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父と娘の珍介護道中(日記的エッセイ2010〜2022) 時々、母のこと、故郷のこと、自分のこと EP32

エピソード32
そのままにしちゃいけない気がしてお弁当会

2021-06-11

毎度2週間ぶりの父の面会。会うなり「日にちを間違えちゃったんだよ」と困り顔。ああ、またきたか〜。
最近この手の話が多いなと思いつつ、「どう間違えたの?」と尋ねると、「カレンダー(この言葉が出てくるまで時間がかかったので、何を言わんとしてるか想像して、「もしかしてカレンダー?」と聞いて判明)の数字が間違ってる」という。
私が、そんなわけないっしょと心の中で思うと、素早くその表情を読み取って、「間違ってるから部屋に来て確かめて」と、危うく激怒モードに入りそう。
なので、スタッフさんに「短時間で」と特別に許可をもらって一緒に部屋に行った。

クローゼットの把手にかかっているカレンダーはちゃんと6月になってる。
「お父さん、これ、ちゃんとあってるよ。今日6月11日の金曜日だよ」というと、まだ疑いの眼差し。
「じゃあ、テレビジョン(雑誌)が間違ってるのか」というので、枕元に置いてあるザ・テレビジョンをふと見ると、ページが6月5日のままになっていた。
「お父さん、何日めくってないの? これは朝起きたらめくらなきゃ。ほら、今日は、6月11日だからめくるよ。これでちゃんとあってるよ」というと、ようやく納得した様子で、「わかった。お父さんがいけなかったんだね。なんか狐につままれたような感じがずっとしてた」と。

先月末のワクチン接種は弟が連れて行ってくれていて、
そのことを聞くと、「大磯の役場に行ってね、11時から打った。何にも問題なかったよ」とちゃんと会話が成立する。でも、コロナ禍になったのと、昨年秋、腰を悪くしてオムツ生活になったこともあって、やっぱりガクッと気力が萎えた感じで、日にちとか時間とかの認識が落ち、言葉も出づらくなってる。
一方で「狐につままれたみたい」と言えるほど頭や心は冴えてる部分もあるから、色々と混乱することにイラついて、それをまたうまく伝えられないから、自分にもイラついて怒りモードに入りがちなんだろう。

よりよく生きるタイプの人だったのに、今は目の色も曇りがちで、以前のような笑顔もなくなってる。
もっと頻繁に会えたり、目に見える範囲のどうでもいいことをいっぱい話せたりしたら、脳も活性化するんだろうとけど、、、ま、今年94歳になる人としてはだいぶ頑張ってると思う。
多分私がそれを、今の父のパーソナリティとしてまだそのまま受け止められていないんだろうな。ってことに今日気づきました〜。
生き抜くってやっぱり大変なことだよね、と、つくずく。
カレンダーに「美保ちゃんくる」と丸をつけた2週間後の面会日まで、何か少しでもいいことがありますように。

2021-06-25

毎度2週間ぶりの父の面会。
このところ真夜中に電話で「困っちゃったんだよ」と伝言が入ってたり、かと思えば「この間はありがとうございました!」と大きな声で電話してきたり。
謎が多くて心配が募ってたから、さて、今日はどんなハプニングが? と思ってたけど、豈図らんや、今日は元気で、よくわかって、先週終わった二度目のワクチンの話など、たくさん喋りました。
「この間は美保ちゃんに悪いことしちゃった」(たぶん真夜中の電話のこと)とも。日によるんだね。

「元気は元気なんだけど、トイレがうまくいかなくてねぇ」と、それが一番の悩みだそう。「他の人だといいんだけど、〇〇さんだとダメなんだぁ」とずっとお世話になってるスタッフさんを名指しで言ったりも。
たぶんオムツ替えのときの息が合わないんでしょう。
「そりゃお父さん、人間、得意、不得意ってもんがあるよ」と言うと、「そうだなぁ。なんでも自分の思った通りにはいかないねぇ」と。

遅ればせの父の日のプレゼント(明るい夏用の長袖ポロシャツ)も喜んでくれて、ちょっとホッとしました~。
「次も2週間後ね」と言うと「わかった。オリンピックが始まっちゃうなぁ」なんて言ってたけど、また数日したら、
「美保ちゃん、ちっとも来ないけど、近々来てくれる?」と電話が入るはず。

2021-08-06

このところ血中酸素濃度値が下がり気味で、移動式酸素ジェネレーターが欠かせない父。勘違いや記憶違いも増えて、日にち認識はほぼなくなっている。
先日は、朝5時半(本人早朝とは思ってないはず)頃、「今度お昼一緒に食べようかぁ」と、なんとも言えないのどかな電話がかかってきた(この段階では父は外で私に奢る気満々)。
「そうだね。何か考えとくね」と答えて切ったけど、その声があまりにもいつもよりハッキリしてたので、これはそのままにしておいてはいけない気がした。

とはいえ、この状況下、本人の体調も含めて当然ながら外には行けない。
平常時だったらケアハウスのレストランで私の分も注文しておいて、他の人たちと時間をズラして食べることも可能だけど、今はそれも無理。
思案するうち、「持参したお弁当を一緒に食べられたらいいんじゃん」と思いついた。ケアハウスに相談したら、
部屋ではなく、アクリル板のある面会室でならOKとなり、
感染対策、食中毒対策、部屋を汚さない対策を万全にする約束をして、
本日「父とお弁当を食べる会」を決行。

酸素ジェネレーターとともに車椅子で1階の面会室に連れてきてもらうのが煩わしかったのか、自分が知らないうちに物事が決まっているようなのが気に入らなかったのか(何度説明しても忘れちゃうのね)、最初のうちはすこぶる機嫌が悪く、
「部屋に来てほしいんだよ」と困り顔をするばかりだったけど、
コロナが増えてるから今は部屋に行けないことと、「お父さんが一緒にお昼食べようねと言ってたから、私が作ったお弁当を一緒に食べられるようにみんなが相談してくれて、ここならいいですよってなったんだよ」とゆっくりしたトーンで根気よく話したら、「そうかね」と言ってようやく食べる気になってくれた。

最初は「まだお腹空いてない」と渋々だったけど、小さく切ったかぼちゃの煮つけを食べた途端、
「やっぱり季節のものは美味しいね」と言うではあーりませんか。
デザートの桃にも「季節のものはいいね」と反応。
ま、基本柔らかいのが美味しいとなるわけだけど、いろいろコワれているようでも、ちゃんと「旬」を感じる感覚があることがわかって驚いたし、嬉しかった。「次は量はいらないから美味しいものをお願いします。イワシの缶詰が食べたいね。いろいろワルいね。ありがとう」と言うので、
「それならラクでいいわ~。かしこまりました」と。

やっぱ刺激があると脳が活性化するんだね。
まぁまぁのイベント成果にホッとする思いで帰ってきました。
実現させてくれたケアハウスに感謝です。
そうそう、食後には姪(孫)とビデオ電話も。急に笑顔になってくれてよかった~。というわけで、また相談してからだけど、2週間に一回の面会日は、お弁当の日になるかも?! 
キャラ弁とか作ってるお母さんたち、マジ、リスペクトです!! 
ちなみに父のお弁当箱は、だいぶ前に相方がケータイショップでもらってきたオマケ。まさに「お父さんのお弁当箱」なのでした(笑)。

2021-08-20

2週間ぶりに父とお弁当を食べる会。まず、ご所望のイワシの缶詰を、
「美味しいね~。イワシは安いからね」と食し、鶏団子と冬瓜には「柔らかいね~」、さつまいものハニーレモン煮には「甘いね~」と、上々の反応。
酸素吸入は続いてたけど(本人はこれを早くとりたいのだとか)、顔色もよく、
おにぎりを前回よりさらにミニミニサイズにしたら、よく食べてくれました。

「今は高校野球を観てばっかり」だそう。退屈せずにいられるのは何より。
「東京ではまたコロナがすごく増えてるね」などと、今日は口も滑らかでした。
こんな状況なので、ケアハウスに気を遣わせるのもなんだし、
ひとまず第1期お弁当会は一旦終了。
案外、父が娘の提案に気を遣って乗ってくれてただけかもしれないしね。
また季節が変わった頃に、旬の味を届けられたらいいなと思います。

面会室で父の日のプレゼント、お弁当会初回、2回目は小さく食べやすく

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