも、、、またにしよう。うん。


ふと、下の段を見ると、一つの箱があった。


探していた「あるもの」がその中に入っている気がした。


そっと箱の蓋を開けてみる。


見覚えのあるオレンジ色の正方形の封筒。


あった。


遡ること・・・私の大学時代。
なんとなく大学生活を送り、そして4年生になってなんとなく就職活動をしていた。
まわりと同じように。
流されるまま、なんとなく。


その私の「なんとなく」が、ある会社の説明会に出席した時にひっくり返ることになる。



出席者全員にオレンジ色の正方形の封筒が配られた。
その中に6枚のシートが入っていた。

自分の過去を振り返るシートだった。


私は、特に深く考えずに、とりあえずシートを仕上げた。


一番熱中したこと
やりたかったけど、やれなかったこと
なりたかったけど、なれなかったこと
始めたかったけど、始められなかったこと
何をしている時が幸せか

etc・・・


出来上がった6枚のシートを並べてみたら、


全てが「演劇」になった。


自分の魂が震えた。


え、私、演劇がやりたいのか


心の奥の方に熱いものを感じた。

それはかつて

幼かった頃の私が抱いた「夢」だ。


私は、タカラジェンヌになりたかった。

天海祐希さんに憧れて、舞台で踊り演じるのが夢だった。


いつしかその夢は小さくなり、何も感じなくなり、消えてった。



と、思っていた。


でも、その数枚のシートを前に、その「夢」が消えていなかったことに気がついた。


まだ、あったのか、なんだ。
私の原点じゃないか。


私、演劇がやりたい。


必要なのは勇気ではなく、覚悟。
決めてしまえば、すべては動き始める。

「人生の地図」 編著 高橋歩


私の中で何かが動き始めた。


説明会の帰り道、慣れないパンプスを脱ぎたくなった。
近くの靴屋に入り、スニーカを買った。
私はパンプスを紙袋に突っ込み、スニーカーに履き替えた。

リクルートスーツに、白いスニーカー。

私は心が躍っていた。
迷いはなかった。


帰宅してすぐに、母に伝えた。


「お母さん、私、就活やめるわ。」


母は、目が点になっていた。


私はその時、本当に人って目が点になるんだな、と呑気なことを思っていた。



そして、私は演劇の世界へダイブした。



今、再びその魂震えた瞬間に会いたくなった。



息子が不登校だという同じ境遇の仲良しnoterさんが、子供の手が離れた時の準備を始めている。

今は、まだまだ息子に寄り添い付き添い送迎人生で、全く自分の時間なんてないけど、

いつ「その時」がやってくるかわからない。

だから、今、準備をしておく。


すぐ動き出せるように。
ポッカリ穴が空いてしまわないように。


私には、何が、できるだろう。
私には、何が、あるんだろう。

あの時のように魂が震えるほどの情熱を再び感じることってあるんだろうか。


6枚のシートをじっと見つめながらそんなことを思った。


もしあの時就職を選んでいたら、今ここでこうやってnoteを綴っている私はいない気がする。

私は、表現することが好きだ。


実家を手放すことになったことと、私が自分の過去を整理し、その中からあのシートを探し出したこと。


この2つのタイミングが重なったことに、何か意味がある気がする。


きっとそのうちわかる。


今は「点」だとしても、それが繋がり一本の線となって、また何かの「点」に繋がっていく。


今はわからなくても、ああ、そういうことだったのかと、振り返る時がくる。


まだ、それは、何なのかはわからない。


私は、オレンジ色の封筒を箱に戻し


再び


蓋を閉めた。


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