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見きり発しゃ文庫『未完』

#1 スタートライン

私は天才だと思っていた。
私の人生の主人公は私で、
私の好きなように、
人生は、この世界は、回ってくれるのだと。

スーパーの惣菜コーナーを眺めながら思う。
きっと、いつか、
人生のボーナスステージがやってくる、
白馬の王子様でも、
夢を叶えてくれる魔法使いでもいいから、
私を、私の物語の主人公にしてくれないか、と、、、
何か特別、頑張ったわけでもない、
しかし、私は、
半額シールが貼られた寿司六貫セットを買う。

スーパーを出ると、
空は笑えないくらい快晴で、
私は太陽を睨みつける。
もちろん、太陽を直視することは、
目に悪いため、ぜひ、やめて頂きたい。
太陽を見る際に目を細めるのは、
ごく普通の反応だが、
私はこの行為に、小さな憎悪を込めた。

薄暗い部屋の中で、
なんとなくテレビをつけ、
チャンネルを変えようともせず、
私は、寿司を食べ始める。
パックの蓋が、醤油皿の代わりだ。
どんなに、気分が晴れない時でも、
米は旨いし、寿司は美味しい。
私は、テレビの音量をゼロにし、
一貫一貫、ゆっくりと噛み締め、味わう。
カーテンの隙間から、
やつが、やつの光が、
ゆっくりと、優しく、少し気まずそうに、
私の空間を包み込んだ。

焦る必要はない、漠然と不安がる必要はない。
ゆっくり、ゆっくり、
誠実に、着実に、コツコツと。

ふふっと、私は小さく微笑んだ。
「…ごちそうさまでした!」
やつのぬくもりを肌で感じ、私は立ち上がる。

よし、始めよう!
いつでも、そう決めた瞬間が、
スタートラインだ。



拙い文章ですが、私の中のベストです!
最後まで、読んでくださって、
本当にありがとうございます!!

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