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遠い昔 ことばがなかったころの〈3〉

木々の葉が色付いて、
夜空に見える星が、
冬の星になってきました。
石さん、
あなたは、
ことばがうまれる
ずっとずっと前から、
頭の上に、
黄色や赤色の葉っぱをのせて、
頭の上に、
星をめぐらせて、
ここに居ます。
人は、
あるひとつのことを、
〈ことば〉にして、
良いことにも、
悪いことにも、
して、
今日ここに居ます。

頭の上に、
葉っぱをのせて、
星と共に居る。
そのことが、
良いことでも悪いことでもない、
ことばのない今日に居て、
あなたは、あまりに、
すこやかです。
すこやか?
ことばにすると…
それもほんとうは、
少しばかり違う…。

私は、
ちょっとあなたが、
うらやましいです。
うらやましい?
ことばにすると…
それもほんとうは、
少しばかりあてはまり、
少しばかり違う。

石さん、
ほんの少しの間だけ、
あなたのとなりで、
ただぼーっと、
して居ます。
あなたの頭の上を、
見上げて居ます。
葉っぱが、
ふってきます。

あなたに、
もし〈ことば〉があったら、
きっと、
いろんな話が聞けるんだろうな。
人のことばなんて、
きっと、
敵わない。

絵はがき〈2011年11月〉

カバンにコップをひとつ
ぶら下げて
ぼくは歩いている

途中 岩に腰かけて
コップに紅茶を注ぐと
岩のそばに美しい石が
暮らしていて
そっとぼくに話しかけた
紅茶の話
夕べ流れた星のこと

紅茶は
ぼくと石のまわりを
華やかにあたため
ぼくののどを通ると
とくん と
おなかに落ちて
空のように広がり
やがて
透き通っていった

「明日の晩 君の行く先で
 星が流れるから
 ぜひ連れていってほしい」
と 石が言うので
ぼくは石を拾い上げ
カバンにコップをぶら下げると
また 歩き出した

コップの底から
まだほのかに残った
紅茶の香りが
風にのって
ぼくの所へやって来る
素敵なお茶の時間があることを
忘れないで、と。

………………………………
2011年に、
「11月1日・紅茶の日」のために書いた
絵と詩を見つけたので…
2023年の今日も相変わらず、
岩も石も紅茶も、
私の友です。

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