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小人作家 -前編-

こんな相方、持たなきゃ良かった。


ヒロシは日を重ねるごとに、そんな思いが強くなっていった。

相方のタケシはネタも書かず、トークも磨かず、ただ遊んでいる男だった。ヒロシは、そんな相方に心底腹を立てていた。


コンビを組んで7年、全く売れる兆しがない。劇場ではややウケ、日本最大の漫才大会「漫才キング」では2回戦敗退。ヒロシは焦っていた。このままだと一生売れない。あいつのせいで、上に行けない。


そんなある日、ヒロシが家に帰ると、リビングから音がした。またタケシか、と思いドアを勢いよく開けると、そこには大量の紙と、一人の小人がいた。

事態を飲み込めずにいたヒロシに、小人は近づき、

「こんにちは、ヒロシさん。今日からよろしくお願いします。」

とお辞儀をした。


「え、なにこれ?ドッキリ?」

「いいえ、今日から私があなたたちの専属作家になります。よろしくお願いします。」

「……ん?作家?」

「はい。いくつかネタを書いてきたので見てみてください。」


疑問点が多すぎて収集がついていないまま、ヒロシは渡された台本を見た。そこには、ヒロシが書きたくても書けない、面白くも尖ったネタが書かれていた。

「いや、え、なにこれ。」

「私があなた方のために書いたネタです。明後日のネタライブは、このネタで出てもらいます。」

「いや待て待て待て。先に進むな、何も理解できてない。誰なのお前、小人?んでこのネタも意味わかんないし作家って何だよ、全部意味わかんねえ。」

「矢継ぎ早に喋りますねえ。やっぱり、ヒロシさんはツッコミに向いてる。」

「は?」

ネタを見返すと、『タケシ:ボケ、ヒロシ:ツッコミ』と書いてあった。

「いや、なんで俺がツッコミなんだよ。」

「いいから、いいから。とにかく、このネタで出てくださいね。」


状況を把握しきれないまま、2日後、渡されたネタをライブで披露した。すると、会場は地響きが起こるほどウケた。一言言うごとにウケる、まさに確変状態だった。俺たちは、その日のMVPを取った。

タケシは俺に向かって

「やったな、ヒロシ。こんなにウケたのはじめてだわ。」

と言ってきたが、俺は何も言わなかった。


ネタが面白いだけじゃない。タケシの表現力は、群を抜いていた。あいつはボケでこそ輝く。小人はタケシの才能を見抜いていた。俺は、7年も気づかなかったのに。


その日以降、俺たちは小人の書いたネタをやるようになり、「漫才キング」ではいきなり決勝に進出した。

決勝当日。「漫才キング」の本番は、テレビの生放送で行われる。楽屋でも、タケシは相変わらず呑気な表情を浮かべていた。俺は吐きそうになりながら、収録時間を待った。


俺たちはラストだった。悪くない。あとは、小人に渡されたネタを噛まずに言うだけだ。

「続いては、芸歴7年目、『ヒロタケシ』〜〜〜!」


俺たちは、初の大舞台に立った。


(後編はこちら↓↓)


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