前世の靴
引き続き、毎日、少しずつ断捨離をしている。
今日は玄関横に備えつけられている靴箱−シューズボックス?いまどきは何て言うのかわからない−に入っている靴をすべて出してみて、思わず唸ってしまった。
−これ、いったい誰の靴?
パリで買った10cmヒールの黒いサンダル。存在すら忘れていた緑のスウェードのパンプス。気に入って修理に出しながら履いていた、けれどもう寿命どきなブーティー。高かったけど足に合わなくてほとんど履いていないベージュのパンプス(買うときすでに足に合わない予感はしていたくせに、セールで浮かれて買ったもの)…。
何より、靴箱の扉を大きく開け中身を覗いたとき、まったくもって「いい気持ち」にならないことに軽くショックを受ける。お気に入りの靴ばかりが並んで、こまめにメンテナンスもしていて。そんなある意味「理想」の状態からほど遠い、わたしの靴箱。
−あーあ、悪いクセだな。
自分の持っているものをないがしろにして、点検も怠って。そもそも何を持っているかも把握しておらず、大切にもしていないんだもの。外に外に、もっと新しいものはないかと目を向けてばかり。もちろん、靴の話だけじゃない。
−これなんて、もはや前世で履いていたとしか思えないし。
10cmのピンヒール、甲のところで細いストラップが交差する華奢なサンダルをつまんで眺める。買ったとき隣にいたひとの顔が浮かんで、ゴミ袋に入れるときにはほんの少し胸が痛んだ。
−でも、もういまのわたしとこれからのわたしには必要ないな。
ありがとう、愛してるよ、でもさようなら。
一足一足につぶやきながら、前世の靴たちに別れを告げた。
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