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そんなころ、オーストラリアにアジアパシフィック全体のパソコンのコールセンターが設立されました。私はセンターの立ち上げを手伝うため、ブリスベンに2週間ほど海外出張に行きました。

コールセンターのマネージャーは、ヨーロッパでのコールセンター設立の実績をかわれて、ブリスベンにやってきたイギリス人男性でした。腹心の部下2名もイギリスから連れてきていました。週末、数名の同僚と一緒に、マネージャー宅のランチに招かれました。

ブリスベンの中心街からゴールドコーストに向かって車で30分ほどの、緑豊かな郊外の住宅地でした。開放的なリビングルームに足を踏みいれると、裏庭のプールの向こうに、桟橋と美しい運河がバッと目に飛び込んできました。この地域は運河が巡っていて、自宅の裏庭に自分専用の桟橋があり、直接ボートやジェットスキーに乗ることができる、高級住宅街だったのです。

プールではマネージャーのお子さん二人が、イギリスから連れてきた部下のひとりとキャッキャと歓声を上げながら遊んでいます。もうひとりの部下は、ジェットスキーを楽しんでいます。

ランチは庭で運河を眺めながらのバーベキュー。もちろんオーストラリア産のワインと一緒です。料理はシンプルですが、もてなす側も、もてなされる側も、リラックスして、みんな食事と会話を楽しんでいます。

当時の私は、ネイティブの英会話にはほぼついていけませんでしたが、愛想笑いでごまかしながら、心のなかでこう思っていました。

「なに、この生活!? これって、うちの会社の社長よりいい生活じゃない? 社長の家に行ったことはないけど、事業部長の軽井沢の別荘にはおじゃましたことがある。すごく素敵だった。でも、このマネージャーは事業部長クラスでなく、コールセンター長。それなのに、この豊かな生活ぶり。このギャップはいったいなに??」

自分が生きている世界と、眼の前のライフスタイルのギャップが強烈でした。家が大きいとか、プールがあるとか、そういう物質的なことではなく、人生を楽しむことに関してのギャップです。 

「どうして自分はこっちの世界にいないのだろう?」 
小さな疑問の種が、心に植えられた瞬間でした。


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