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院の御子 第一章 畿内編

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『院の御子』・・・「畿内編 序」

『院の御子』・・・「畿内編 序」

御子とその周辺人物(ネタバレ注意)■院の御子(いんのみこ)………………主人公。九条院 呈子(しめこ)の女房であった隆子(肥後守藤原資隆の娘)と後白河院の子として生まれる。後白河院は、ある理由によって、この主人公に名を与えない。なので、彼女はある一時以外は、最後まで「御子」「姫宮」などと呼ばれ、鎌倉側史料『吾妻鏡』にもそう記されている。

■後白河院(ごしらかわいん)………………平清盛の権勢を誇る中

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院の御子 第一章 畿内編

院の御子 第一章 畿内編

一、父と子 永万元年(1165年)、ある夏の夜――。激しい雷雨で、京(みやこ)の夜空は青く瞬いている。
 雷鳴の轟く中、泥をはね上げながら男は馬を走らせる。宮城の外、桂川のほとりで馬を降りると、激しい雨が叩きつける地面に抱えていた包みを置いて、太刀を抜いた。
 目が痛いほどの光を放って稲妻が空を走る。包みの中には赤子がいた。激しく泣く赤子の喉元に、男は切先を向ける。雨が、男の整った鼻先からいくつも

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