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小説新人賞の受賞戦略とは

最終選考で落ちた私は、選評を何度も読んだ。そしてWEBの小説コンテストの受賞ノウハウのような記事を読み漁った。

そしてわかったことがある。
最終選考まで残る小説は技術的にもストーリー的にも遜色はない。でも、その出版社や審査員の嗜好に合致していないといけないのだ。

私が選んだテーマは国際協力の現場。
舞台は内戦終結から間もないカンボジア。復興のための調査で地雷原を行く日本人女性と、ぶつかり合いながらも友情をはぐくんでいく相手国の登場人物。地雷原を抜け、誘拐やテロ、空爆に遭遇しながら何が正義なのか悩み続けるという話だった。

エンターテインメントで書いたが、受賞するのには様々な欠点があったかもしれない。
1. カンボジアや国際協力のことを知らない人が読むことを想定して、情報を入れ過ぎた
2. ほのかな恋愛感情を抱く相手が途上国男性だった
3. 主人公の職業があまりに馴染みがなさ過ぎた

まず、説明しすぎ。お国事情と国際協力事情を説明すると物語のスピードが落ちる。知ってもらいたいことが多すぎて、情報過多になってしまった(苦笑)。4人のうち女性審査員の一人だけが「他に例を見ないオリジナリティがあるから推した」と言ってくれたが、例を見ないってのは当たりはずれがあるかもしれない。
二番目の恋愛対象について。審査員は4人のうち3人が男性だったため、主人公を救うカッコイイ男が途上国の外国人では共感を感じにくかったのではないかということ。そんなこと、直接的に書いていなかったけど……たぶん、影響してるかなぁと思う。
三番目の原因も、致命的。開発コンサルタントってなんだ???ということで、「説明しよう」のヤッターマンがたくさん出てきてしまう。(ヤッターマン知らないかな?)

で、次の作品を書くにあたって立てた作戦はこんな感じ。
1. 日本とインドネシアの両方を舞台にする。
カンボジアよりもインドネシアの方が日本人にとって馴染みがあると思われた。今はカンボジアもかなりポピュラーだがインドネシアの方が大国だ。
2. 女性主人公でも、恋人は日本人にする。
レビューに「こんなダメ男のどこがいいのかわからない」みたいなことを書かれたが、私は愛すべき男性を書いたつもりである。
3. 選考者はマスコミに所属する人たちなので、主人公は雑誌記者にした。新聞記者の友人がいたので情報はあった。

そして、一番大切なのは、どの賞に応募するかである。
残念ながら娯楽ミステリーには合わなかったと思う。どんなに娯楽風にしても、やっぱり職業柄、社会経済を織り込みたくなってしまう。
だとしたら……さて、どうしよう。

翌年の2007年、「城山三郎経済小説大賞」が創設された。
私は学生時代から城山三郎先生の作品が大好きだったので、ここに照準を合わせた。審査員は4人でうち女性はひとり。ここでも男性有利だが、経済小説を書いている先生たちならば、細かな社会経済状況を説明しなくても大丈夫だ。

こうして私は3度目の最終選考でやっと大賞を受賞することができた。

何を書きたいかは人それぞれだが、ある程度は、賞の特色を研究して戦略を立てることも大切なのだと思う。
私は落選した作品が劣っていたとは思っていない。人によっては、「過去に落ちた作品が一番気に入っている」と言ってくれる。結局、マッチングなのだと思う。出会えるかどうか、なのだ。その小説を好んでくれる人に出会えるかどうか。興味を持ってくれそうな人に情報が届くかどうかだと思う。

恋愛小説、ミステリー小説、推理小説、ホラー小説、経済小説、社会小説、ファンタジー小説など、色々ある。どんな小説にも意味があり、価値がある。表現者として、自分にしか描けないものを書く。たとえ賞がもらえなかったとしても、オリジナルの作品には価値がある。私の経験はあまりに突飛でノウハウとしては役に立たないが、何かの参考になればと思う。

さて、次回は何を書こう。
そうだ、落選経験ばかりじゃなくて、受賞したときのことでも書こうかな。
その時はザンビア(アフリカ)のプロジェクトに従事してたっけ。
やっぱ私、まともじゃないね(苦笑)。


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