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手先が器用な祖母とわたし

小学校に上がるトキ。

事前説明会が何度か開かれ、それに従い、準備を
していました。そのリストには、毎日自分の机に
座って使うこととなる「座布団」もありました。

座布団が必要となる理由は、木の椅子だからお尻
が痛くなるのを防ぐため。注意点として、

「小さな椅子なので、座布団がおっこちないよう
 に紐などがついていると良い」

というようなことが書いてありました。

すると、それを知った祖母が、座布団は自分が作
ると言い出したのです。

わたしは小学校生活がよくわからないのでお婆ち
ゃんに任せることにしました。

保育所から帰宅すると、手先の器用な祖母は、さ
っそく座布団を縫いあげていました。さすがはわ
たしの祖母だけあって仕事の早いコト!!

「かおちゃん、座布団が出来たよ!!」

ドキドキしながら新しく小学校で使うことになる
座布団に見に行きました。そこにあったのは、布
地に花の地模様の入った明るい紫色の小さな座布
団でした。

(なにかイメージが違う。)

わたしはそう思いました。
けれど、祖母は嬉しそうにわたしを見ています。

「お婆ちゃんありがとう!!」

わたしは違和感を感じていたけれど大好きなお婆
ちゃんが折角縫ってくれた小さな座布団。少し恥
ずかしいと言うコトが出来ませんでした。

その明るい紫色は、ご仏前に置かれてるお坊さん
が座る座布団のよう。

(どうして紫なんじゃろうか?)

わたしの頭の中では色んな事が疑問でゴチャゴチ
ャと考えていました。そして小さな座布団の四隅
には太目の白糸で丁寧に房まで付けられていまし
た。

いよいよお坊さんの座る座布団みたいです。

「四隅に房を付けてあげといたけんね!」
「真ん中にはバッテンしてキレイに仕上がっとるじ
 ゃろ?!」

わたしが納得できていない四隅の房は祖母にとって
は手先の器用さを生かした結果でしかなく、悪意な
んてものはありませんでした。

そして極めつけはまだ別にありました。座布団の真
ん中に同じ布地で作った長い紐が縫いあげられてい
たのです。それは、座布団を椅子にくくりつけるた
めのもの。

真ん中に紐を縫い付けて椅子に縛り付けるような座
布団なんて見たことがありません。しかも、わざわ
ざ白糸の飾り縫いで縫いつけられていました。

(これは一体なんなんじゃろうか?)

そう思っていた矢先に祖母は言いました。

「これがあれば椅子に置いてても座布団おっこちん
 じゃろ?」
「おばあちゃんがキレイに飾り縫いしたけんカッコ
 いいじゃろ?!」


言葉がありませんでした。
お婆ちゃんはただ孫を想う一心で作ってくれている
のです。

「お婆ちゃんありがとう!!」

わたしは、何も言い返すことも出来ず、入学式の日
、その紫の座布団を持っていきました。クラス分け
の発表があり、自分の教室に入ると入り、椅子に座
布団をつけるトキがやってきました。

周りを見れば皆、キャラクターなどがプリントされ
た座布団ばかり。そして、ゴムや可愛い紐で椅子の
背もたれブブンにくくりつけて座っていました。

(空気が違う!)

そう感じたものの、わたしにはその祖母が作ってく
れたあの座布団しかありません。勇気を振り絞り、
カバンから取り出して、皆とは違うやり方で椅子に
くくりつけました。

するとその様子を見ていた男の子がすかさず叫びま
した。

「何それ!変なの!!」

予想は的中しました。ただどうすることもできない
ので、黙って無視していました。

「渋い座布団じゃのぉ!!!」

数人の男の子が入れ替わり立ち代わりやってきては
バカにしては去っていきました。腹が立ちましたが
、この座布団は孫を想い作ってくれたものでもあり
ます。

自宅に帰るとすぐに祖母から尋ねられました。

「小学校はどうじゃった?」
「頑張れそうかいね?」

言いたいことは沢山ありましたが、祖母には言う
コトが出来ませんでした。

「うん。がんばるよ。」

わたしはそれだけ言ってその日は疲れてすぐに眠
ってしまいました。実はその座布団は今でも大切
なタカラモノとして保管しています。

当時は幼心にとても恥ずかしく感じた座布団でし
た。

けれど、祖母も亡くなり、今となっては手作りし
てほしくても叶わないものなのです。二度と作っ
てはもらえない祖母の座布団。

だから捨てられない大切なタカラモノなのだと両
親にもお話しました。

自分の母親が作ったモノだと知り、感慨深く感じ
る父。仕事が忙しく、わたしのことをよくわかっ
ていなかったことを感じる母。

祖母も両親も、まだ小さかったわたしもそれぞれ
に一生懸命生きていました。当時は少しツラかっ
たけど、わたしのたいせつな想い出です。


↑使っていた机と椅子イメージ図

~かおのことが気になるあなたへ~

分かりやすそうに見えて、
なにか掴みどころがないと言われるわたし。
他のnoteも手にとってみてくださいね。
そこにヒントがあるかもしれません。
大切にしてきたベースとなる考え方などお話して
います。どうぞこちらもご覧くださいね。


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