人見知り、編集者になる
人と会うのが、好きです。
誰でもかならず、その人にしか語れない言葉を持っています。
その言葉を、前後の物語と一緒に文章にして人に伝えることが、とても好き。
だから、ライターや編集者という今の仕事は、すごく楽しいです。
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一方で、実は私、とても人見知りです。
取材のお願いをするために初めて連絡をとったり、最初にお会いするときは、とても緊張します。
40近くにもなって恥ずかしいので、「ぜんぜん平気よ」みたいな涼しい顔をしていますが、本当は部屋の中をぐるぐる歩き回りながら電話をかけたり、訪問先で心臓がどきどきしたり、してしまう。
お話が終わってからも「あの言葉は、相手を不快な気持ちにさせなかっただろうか。配慮が足りなかったかも…」とひとり反省会をひらくのが常です。
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人に会って、ぐっと集中してお話を聞かせてもらうことは、楽しいと同時に大きなエネルギーを使うので、それ以外の時間はできるだけひとりで、深く潜って文章を書くのがいいと思って、最初は自分で書く仕事を中心にお引き受けしていました。
でも、そのうち、どんどんやりたいことが増えてきて、あちらのお話とこちらのお話とがつながって、「この人(もの)の素敵さをもっともっと伝えたい」と思うようになりました。
企画を立てたり、提案したり、コーディネートしてチームで仕事をしたりということが少しずつ増えて、気づいたら、編集とよばれる仕事もするようになっていました。
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自分で取材して、自分で書く。
というのは、ひとり商店みたいなものなので、基本的にすごくシンプルです。
人との関係でなやむことも、あまりありません。
でも、編集のお仕事をしていると、たくさんの人がひとつの記事にかかわっているので、いろいろなことが起こります。
スケジュールが変更になったり、意見の違いがあったり、うまく伝わらなかったり、予期せぬトラブルが起こったり。
何しろ人見知りなので、最初は「ちょっと、しんどいなあ」と思うこともありました。
でも、やっぱりどうしても人に会うのが好きで、人に会うと伝えたいことが雪だるま式に増えるので、やめずに編集の仕事を続けてきて、最近、ふと思ったのです。
「編集の仕事、面白いなあ」と。
思い通りにならないこともいっぱいあるけど、思い通りにならないから、私ひとりが最初に頭のなかで思い描いていたのと、ぜんぜん違うものができていくから、面白いんだなあと。
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編集って、「言葉を編む」仕事のことだとずっと思っていました。
もちろん、それも編集者の大切な役割だし、私じしん、ライターとして文章を書くときは、編み物をするみたいな感じで、こつこつと言葉を編んでいきます。
でも、編集者の仕事は言葉を編むだけじゃなくて、「人と、人のつながりを編む」ことなんだなあと、このところ強く感じるようになったんです。
取材を受けてくださる人。
記事を書く人。写真を撮る人。間違いを直してくれる人。デザインをしてくれる人。スケジュールを調整してくれる人。
出来上がった記事を、読んでくれるすべての人。
みなさんが気持ちよく、力を発揮して楽しめるように、正解なんて分からないけど、自分なりに精いっぱい考えて、つなぎ目を編んでいく。
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そして楽しみなことに、編集という技術は、年齢を重ねれば重ねるほど深まるもののようで、山の上のほうを見上げると、肩の力が抜けているのに大切なポイントをしっかりとおさえている、すごい先輩方がたくさんいるのです。
私じしん、編集については、まだまだ分からないことも、見えていないこともたくさんあるけど、それすらも楽しみながら、「人見知りだけど、人が好き」という感じを持ったまま、髪が銀色になるまでほそぼそと編んでいけたらいいなあ、と思っています。
読んでいただきありがとうございます! ほっとひと息つけるお茶のような文章を目指しています。 よかったら、またお越しくださいね。