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週末短歌 Nr.4|ブラウスの移り香

短歌をはじめてそろそろ5カ月。はじめてかばんの歌会に参加した。ここ1年はZoomを使ってオンラインで開催されているため、こうしてドイツに住んでいるわたしも気軽に顔を出せることはありがたい。とはいえ、日本時間13時開始なので、当日は朝5時に起床しなければならず、ふだん7時半起きのわたしには苦行のようなスケジュールである。なんとか6時までに身支度を済ませ、軽く化粧もした上でラップトップの前に座った。

はじめての選評、ドキドキ……

今回はかばん5月号の選評。そもそも歌会自体がはじめてなので、仕組みを理解するところから。掲載順に1番目の人が自分の短歌を読み上げ、2番目の人が正選(1番良いと思った歌)と逆選(1番良くないと思った歌)を一首ずつ選ぶ。それが終わったら、ほかの参加者も意見を述べる。そして、これを繰り返し行っていく。

こうやって書き出してみると簡単そうだが、誰かの作品に意見をするのはなかなかむずかしい。先輩方の鋭い選評に頭が(いい意味で)クラクラしてしまった。そうはいっても、まだよちよち歩きの短歌ビギナーのわたしの意見なんて、そんな大したことはないのだ。ここは割り切って、自分で感じたままを率直に伝えることにした。

さて、わたしの番が来る。はじめての選評。まるで法廷に立たされた気分になりながら、自分が作った8首を読み上げる。

火星からお便り|土井みほ(かばん21年5月号より)
酔いし君はタンゴを踊り我の背に淡い移り香と誘惑残す
靴を履くうしろ姿を見送れば「いい夢をね」とは無責任な
ブラウスに残る移り香しまいこむ クローゼットで消えゆくあなた
ふかふかのシフォンケーキを枕にし君現れる夢喰らうバク
夜空に散らばる星たちはまたたきあって夢の音楽かなでてる
朝三時鳥がさえずり目を覚ます どんなに泣いても春はまだ来ず
火星から君がお便り出すころにわたしはひっそりこの街を去る
ただここに座っていられるしあわせをつぶやく祖母は海を恨まず

選評してくださった方からは、まず連作として読めるとの評価をいただく。失恋したのち、独りで過ごす夜についてストーリーが展開していき、最後は生きていく強さを感じるような、祖母の歌で終わっていることが流れとして良いとのことだった。

正選は、8首目の「ただここに座っていられるしあわせをつぶやく祖母は海を恨まず」。ほかの方からも「海を恨まず」という強い言葉が効いているとコメントをいただく。これは今年3月11日、東日本大震災から10年という節目に、石巻の祖母のことを詠んだものなので、評価されたことはとてもうれしい。

一方の逆選は、6首目の「朝三時鳥がさえずり目を覚ます どんなに泣いても春はまだ来ず」だった。既視感があり、独自性に欠けるとのこと。うーん、たしかに。もう2カ月も前に詠んだ歌だし、自分でもこういう感じにはもう詠まないだろうな、と納得してみたりする。

連作の完成度を高めるには?

さらに興味深かったのは、連作の完成度についての指摘があったことだった。ご本人の言葉を借りると、失恋をしてそれを乗り越えたという「自分カウセリングで終わっている」という。今の連作でも完成度としては100%だが、今後120%を目指していくためには、例えば最後の祖母の短歌で終わらせるのではなく、それを超えるような何かが必要だと。

実は、わたしは「連作」のつもりでこの8首を選んだわけではなかった。自分なりに良いと思った歌を、なんとなくつながりよく並べただけだった。最後の祖母の短歌に関しては、記念に載せておきたいと思った程度で、ほとんど取ってつけたようなものだ。

一方で、今回の選評で学んだのは、ここから連作としてストーリー性を見出す人もいれば、セルフカウンセリングとして捉える読み手もいるということ。もちろん、毎回連作を意識する必要はないとアドバイスをいただいたが、今後こうした流れのあるものは、並び順も含めて検討するようにしたいと思った(ちなみにタイトルがつくのは、かばんスタイルなのだそう)。

わたしが短歌をはじめたきっかけは失恋だった(それはまた別の機会に書きたい)。この5月号に載せた短歌のほとんどは、まだその傷が癒えていなかった1〜2月頃につくったものだ。でも、こうして8首を並べたことで、失恋から立ち直り、今また自分らしさを取り戻してきたのだということを改めて実感している。その証拠に、最近はめっきり失恋ソングは思い浮かばなくなった。

ブラウスに残る移り香しまいこむ クローゼットで消えゆくあなた

この歌も今回評価をいただいた一首。失恋の想い出は彼方、もう「あなた」はわたしの中からも消えてしまったのだろう。そもそも恋愛ベタで積極的に詠みたいというタイプでもないので(むしろ恋愛を上手に詠める人の作品に触れて、ときめいたり落ち込んだりしたい)、これからまたさらに、自分らしい表現を模索していきたいと思った歌会だった。

※歌会でいただいたコメントは記憶を頼りに書いているため、必ずしも発言者の言葉と一致するわけではありません。

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