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水曜日の本棚#6 不穏なしあわせ、いくつもの週末

これを書いている外ではいま、雨が降っている。はじめは「しとしと」だったのが、いまでは「ザーザー」に近い音を立てて。

こんな夜は、何度も読んでいる本を手にとってあったかいお茶でも淹れてパラパラめくりたい。この先どうなるんだろうとハラハラしたり、不意打ちで心乱されたくないのだ。食と物語において、わたしはわりと臆病である。居心地のいい味とストーリーをはむはむ何度も噛みしめるのが好きなのだ。

江國さんの本は昔よく読んでいて−「冷静と情熱のあいだ」をちょうど二十歳前後で読んじゃった世代。影響受けましたな。その後フィレンツェ行った時は順正の街としか思えなくて困った−、これもその1冊。彼女の新婚生活について書いているエッセイなのだが、わりとオープンに色んなことを語っていて、2人の生活を覗き見しているような気になってくる。

誰かと暮らし始めれば誰もが感じるようなこと−「この人はどうして手を洗うだけで洗面所じゅうを水びたしにするんだろう?」とか、そんな生活のなかの細かなすれ違い−から、ほかには例えば彼女はこんなことを言っていて、初めて読んだときはなんてめんどくさい女なんだ!と夫さんに同情してしまった。

たとえば一緒に暮らす前ならば、夫が会いにきてくれるととても嬉しかった。会いにくるということは、私に会いたいのだなとわかったから。でもいざ一緒に住みはじめると、夫は毎日ここに帰ってくる。私に会いたくなくても帰ってくるのだ。そのことが腑に落ちなかった。

何度読んでもピンとこなかった彼女の言いたいことが、初読から10年以上たったいま、なんとまぁ、よくわかるではないか。初めて「あれ?なんかこれわかる」と気づいたときには慄いてしまった。すっかりめんどくさい女になってる、わたし!

不穏なしあわせ、というのがいま改めてこの本を読んで浮かぶ言葉。それは同時に、というかもちろん、というか、わたし自身の結婚生活においても浮かぶ言葉なのであった。


#日記 #エッセイ #書評 #毎日更新






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