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今、バングラディッシュ「ラナ・プラザの悲劇」以上の事が起きようとしている

私達は、2013年にバングラディッシュの縫製工場「ラナ・プラザ」の崩壊で多くの犠牲者を出した大惨事によって、学んだはずではなかったのか?

COVID-19の影響により、「ラナ・プラザの悲劇」より多くの犠牲者を出す可能性がある。多くのアパレルブランドが生産国への支払い責任を破棄している。

世界中のアパレル店舗が閉店している影響で、既に生産完了している商品や生産途中の製品のキャンセルや支払い拒否など、膨大なしわ寄せが安価な労働力で産業を担う途上国に来ている。

通常、多くの発注元であるブランドは、完全な商品が港を出て輸出されるまで、支払いをしない。その事を利用して、縫製工場へ今までの注文分も破棄している。縫製工場は通常発注を受けると、生地などを先に購入し、生産を担う労働者への賃金を支払う。先に費用の肩代わりをしている。その分の清算を抱えたままブランドからの支払いがないと、どうしても(バングラディッシュの場合は最低賃金約月間1万2000円の)労働者への賃金の支払いさへ出来ない。また、今後のブランドの関係性もあるので工場の経営者などはメーカーへ強く交渉する事も出来ない状況だという。

影響の範囲は膨大

バングラディッシュだけでも、4月22日までに約10憶着の輸出が遅延もしくはキャンセルになり、230万人もの労働者への給料未払いや解雇等の影響が出ている。労働者の家族の人数まで考慮すると、1000万人以上が影響を被っていると考えられる。

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参照: バングラデシュ衣料品製造・輸出業者協会

ラナ・プラザの悲劇

ちょうど7年前の4月24日、多くのアパレルブランドが下請けとして縫製を依頼していたサプライヤーが多く入居するビルが崩壊し、死者1138人、負傷者2500人以上を出す大惨事が起きた。事故前日にビルの亀裂が発見され、使用を中止するように警告が出されていたようだが、そのまま放置されバングラディッシュ市場最悪の労災「ラナ・プラザの悲劇」が起こった。

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Image:Fashionsnap.com

こうした劣悪な労働環境の上に成り立っている安価なファッションを提供しているブランドが非難されたのをきっかけに、多くのブランドが手を取り合い、労働環境の改善や人権問題、サプライヤーの開示や素材の調達元などの透明性も改善されてきた。はず、なのに。。。

透明性の改善

実際に、4月26日(今日)まで実施されていた「Fashion Revolution」Weekなども、ラナ・プラザの事故をきっかけに、労働環境や人権問題を含むサステナビリティについて、ファッション産業を改革するためのグローバルキャンペーンとして世界中で展開され、現状を共有したり、各ブランドの取り組みを紹介したりと、生活者へ産業の問題点などを理解してもらう事で、正しい選択を促す事を行っている。

その中でも、先日発表されたTransparency Indexでは、調査の対象となった250のファッションブランドでは、年々2~4ポイントづつではあるが、サプライヤー情報の開示など様々な点での透明性が上がっているという結果が出ている。

でも、まだ足りない。

どのようにサプライヤーの労働者への賃金を保証するかを開示しているブランドは、250のうち11%のみに留まっている。

情報を開示しないという事は、COVID-19の影響下でもどの企業が責任を果たしていないかを隠せるという事。ゆえに、透明性の問題は、労働や人権の問題に直結しているし、早急に各企業が取り組むべき課題である。

正しい情報vs.マーケティングメッセージでの誤認

ここで注意をして欲しいのが、企業のブランディングやマーケティング活動によって、どのブランドが透明性を上げる事に力を入れているのか、サステナビリティ―の取り組みをどれだけ行っているかが、生活者に誤認されているという事である。

例えば、昨年2019年11月末にWWD Japanが実施したサステナビリティ―への興味関心度についてのアンケート結果では、「注目しているサステナブル企業は?」という質問に対して、下記の様な回答が出ている。「Stella McCartney」「PATAGONIA」「UNIQLO」「ADIDAS」「ZARA」の得点が高い。回答者は、WWD JapanをSNSなどでフォローしているファッションや情報感度も高い層であるにも関わらず、Transparency Indexで発表された実際の情報とは異なっている。

また、「注目しているサステナブル企業やデザイナーは?」という質問では、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)がダントツの1位だった。「ステラがサステナビリティという言葉を知ったきっかけになった」という意見も聞かれた。続いて2位が「パタゴニア(PATAGONIA)」、3位が「ユニクロ(UNIQLO)」、4位が「アディダス(ADIDAS)」、5位が「ザラ(ZARA)」という結果になった。

Transparency Index 2020結果

Transparency Indexの実際のランキングとスコアは下記の通りだ。(1位から5位まではランキング及び昨年からの変化を示している。The North Face以下は、WWDの回答に挙げられていたものと、日本のブランド結果を追記した。)

世界ランキングで1位の「H&M」は、(少なくとも)日本では「注目するサステナブルな企業」とはとらえられていないし、「ZARA」や「UNIQLO」に関しては、こうランキングのブランドよりも20~30ポイントもスコアが低い。かつ、Indexレポートの中で「UNIQLO」は2017年から開示情報の変更がないと記載があった。

However, the scores of approximately 30 brands have barely changed from 2017 to 2020, including Gap, Uniqlo and Walmart, among others. This means they have not taken significant steps towards increasing transparency within the past three years, compared to other brands.

実際のスコアはそれほど高くないが、ブランドとしてサステナビリティ―のメッセージが生活者に伝えられている事は、企業としてはマーケティングPR活動が成功していると言え、喜ばしい事ではある。しかし、正しい情報を生活者が認識し、商品を選択する時に念頭に置いておくことが真のサステナビリティ―に繋がっていくと考えている。

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問題解決には競争ではなく協業

ブランドの透明性が正しく生活者に理解されることは重要だが、今回の様な問題については多くのブランドが手を取り合い、産業全体を変えていくことが解決の糸口になる。

実際に、先週までは各企業がそれぞれサプライヤーへの発注分の支払い責任を果たすことを発表していたが、4月22日はILO(国際労働機関)を含むブランド各社やサプライヤー、労働組合が協力してダメージを最小限に抑えるためのグループを結成した。参加企業はPVH Corp., Ralph Lauren Corp. and VF Corp. to H&M, Adidas and Under Armourなどを含み、日本最大のファッション企業であるFast Retailingもグループ結成後の4月23日に参加する事をアナウンスしている。

COVID-19による感染は見えないところで広がり、収束させる事は困難であるが、この様なパワーゲームによる人災は企業努力によって最小限に抑える事が出来るはず。

人々を楽しませるはずのファッション業界で、これ以上の涙と命を犠牲にしないためにも、透明性を上げ、責任を取り、力を合わせるべきである。困難な時にこそ、企業姿勢が問われている。







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