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桃の花は、笑うようにひらく

3月吉日、桃始笑(ももはじめてさく)。

「笑う」と書いて「さく」と読ませるいにしえの人の心意気よ。

そして桃の花は、ほんとうに赤ちゃんがほほ笑むようにふんわり咲くんだよなあ。

家族が時間をつくってくれて、お茶の先生のもとへ、引っ越し前のご挨拶に。

炭点前を教えていただいたあと、いつも通りお薄を点てる。

先生が私の襟元を見て「ほんとうに綺麗に着られてるわね」とおっしゃるので、不意をつかれて鼻の奥がつんとしてしまった。

「子どもの卒園式に着物を着たいんです!」と先生のところへ駆けこんで、なんとか着られるようにしてもらった4年前のこと、思い出して。

着物が着られるようになったら、こんどは隣の茶室で、秘密結社みたいに愉しげに炉を囲んでいるお姉さま、お兄さまたちに心ひかれ、末席に加わらせていただいた。

以来、楽しいときも、悲しいときも、天にのぼりそうな朝も、胸がやぶけそうな夜も、先生は同じ佇まいでお茶室にいて、しずかに見守ってくださった。

手の動きを見れば、私の心の内なんてお見通しだったはずだけれど。

そのことにどれくらい救われていたか、いくつものお稽古が思い出されて、言葉にならない。

いつでもここへ戻ってこられるように、毎日お稽古をつづけよう。

お茶室じゃなくても、着物を着てなくても、生きているかぎり、今ここに在ることのレッスンはつづく。


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