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2021年度ベスト映画『クルエラ』

⚠️ネタバレあり

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この作品においてファッションとは、単なる自己表現にとどまらない。挑発的で斬新なファッションは、どんな武器よりも強烈なパンチとして我々の前にあらわれる。

母を殺したのは、世界的デザイナーにして自分の上司でもあるバロネスだったと気がついたときから、エステラの並外れた創造力は復讐へと向けられる。幼い頃に決別していたクルエラを呼び醒まし、顔面パンチのごとく、真正面から大胆にもバロネスを打ち負かしていく。

ドレスコードは白と黒のみ、インクの染みすら許されないバロネスのパーティーで、覚醒後のクルエラは現れる。全身を覆う白のケープに火を垂らすと、白のケープは炎に包まれ、赤いドレス姿へと早変わりする。白と黒の世界に鮮烈な赤を纏って飛び込む時点でかなり煽り立てているが、さらにすごいのは、このドレスはバロネスが過去に出していた作品であり、“手直し”をして着ているのだ。バロネスの想像する通りに着るものか。このシーンでは——ほとんど意味を成さない——セキュリティー達を、クルエラが手に持ったステッキで字義通り殴打するが、バロネスにとってはそんなものよりよほどこのファッションによるパンチの方が大打撃なのだ。

次の試合会場はロンドンガラ。マスコミのカメラがバロネスに集中しているなか、爆走したバイクがその群衆に突っ込んでいく。白煙の中からはやはりクルエラが、そしてその顔には“THE FUTURE”の文字。バロネスなどもう古い。このあともバロネスのショーが開催されるたびに、クルエラはそれを乗っとる形で妨害し、自分のファッションショーへと塗り替えてしまう。

こんなにもこの作品に魅了されるのは、目眩がするほどの派手なファッションと鮮やかな復讐劇が見れるから、というだけではない。エステラとして生きていた時代、ファッションの才能を公に披露する場もなく、彼女は隠れて逃げることしか出来なかったからだろう。母の死を目前に体験し、しかもそれは自分のせいで起きてしまったと自責の念に駆られるエステラは、ただ走り続けた。通りかかったトラックに飛び降りて、流されるままに運ばれ、ロンドンにたどり着く。そこで出会う同じ年頃のホーレスとジャスパーは盗みを生業としており、警察に見つかるところに偶然居合わせてしまったエステラは、またしても巻き込まれるようにして走り逃げる。そこから彼らと組むようになり、成人になってからも盗みをしては逃げる日々を繰り返す。泥棒として、居場所がないものとして逃げ続けていたエステラが、クルエラとしてそのファッションの才能を存分に生かし、業界の大物であり母の仇であるバロネスへ、大胆不敵に勝負を挑んでいくことになによりも快感があるのだ。

逃げることしか出来なかったエステラはもう死んだ。そしてクルエラ・ドビルが生を受けた。クルエラよ、永遠なれ!この刺激的で敢然たる悪魔に憐れみを。

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