がん探知犬に「ガンの疑い有り」と言われた話

「がん探知犬」を受けました

「がん探知犬」ってご存知ですか?

特別に訓練された犬が、人の呼気や尿を嗅いで、ガンの発生を探知するというもの。

その的中率は、ほぼ100%と謳われています。

日本では、訓練している施設が1ヶ所のみですが、郵送での検査を誰でも受けられます。

私は、全般性不安障害を患ってから、「何か大きな病気にかかっているのではないか」「ガンや心臓病で死ぬのではないか」という漠然とした不安が常に頭から離れないという状態にありました。

そのため、少しでも体調が悪いと感じると、病院通いをやめられないという状態でした。

そんな私が頼ったのが、ガン探知犬です。

がん探知犬は、全身のあらゆるガンを、一度の検査で探知できるということで魅力を感じ、2016年と2018年の2回、検査を受けました。

検査の方法

検査の方法ですが、申し込みをすると、検査のキットが送られてきます。

大きな封筒と、ビニールの密閉袋、呼気を吹き込む紙製の風船のようなパックがキットの中身です。

キットには、被検者以外触れないよう注意書きがあり、紙製の風船に呼気を吹き込んでしっかりキャップをし、密閉袋に入れて郵送で送るだけ。

これだけで、全身のガンの検査ができるならありがたいと思い、多少料金はお高めだと思いましたが(1回目は5万円、2回目は3万8000円でした)、検査を受けました。

がんの疑い有り

検査結果は、2〜3週間後に郵送で送られてきます。

1回目の2016年の検査結果は、「がんの疑いはありません」。

不安障害の不安の要素を打ち消す意味合いで受けているので、ホッと一安心です。

ところが、2回目に受けた2018年の結果が、まさかの「がんの疑いがあります」というものでした。

全身の血がサーーーっと引いていくのがわかりました。

検査結果の用紙には、ほかに、「専門機関で精密検査を受けてください」と書いてあるのみ。

どこか病院を紹介してくれるわけでもなく、がんがどこの部位にあるのかも不明です。

このがん探知犬の検査は、全身のスクリーニングを謳っているかわりに、どの臓器のガンかまでは特定できないという問題があったのです。

「100%近く探知する」というのを信じるなら、私の体のどこかにガン細胞があるということ。

「ガンじゃない」と、不安を打ち消すつもりで受けたはずが、「ガンかもしれない」という不安の裏打ちをしてきて、正気ではいられませんでした。

PET検査の結果

こうなると、全身のどこかにある(かもしれない)ガンを見つけ出さないと、私の「死ぬかもしれない」という不安が現実になってしまいます。

私はすぐに、PET検査の予約をしました。

PET検査にも弱点はあって、臓器によっては、見つけにくい種類のガンがあることや、転移や再発のガンには有用だが、初発の早期ガンは見つけにくいと言われているということがあります。

PET検査で「異常なし」だったとしても、見つけられないガンもあるということですが、だとしても「ガンの疑い有り」と言われた以上、全身くまなく検査しないことには、疑いを打ち消すことはできません。

PET検査は、ガン探知犬どころでなく高額で、CTやその他の血液検査等も含めて、13万円以上かかりました。

そして、PET検査を含む、医療機関での検査結果では、特に異常は見つけられませんでした

100%の的中率?

しかし、それでも「ガンではない」とは言い切れません。

一般のがん検診でも、100%がんを見つけられるとは限りませんし、先程書いたように、PET検査にも弱点はあります。

今後は、体調の変化に気をつけながら、定期的な検診を怠らず、病気の兆候を見逃さないように生活するしかありません。

もともと、病気ではないことを確かめたくて検査したはずのガン探知犬ですが、今度は、ガン探知犬の検査結果が間違いであったという結論に着地しなければ、不安の元を断てなくなってしまいました。

私は、ネットで、ガン探知犬のことを検索しまくり、実際に検査を受けたことのある人の手記などを調べました。

多くは、「がんの疑いなしだった」という体験談でしたが、一部には、「がんの疑いあり」で、実際にがんが見つかったという人もいました。

また、がん探知犬に関する重要な情報も得ました。

2017年度、山形県金山町が、町が実施する検診にガン探知犬を導入したのです。

その結果報告が、下記のようなものでした。

金山町は、今年5月、2017年度、探知犬検診に同意した922人の検診結果を明らかにした。探知犬が陽性と判断したのは、男性4人、女性14人の計18人で、41歳から81歳。精密検査の結果、1人が早期の子宮頸がんと診断され、17人は経過観察となった。
課題も残った。探知犬が陰性とした6人に通常の検査でがんが見つかった。「探知犬の個体差や尿を入れる容器の大きさなども関係しているのではないか。全体的には、一定の成果はあったと思うが、正確性を期すため、検体数を絞るなど検診方法を一部見直すことを含め考えていきたい」
引用元:https://www.shidaikyo.or.jp/newspaper/rensai/daigakujin/post-81.html

検診を受けた922人のうち、がん探知犬が「がんの疑い有り」としたのは18人で、そのうち、医学的検査でがんが見つかったのは1人。

一方、がん探知犬が「がんの疑いなし」とした904人のうち、医学的検査でがんが見つかった人が6人もいたというのです。

この検診に関わった大学教授のコメントが、「正確性を期すため(中略)見直す」というものだったのです。

がん探知犬の検査を受けられるのは、日本で1カ所しかありませんから、この金山町が実施した検診で導入されたがん探知犬と、私が受けたがん探知犬の検査は、同一の施設のものです。

ただし、私は呼気での検査でしたが、金山町の検診では、尿での検査という違いはあります。

ですが、「的中率100%」を謳っているがん探知犬が、実際の検査結果を見てみると、この数字。

教授自ら、正確性に問題があることを認めてしまっています。

金山町では、3年計画で、このがん探知犬の導入を決定していましたが、2年目の2018年度をもって中止となり、計画の3年目は実施されませんでした。

公には、「教授の定年により継続が難しく……」とされていましたが、教授の定年は、計画当初からわかっていたことであり、3年計画が残り1年を残して中断されたことを見ても、このがん探知犬の検診への導入は「一定の成果」どころか、「失敗」を物語っていると思います。

私としては、がん探知犬の結果に疑義を見つけて、安心できる要素を得たわけですが、「的中率100%」と実際の数字のこの乖離は、問題ではないでしょうか?

がん探知犬の問題点

ここで改めて明記しておきたいのは、がん探知犬の科学的根拠については、まだ解明されていないということです。

犬が何に反応して、ガンだと識別しているのかは、まだわかっていません。

犬を信じるか信じないかの問題なのです。

また、がん探知犬側が示す「ほぼ100%の的中率」というのも、施設側が行った実験結果であって、実際の検査結果を追ったものではないということ。

つまり、あらかじめガンの診断が付いている人の呼気又は尿を嗅がせて、ガンと識別するかどうかの実験では100%だったかもしれませんが、ガンの診断がついていない人の呼気又は尿を嗅がせた結果、その人が本当にガンなのかガンでないのかの立証はしていないのです。

実際、検査を受けた私が、ガンの疑いなしの結果だった2016年当時にはガンではなく、ガンの疑い有りだった2018年にはガンだったか、施設側は知る由もありません。

これは、検査を受けたすべての人に言えることでしょうから、ガン探知犬の検査を受けた人が本当にその結果通り、100%的中しているとは言えないのでは?と疑問が残ります。

今回、金山町の検診結果が明らかになったことで、実際には、100%の的中率と謳うには程遠い数字であることがわかりました。

私のように、がん探知犬の検査で「がんの疑い有り」とされて、実際にがんが見つからなかった人はまだしも、問題なのは、「がんの疑いなし」とされたのに、実際にはがんであった人の場合です。

これでは、がん探知犬をがん検診として利用してしまった場合、みすみすガンを見過ごしてしまうケースを作ってしまいます。

金山町の検診では、それが922人中、6人もいたというのです。

これでは、「検診」としての機能はまったく果たしていないと思います。

私のように、実際にはがんが見つかっていない人の場合でも、「体のどこかにガンがあるかも」という不安を、ずっと抱えて生活しなくてはいけません。

金山町の検診でも、17人が「経過観察」となっていますが、もしがん探知犬の検査を受けていなければ、「異常なし」で健康な人が、無用な全身の検査を(私のように高額な検査費用を支払って)受けなくてはいけなくなってしまいます。

がん探知犬は、がん検診の代わりにはなり得ない

もし、がん探知犬の利用を検討していて、私の記事にたどり着いた人がいたなら、今回の記事を読んで、どのように思われたでしょうか?

私としては、正直に言って、おすすめはしません

特に、がん検診の代わりにがん探知犬を利用するのは危険だと思います。

上記のとおり、がん探知犬が「がんの疑いなし」と判断しても、がんが見つかった人がいるからです。

がん探知犬の結果で安心して、医学的な検査を怠ってしまったら、取り返しのつかないことにもなりかねません。

私としては、当初は、自分の心気症的な病気の不安を打ち消すために、がん探知犬の検査を受けたわけですが、がん探知犬の「がんの疑いあり」の結果を受けて、後回しにしていた人間ドックを受けるきっかけにはなりました。

がん探知犬は、科学的根拠のない検査であることも理解した上で、自己責任で受けると決めたことなので、納得はしています。

ですが、今後はもう受けることはないと思います。

がん探知犬の結果が「がんの疑いなし」でも「有り」でも、その結果を信じることはできないし、私の不安を打ち消すどころか、不安を煽る材料にしかならないからです。

もし検査を受けようと思われるのであれば、以上のような問題点を理解した上で、がん探知犬の研究にお金を費やす目的で行う、くらいに留めるべきでしょう。

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