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父と娘の珍介護道中(日記的エッセイ2010〜2022) 時々、母のこと、故郷のこと、自分のこと EP16

エピソード16
肺気胸での入院で見たコミュニケーション力

2013-08-21

「決めてたことはやる」を信条にしている父なので、
昨日は私も決めてたダイビングに行ったけど、内心気が気でならなかった。
父が突然、肺気胸で入院したのだ。
さっき会いに行ったら、3日前よりだいぶよくなっていて一安心。
今朝はリハビリの先生が来て、立ったり座ったりの練習までしたそう。
「関東勢では前橋育英が残ってる」と私の知らない高校野球情報まで(笑)。
治すという強い気持ちに感服。このまま元気で回復してくれるといいな。

2013-08-26

父が驚異的に回復。
途中空気が体にもれて、顔、首、肩がパンパンに腫れ上がったときには、
えっ、もしかしたら・・・と思ってしまうほどだったが、
その後順調に空気は抜けて、胸膜と肺との癒着処置もうまくいったよう。
「先生から肺の回復は百点満点と言われた」と喜んでいた。
今日は歩行器でのリハビリで30mも歩いたそう。家族はまだ何も言われてないが、「もうすぐ退院だ」と本人は張り切っていた(笑)。
最初の異変にいち早く気づいてくださったケアハウスのスタッフさんに感謝です。

2013-09-01

昨日父が無事退院した。
隣のベッドの方には本当にとてもよくしていただいた。
胸に管が入りせいぜい頭を少し高くするくらいしかできなかった父が、
ペットボトルの水を飲みあぐねているのを、カーテン越しに察し、
ストローを差し出してくださったという。

後日お礼を言いにカーテンの向こうに行き、
なんか気軽に「どこをワルくされたんですか?」と訊くと、
「頸椎損傷で体が動かないんですよ。もうすぐ回復期病棟に移るところで肺に水が溜まってるのもわかって」とおっしゃる。
40代後半とお見受けする優しそうな男性。
父がカーテンの向こうから「鳶をやられててね、事故に遭ったんだって」という。「そうなんですよ」とその方。
父も建築関係の仕事をしていたので、お互い言葉を交わすなかでシンパシーを感じていたようだ。

それにしても、二人ともベッドで横になったままで、
常にカーテンで隔てられていて、つまり顔も見ていないのに、
たくさんの話をしているようで驚く。
明るい方で、父は気持ち的にとても助けられていた。
コミュニケーション力ってこういうことなんだな、と、つくずく思う。

退院の日、バタバタしながら、車椅子の父に「隣の方にはもう挨拶はしたの?」と訊くと「した」という。
自分で隣のベッドまで歩いていけるはずはないから、
結局顔は合わせないままなのだろう。
いいのかな? でも、会ったら寂しくなっちゃうのかもと思いながら、
私だけあらためてお礼を言いに行った。

「僕も明日回復期病棟に行けることになったんですよ」と弾むような笑顔。
心からよかったと思う。
そして、「藤井さんに、お元気で、気をつけてと伝えてくださいね」と。
三度しか会ってなくて、それも短い会話しかかわしてないのに、
その方の目が穏やかに私を包んでくれてるような気がして、
「元気で頑張ってくださいね」と言いながら、思わず泣きそうになった。

帰りの車の中で「本当にいい人だったよ。もし自分が同じ状況なら、
あんなに明るく人に接することはできないね」と父。
人生の旅、それも病院という閉ざされた世界の中での素敵な一期一会でした。
一時は父も危ないんじゃないかと思う瞬間があったけど、
無事退院できて本当によかった。

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