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Vo.3「君は今も笑ってますか」



チャイおじさんが去った後も
私はビーズアクセ作りに勤しみ
列車に揺られ続けた。


そして何度目かの途中停車。
見知らぬ郊外の駅だった。


出発までの約10分間、
チャイやお菓子、カレーなど様々な物売りが
列車の窓越しに商品を売ってくる。


そして、乗車してくる人々に紛れて
ボロボロの服を身に纏った子供達の姿が目に入る。
「なぜ?」
と思う間もなく
彼らは各座席をまわって物乞いを始めた。


私たちと同じ階級の列車に乗れるインド人は、経済的に余裕がある人々。
(と言っても下から2番目の階級)


物乞いの子供達にお金をあげる人もちらほら。


そんな光景を見つめていた私に
1人の男の子が近寄って来た。


黒く焼けた肌。ガリガリの腕。
大きな瞳が際立つ顔は、どこか寂し気で。
もちろん、
差し出す手の平にはお金はのっていなかった。

「ごめんね。お金はあげれないよ。」
そんなひと言で
引き下がるわけがないのは分かっていた。


彼は頑なに動かない。


私の向かい側に座っていたインド人が
ヒンディー語で、
「立ち去りなさい」
と言ってくれたみたいだ。
私もビーズアクセサリー作りに戻って
彼に興味のないフリをすることにした。


それでも彼はまだ物乞いを続ける。
心を突き刺すような眼差しで
私たちを見つめ続ける。


困った向かいの席のインド人は
しょうがないなぁというような顔で
お金をあげようとする。


その時、
私の目に留まったのは出来たてのビーズの指輪。

「女の子用なのに、、
こんなものあげても
彼の生活はなにひとつ変わらないのに、、、」
それを考える前に手と口が動いてしまった。


「私貧乏パッカーでお金はあげれないけど
これ君にあげる!」
「ちょっと女の子っぽいかもしれないけど、、サイズはぴったりだと思うから。」


彼は驚いたような
戸惑っているような表情を見せた後、
照れくさそうにじっと指輪を見つめていた。


向かいの席のインド人が
ヒンディー語で通訳してくれた。


そして彼が顔を上げて何か言いかけたその時
「ピーーーーーーー」
発車のベルが鳴り響いた。


仲間の子供達が急いで電車を出て行く。
彼もその波にのまれ仲間とともに
去っていってしまった。


列車はベルが鳴り終わるのを待たずに動き出す。


「ビーズの指輪よりも
食べ物をあげるべきだったかなぁ」
「いや、むしろ小銭の方が良かったのかなぁ」


なんて思っていると
向かいの席のインド人が興奮気味に外を指差し
「窓の外を見て!」


鉄格子の窓の向こうに見えたのは
さっきの男の子。

「バイバーイ!!!サンキュー!!!」


列車の音にかき消されそうな甲高い声と共に
くしゃくしゃのとびきりの笑顔で
大きく手を振っていた。


そして、細くて長い彼の指には、
私があげた指輪がしっかりとはまっていた。


「心が震える」
という感覚を理解できた瞬間だった。


きっと彼は
この後も変わらず物乞いをするだろう。
そうしないと生きていけない現状なのも分かる。
それでも私は彼に
お金以外の「何か」を知ってほしかった。
(完全に若気のエゴだけど)


でもそんな彼から私自身が教えられてしまった。


「自分の作品が、誰かを笑顔にできんるだ」
ということを。


そしてそれが私の最大の幸せだということを。

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