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夜の映画館

映画館の外に出ると夜の闇の濃度が濃くなっていることに気づく。
街の光、におい、温度、吹く風、行き交う人々の姿が変化している。
ああ、自分はこの2時間たしかに箱の中で過ごしたんだと実感する。

みんな駅に向かって歩いていく。仕事おわりの人、飲み会終わりの人、デート終わりの人、友達同士で遊んでた人。そのなかで自分は彼らと異なる時間と空間にさっきまでいた。平日でなおさら客が少ない映画館の箱の闇の中に身を据え置いて、2時間たっぷりと画面とスピーカーから光と闇、音と静寂にひたり続けた。箱の中で得た刺激を抱え、ひとりで帰る。彼らにまじって。彼らの中でこの刺激を得たのは自分だけ。彼らと異なる刺激を得たと実感すると、その刺激がより一層際立つ。

映画をみて得る感覚や感情はすぐに消化できない。時折SNSで映画の感想をすぐに言語化して表出する人を見るが、すごい能力だと思う。自分はできない。ただひたすら、「あのシーンすごかった。ジンときた。こわかった。いやだった。気持ち悪かった。笑えた。泣いちゃった。美味しそうだった。わくわくした。楽しかった。」とか一言でしか表現できない。詳細な言語化に時間がかかる。帰り道に歩きながら、印象に残った映像やセリフをリフレインさせて、もういちど感覚の深部に潜ろうとする。その行為を通してより一層作品を探索する。

家に帰る。誰もいない一人暮らしのひっそりとした静かな部屋で、あとは寝るだけ。箱の中で得た作品の記憶をたどり、その深部に沈みながら、そのまま眠るだけ。

レイトショーが好き


(おしまい)

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