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なぜ今社会人大学院に行くのか?

2020年4月からJAIST博士前期課程社会人コースに進学しました。伊藤研究室にて人類学のビジネス応用をテーマに研究予定です。

かれこれ数年、長らく検討や準備をしてきたので、どんなことを考えて決断するに至ったか?というWHYを中心にここでは記しておこうと思います。合格までのHOWはこちらのnoteに書きました。

文化人類学を専攻していたICU時代

まず私のバックグラウンドですが、ICUで文化人類学を専攻していました。とある授業で「文化人類学とは相手の目から世界はどう見えているか?を知ること」という言葉にビビッときたのが出会いです。ゼミではホームレス支援のフィールドで支援者と被支援者の関係性をテーマにエスノグラフィ調査を行い、支援団体の施設でおにぎりをみんなで作り、大学のすぐとなりにある公園にアウトリーチにいく中で、自分の生活のすぐ隣にこのような世界があったことに衝撃を受けました。そしてその後も山谷、横浜市寿町、福岡県北九州市など各地で炊き出しボランティアを通して個人的にフィールドワークを行ってきました。卒論は島根県津和野町にて地域おこし協力隊の活動について、地域活性化というフィールドでこれもまた支援者と被支援者の関係者を研究しました。

ひとりひとりの物語に出会い、世の中をリフレーミングしていく文化人類学という学問は面白かったし、自分には合っていると思います。ただ、学部時代には大学院に進学するという選択肢は一度も考えたことがありませんでした。というのも、文化人類学で修士・博士と進んだ時に研究者になる以外の道がイメージできなかったし、理論よりも現場を重視してきた…というと聞こえがいいですが、要するにインターンなどに熱中してあまり熱心に勉強はしていませんでした。(実際、入試のために成績表を取り寄せてあまりのひどさにびっくりしました)

進学をぼんやり考え始めたリクルート時代

新卒で入社したリクルートでは、配属面談で「カスタマーに近い企画の部署がいいです!」と伝えたところデジタルマーケティングの部署に配属され、日々データ分析やKPIモニタリングをしたりと定量データと向き合う日々でした。たしかにカスタマーひとりひとりの積み重ねたデータではあるものの、カスタマーから近いようで遠く、自分が担当しているサービスは誰の役に立っているのか?が見えなくて悶々としていました。

そんな中、ふと「エスノグラフィとかやっていたならUX系の部署に来てみたら?」と声をかけてくれた方がいました。後々その上司の部署に異動しプロダクトマネージャーとしてキャリアを積んでいく中で、UXやサービスデザインという分野、中でもUXリサーチはコアスキルとして磨いていきたいものとなりました。

また、リクルート在職中は多くの研修や海外カンファレンスに参加し視野を広げる機会があり海外ではエスノグラファーという職種があることを知ったり、本を読み漁る中で樽本さん著書「UXリサーチの道具箱」にハイテク人類学者という言葉が出てきたり、IDEOのトム・ケリー著書「イノベーションの達人」という本にも人類学者が一番に紹介されていたりと、学部時代は知らなかっただけで人類学にはこういうフィールドもあったのか!と思いました。

ただ、UXもサービスデザインも元々専門的に勉強していたわけでもないし、本を読んだり勉強しながら現場で実践してきて我流でやってきていたのでなんとなく行き詰まり感があり、それなりには出来ている風だけども自分の知識は脆く深みがないなと思っていました。たまたまうまくいっただけで再現性があるわけではないのかも、とか、人に説明したり教えたりするときに納得感がないなと。そんな危機感から進学という選択肢をぼんやりと考えるようになります。

自分自身が作り出していた『30歳』の壁

一方で、私はとにかく30歳までに急いでキャリアを積まなければと必死でもありました。就活でも「出産から逆算して考えろ」みたいなことを多方面から言われて、「30歳までにキャリアを積みきらなければ勝ち残れない」という風に自分の中で『30歳』というのはひとつ勝手な制約になっていました。残り少ない大事な20代を進学によって空白期間にしてしまっていいんだろうか?とはいえ30代は余計に進学なんて難しくなってしまうのではないか…?そんなことが頭の中をぐるぐる巡って八方塞がりになっていました。

しかし、一度働いてから大学院進学をする方にいろいろ話を聞く中で、まだ小さいお子さんと夫を置いてデザインスクールへ進学する方や、お子さんを連れて留学する方など様々なやり方があることを知って「いくつになっても、どんな状況でもなんとかできるんだ!」と勇気をもらいました。勝手に『30歳』の壁をつくっていたのは自分自身だったのです。

ICUコミュニティからの刺激

そうして腹をくくり始めたものの、リクルートでは周りを見渡しても社会人学生をしている方はあまりいませんでした。そんな中、サービスデザイン界隈で働くICU卒業生とのコミュニティはとても大事なものでした。彼らとは不定期で飲み会をしていたのですが、海外の名だたるデザインスクール卒業生や現在進行で社会人学生をやっている方もいて、そのように理論と実践を行き来している姿には刺激をもらいました。こういった会社だけでないコミュニティがあったのはとても大きかったと思います。そしてそのコミュニティの方の出身校であるCIIDが気になった私は、思い切ってデンマークで開催されたサマースクールに参加してみました。当時の振り返りはnoteに数回に分けて書きましたので気になる方はぜひお読みください。

今思えば、方法論を実践的に学びたいのか、それとも研究をしたいのかで進学先は大きく選択肢が異なってくると思います。そして研究するとなると、どの先生の研究室に所属するかは重要です。ただ、この時点ではそんなこともよくわかっておらず、とりあえず気になるものに体当りして情報を集めていました。twitterやブログも読み漁り、特に以下アドベントカレンダーはリアルで参考になりました。

メルペイに転職、進学を決意

そしてメルペイにUXリサーチャーとして転職し、進学の熱は高まることになります。同僚は社会人学生として博士課程を終了し、元研究職というアカデミックなバックグラウンドの方。知識の広さと深さを生かしてUXリサーチの実務で活躍している姿を身近に見れたのは非常に刺激になりました。

また、転職当初は「ジェネラリストのためのプロフェッショナル期間」と位置づけており、しばらくUXリサーチャーとして強みを身につけてまたプロダクトマネージャーになるのもいいなあ…なんて考えていましたが、何よりこの仕事が面白く、やはりUXリサーチの第一人者として突き抜けるまで極めたいという思いが日々強くなっていきました。UXリサーチの国内市場は今まさに盛り上がりつつある状況で、数歩先に進んでいる海外情報をキャッチアップしようとよく海外企業のUXリサーチ求人をチェックしているのですが、修士博士はマスト条件であるところも多く、もう進学は必須だなとまで思えてきました。

じゃあどうする?

いざ進学!となった時、海外or日本。デザインスクールor研究。サービスデザインor文化人類学。いろいろな軸で迷いました。

いまこの面白い仕事をやめたくない

まず海外or日本。大前提として、仕事をやめたくないという思いがありました。メルペイでのUXリサーチの仕事が面白いし、いま激戦のこの決済領域で新規立ち上げからグロースまでやってきて、かつUXリサーチに理解がある組織で働けていて、こんなに面白いいまこの瞬間を逃したくないし、何ならメルペイをケーススタディに研究したいという気持ちが強くなりました。この時点で海外の選択肢は消えますし、国内でも社会人を前提としたプログラムのところが有力候補になります。ただ、海外に関しては今後研究生として留学するといった道は模索したいなとも思っています。

研究が向いているか、とりあえずやってみる

次にデザインスクールor研究(デザインスクールでも研究活動はあるし二項対立だとは思っていませんが便宜上こう書きます)。実践的な方法論を学びたいのか、研究をしたいのか。これは前に触れたとおり正直ピンときていなくて、体系的に学びたい気持ちもあるし、研究っていっても卒論ぐらいしか書いたことがなく自分には本当に向いてるのかわからないし、選択肢を絞りきれずにいました。いまでも研究が向いているかは不安です(笑)こればっかりはやってみないとわからないですね。ただJAISTの博士課程前期は授業も充実しており、修士課程は結構な単位数が必要なため学ぶことと、研究とどっちも取りができそうかなと思っています。

好きなこと×ニッチなことを掛け合わせる

最後にサービスデザインor文化人類学。サービスデザインを軸とするなら、第一候補は武蔵野美術大学の造形構想。新しくできたばかりのコースで講師陣も豪華で面白そうだな〜と思いつつ、学費がネック…。ICUの時点で数百万の奨学金を借りて絶賛返済中なのに、さらに奨学金を検討するというのはちょっと現実的ではありませんでした。

他にどういう選択肢があるか調べている中、そういえばと思い出したコラムがありました。人類学者の方がデザインコンサルファームA.C.Oにて面白い記事をいくつか書かれていたのです。(この記事を書かれた比嘉先生は伊藤研究室で助教授をされているのだそうでこれからご一緒できるのが楽しみです!)

これをきっかけにJAISTを知り、文化人類学という軸からサービスデザインやUXリサーチを捉え直していくのも面白そうだなと思うようになりました。JAISTは社会人コースがあり、平日夜と土日で通えるのも決め手になりました。

私がこのコラムに「おっ!」と惹かれたのは、文化人類学者がUXリサーチやサービスデザインといった領域で活動しているのがまだまだレアだからだと思います。そもそも文化人類学者が少なくマイノリティなのもありますし、ビジネスエスノグラフィのようにビジネス領域をフィールドにするとなるとさらにニッチになっていきます。自分が好きだなと思えて、さらに市場的にニッチなものを掛け合わせていったほうが自分も予想しないようなことが起こりそうで楽しみだし、大学院進学はかなりのお金と時間を投資することになるので戦略的にも良さそうだなと思い最終的には文化人類学を軸にしようと決めました。

そして合格!

そこからせっせと毎週末図書館にこもり論文を読んだり研究計画書を練る日々を経て、晴れて合格することができました!コロナの影響で春学期の開始が延期かつオンライン実施となり、履修計画を立てたり、ゼミに参加したりしつつ、ようやく来週から授業が始まるところです。ビジネスエスノグラフィだけでなく、社会調査法やデータサイエンスなども学べるのでとても楽しみです。研究では企業での質的データの戦略的活用をテーマに、メルペイの事例を中心に他社事例もリサーチしていきたいと思っています。UXリサーチをはじめ企業内で質的データの活用を実践している方、是非情報交換させていただければ幸いです!

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