女性芸人は無駄にぶつからなくていい

以前、女性芸人の変化という文章をここに書いた。そこでは主に、3時のヒロインが『第七キングダム』という番組で「恋愛で女子を傷つけるバッドガイに振り回される女子たちの悲しみや怒りを発散させる」「さよならバッドガイ」というコーナーではじけていた話が中心だった。

今回はその後、『しゃべくり007』に第七世代の女性芸人が出ていたときの話が中心である。その中でも、ぼる塾の話を中心に書いていきたい。

私のぼる塾のイメージは、いまだに30代の田辺さんを20代のあんりときりやさんがいじるというもので、あんりは、つっこみでは田辺さんに優しいが、それは自分たちより高齢であるからというようなものだと思っていた。だから、ネタとしては、女性芸人にこれまで求められてきた、女性の状況を自虐的にみせるものだと思っていた。

しかし、『しゃべくり007』の彼女たちの発言には、そんな感覚はほとんど見られなかった。少なくとも、彼女たち3人の間では。

ぼる塾は、仕事でこういうものが来たらNGということが決まっているらしく、それは「体張るのNG、水着NG、大食いNG」というものだった。

大食いがダメなのは、「わたしたちはおいしく楽しく食べて太るってのがポリシーで、無理に食べたら変な太り方しそう。結果大食いはいいんですよ。大食いしてくださいっていわれたら残す可能性あるので」という理由だという。

また、森三中がなにかあると相撲をするお約束をさして「相撲は、(メンバーとは)仲いいから…。ほんとにイラつけばできるんですけど、この体でってのが無理なんですよ」「三時のヒロインもすごい面白いし素敵だなと思うからぜんぜんケンカする気になれない」と言っていた。

ただあんりは、この日出演していた別の女芸人の、世間知らズ西田とは、「本当に仲が悪いから(相撲)できる」と言っていたし、その後は口喧嘩をする場面もあった。これもまったく理由がないわけではなさそうで、西田が「後輩でデブのくせにこういうのNGって言ってるのわかんないですし、芸人だしやんないとしょうがないでしょ」というと、あんりも「お前、笑いが下品なんだよ」と返していたので、普段から相容れないところがあるのかもしれない。

こうした、本当に思ったことなら言えるが、テレビが求めるお約束はできないというのは、第七世代に見られる特徴で、宮下草薙のふたりなどは顕著である。彼らは、先輩芸人やテレビ番組が求める空気に乗っからされるのが苦手というよりも、自分の主義としてというよりも、とにかくできないのだと思う。あんりが西田とだけは言い合えるのは、本当に相いれないところがあるのだろう。

西田さんというこの芸人さんを悪く言うわけではないが、座り方も足を開き(ちょっとわざとっぽかった)、「芸人ならこうしないと」という気持ちを持っているようだから、きっと彼女は、男性芸人社会のやり方に迎合していくことが芸人として正しいと思っているんだろうなと思った。

もちろん、この話はやりだしたら長くなる。「女だから」足を開いているのはどうかと言えばおかしな話になってしまうのだが、彼女の場合は、男性芸人っぽくふるまおうとして足を開いて座っているように見えたということだ。

しかし、こんな二人にも、いいなと思う場面もあった。『しゃべくり007』のお約束として、相撲の「ぶつかり稽古」的なことをするというものがある。はっきりとは覚えていないが、マツコデラックスがゲストのときにはじまって、その後も、ときどきこうした場面が登場するのだ。

今回も、無理やり原田泰造と堀内健がそういう空気をつくり、まず、あんりを呼び出すと、上田が「あんりちゃん、あんりちゃん止めて」と小声で呼ぶと、あんりはいったんは仲裁に入ろうとするが、ふたりの顔をみて日和り「やだー」と一言。それでは弱いと堀内健がキック(軽く)すると「(弱弱しい声で)痛いんだけどー」「私こういうのやりたくないんですー」と訴える。

そこに、西田が入ってくると、そこでも堀内健があんりと闘わせようと西田を押す。すると西田はくるりと振り返り「何すんだよお前、あぶねえだろ!」と堀内に向かって吠えたのだった。

この場面は、以前であれば、女同士のぶつかりに持っていくのが正解だったからこそ、こういう流れに先輩芸人が持っていったのだと思われる。こういうことが全部いけないとは言わないが、私自身は、もう「お約束」も「女同士がケンカしていること」が面白いとは思えなくなっている。彼女たちが、これまでのように「この体」とか「お約束」にのっからなかったことを観て、そういう風に思っているのは自分だけではないのだなと思ったし、「ああ、こういうのはたぶんなくなっていくんだろうな」と思われた。

あんりといがみあっていた西田さえも、あんりとの「女同士のぶつかり」に持ち込まなかったのは、偶然なのか咄嗟にそうなっただけなのか、なにかしらの考えがあったのかはわからないが、けっこう「よかった」と思ってしまった。

あんりは、「楽しくないことがいやなんですよ。私たちが楽しんでる姿をみて楽しんでいただきたい」と言っていた。そういう気持ちが素直にネタにも表れるのをみてみたいと思った。

追記

これ、伝わってないところがあるかもしれないと思ったので、私がこの流れについて、何を「変わった」とか「いいな」と思ったということを書き加えることにしました。

もしも、今までの番組の流れでいけば、女性芸人たちは、男性芸人たちが「お約束」の「ぶつかり稽古」を始めたら、それに「のっかる」こと以外の選択肢はなかっただろう。あんりのようなつっこみ芸人ならなおさらのことだ。しかし、彼女は、別に「ぶつかり稽古」のようなことをやる理由がないし、それは自分の楽しいことじゃないと思えば、「やだー」と一言いって、そっちの反応を笑いに変えることもできる。

しかもあんりは、つっこみたいと思えば、つっこめる人なのだ。以前の『アメトーーク!』でも、あんりは先輩芸人だろうがなんだろうがキレッキレだったのである。

だから、『しゃべく007』であんりが「ぶつかり」に加担しなかったのは、消極的な理由や萎縮したからではない。むしろ、積極的にその場の空気や、長らく続いていた「お約束」の風習に抗ったということなのだ。「やだー」と拒否するのは、むしろ勇敢な行動なのである。

前にも書いたが、これは女性芸人だけでなく第七世代の芸人であれば、男性芸人でも同様のことをする人は多いだろう。「お約束」にはホモソーシャルな匂いも含まれている。だからこそ、第七世代が古い因習に抗うことは、ホモソーシャルの解体にも繋がっている。そして、もう「お約束」で笑わせる時代ではなくなっていっている空気を感じるのだ。


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