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目指すは“ギャルとお年寄りが混在する店”。60歳以上の雇用創出に取り組むサンドイッチ店のオーナー・早坂歩美さんの想い

早坂歩美さん(写真右)
1987年生まれ。神奈川県出身。大学在学中にクラフトビールに興味を持ち、クラフトビール専門の飲食店でアルバイトを始める。大学卒業後は複数の飲食店で勤務した後、30歳で独立。「好きなことを仕事にしたい」と、クラフトビールの専門店を2018年に、現地で食べ歩いて研究した台湾火鍋の専門店を2021年に出店。2022年10月、東京・代々木に出店した3店舗目となる「AGING SANDWICH」は60歳以上の雇用創出を目標に掲げ、第一号として父の明郎さん(69歳・写真左)がスタッフを務める。2022年12月よりクラウドファンディングを開始。https://www.makuake.com/project/agingsandwich/

念願のサンドイッチ屋で、高齢者雇用の創出に挑戦。きっかけは父の事故だった

――早坂さんは他にお店を2店舗経営されていますが、今回3店舗目となる「AGING SANDWICH」(以下AGING SANDWICH)をオープンされるまでにはどのような経緯があったのでしょうか?

最初にオープンしたのが現在渋谷にあるクラフトビールのお店「HABURASHI-Beer and Potato-」(以下HABURASHI)です。HABURASHIは北欧をイメージしたお店で、クラフトビールとポテトをメインに提供しています。

私はサンドイッチが大好きで、実を言うとHABURASHIでサンドイッチを提供したかったんです。しかし初めての出店ということと、初めは私一人で営業するつもりだったのもあり、オペレーションの面で断念することになりました。そうして出店したHABURASHIが都合により、早ければ2022年の年末に移転する計画が持ち上がりました。

「移転してすぐにクオリティや売上を保証できるだろうか?」「移転作業の間の売上を、2店舗目の火鍋専門店だけで補えるだろうか?」と新規の出店を検討するうち「そうだ、最初に断念したサンドイッチのお店を3店舗目として出店しよう」と。それから出店に向けて準備を始めました。

――AGING SANDWICHでは60歳以上の雇用を目標に、早坂さんのお父さんがスタッフとして働かれているんですよね。

実はAGING SANDWICHのコンセプトには、現在69歳の私の父が深く関係しています。

1店舗目であるHABURASHIをオープンしたのが2018年3月3日。ちょうどその1週間くらい前に、父が仕事中に頭蓋骨と背骨を骨折する大けがをしてしまったんです。父は建設業の事務職をしていたのですが、その日はたまたま人手が足りず工事現場に出ることになり、事故に遭ってしまって。当時私はお店のオープン前で手一杯だったので父のことは姉に全て任せっきりだったのですが、その事故を機に今までは目を背けていた親や家族との関係に向き合うようになりました。

しばらくしてからコロナ禍に突入し、人との関わりの希薄さや、離れて暮らす家族との関わりが世間的にも意識されるようになりました。親の老後が気にかかる中で「父と何かできないだろうか?」とより強く思うようになり、出てきたのが「父と一緒に働く」というアイデアでした。

日本の社会問題となっている高齢化社会の課題を掛け合わせて、「父のような高齢の方が長く働けるような場所を作れないだろうか?」と思索。それなら60歳以上を雇用するサンドイッチ屋をやろう!というテーマに決めました。もともと人と話すのが好きな父は、この話をすると「ぜひやってみたい」と快諾してくれて、AGING SANDWICHの企画が本格的に動き出しました。

AGING SANDWICHは“親と自分の将来を見据える場”

――飲食店で60歳以上の方を積極的に雇用するのは珍しい取り組みだと思いますが、実際にやってみてお店はどんな感じでしょうか?

高齢の方と若者が交流できる、疑似家族型の店舗になるんじゃないかなと期待しています。

親の老いていく姿って実際に体験するとショックで、子供としてどう対応していいか戸惑ってしまう人も多いと思います。若い頃はバリバリ働いていた親もできないことが増えていき、新しいことが覚えられなくなっていきます。例えばお店の業務では、キャッシュレス会計の方法を覚えるだけでも父は一苦労なんです。現に私も仕事中、父に何度も同じことを聞かれると「この前言ったじゃん!」と怒ってしまうことがあります。ですがそんなとき、他のスタッフの方は優しく対応してくれるんです。

このお店では60歳以上の方のことを親しみを込めて“AGING PEOPLE”と呼んでいます。若いスタッフの方たちには「親、そして自分も、こうして年を重ねていずれは“AGING PEOPLE”になっていくんだ」と徐々に慣れていく場になったらいいなと思います。AGING SANDWICHでの経験があれば、自分の親に対しても「何でできないの?」といらいらしたり悲しくなったりしてしまうことが減るかもしれません。

高齢の方は自分より若いスタッフやお客さんから新しい知識やエネルギーをもらえて若返るだろうし、若いスタッフは高齢の方の仕事のサポートをしつつ昔の知恵をもらう。うちの父はよく、スタッフにバブル期の日本の話をしていますが(笑)、そんな風に60歳以上の人と若者が混在する店になったらいいなと思います。派手な見た目をしたギャルのスタッフが「ウケる!また聞いてきたんだけど!」と言いながら“AGING PEOPLE”の仕事をサポートしてあげる、そんなやりとりがあったら最高に面白いんじゃないでしょうか。

――メニューについて、こだわりを教えてください。

高齢の方を雇用するというテーマが決まってから、“AGING PEOPLE”と掛け合わせてメニューを考えました。「年を重ねた、熟成した」というイメージから発酵食品や乾物、ドライフルーツをメインの食材として使用しています。サンドイッチの具材は、クリームチーズにスモークサーモンと桃のドライフルーツを合わせたものや、サバとあんずを合わせたものなど、他にはなかなかない組み合わせです。

パンはデニッシュパンを使用していて、見た目はおしゃれですが具材がたっぷり入っているのでボリューム満点。お酒とも相性抜群です!お店では私が大好きなクラフトビールやワインも取り揃えているのでぜひ一緒に楽しんでほしいです。

家族を思い出し、思いやるきっかけに

――お店にはどんな人に来てほしいですか?

強いて言うなら「せかせかしない人」でしょうか。“AGING PEOPLE”は、お客さんからのオーダーを何回も聞いてしまうかもしれないし、レジを待たせてしまうかもしれない。けれど、そんな光景を楽しんで、ゆったり過ごしていただけたらと思います。

最近は核家族化が進み、家族とのつながりが希薄になってきているからこそ、このお店に来てもらって、自分のおじいちゃんおばあちゃんや両親のことを思い出してもらったり、年をとった両親にきつく当たってしまう人は少し優しくできるようになったり。そんなきっかけになることを願っています。

それからテイクアウトにも力を入れていて、サンドイッチはお土産や差し入れにぴったりなので、ケータリングやイベント、公園でのピクニックなどにぜひ使っていただけたら嬉しいです!

――これからどんなことをやっていきたいですか?

若い人と60歳以上の人が混在して働く場を創るため、AGING SANDWICHの店舗を増やしたいです。目標は1店舗につき60歳以上の方を1〜2人雇用すること。

売り上げはもちろん大切ですが、私は60歳以上の方がお店にいることに意味があると思っています。正直、おばあちゃんがお店にいて、編み物をしているだけでもいいんです。テイクアウト用の資材にスタンプを押すような簡単な仕事でもいいですし、まずは働く場に高齢の方の存在を受け入れることが大事。今は第一号として私の父に働いてもらっていますが、今後は一般での雇用や、ハローワーク等からの雇用も視野に入れています。

店舗を増やすためにもまずはある程度の知名度が必要なので、駅ナカでの出店や、ポップアップでデパートに呼んでもらうなど、AGING SANDWICHの存在にスポットライトが当たるようにしたいです。若い人にとっても高齢の方にとっても、将来こんなお店で働きたい!と思ってもらえたら嬉しいです!

AGING SANDWICHのInstagramはこちら↓

https://www.instagram.com/aging__sandwich/

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