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明るいほうへ、明るいほうへ。

小さい頃によく見聞きしていた言葉は、無意識のうちに体に染みついている。


実家には、大きな本棚がある。高さは2メートル近く、天井すれすれまで。横幅50センチ程度の本棚が、3つ並んで置かれていた。父と母が買った本がすべてそこに並んでいて、小学生だった私の目線より、少し高い場所に相田みつをさんの詩集が2冊、入っていた。


母は、素敵な詩や心に残る言葉があると、厚紙に書き写して必ずトイレに飾る。小さな窓際に飾ったり、コルクボードに貼り付けたり。今でも実家のトイレはポジティブな言葉であふれている。

相田みつをさんの詩は、特に長い間トイレに飾ってあった。1日に何度か見るので覚えてしまい、当時大好きだった習字の先生に詩の話をよくしていたような気がする。あまり覚えていないけれど、習字の先生から相田みつをさんの日めくりカレンダーをもらったので、多分そうだったのだろう。

当時はいいな、と思って見ていたわけではないけれど、今になってもふとした時に、ポッと頭の中に詩が浮かぶことがある。

例えば、一生懸命やったのに報われなかった日の帰り道。この詩を思いだして、「いけない、いけない」と言い聞かす。

あんなにしてやったのに『のに』がつくとぐちが出る


例えば、雨の日の帰り道。

雨の日には 雨の中を風の日には 風の中を

「車で迎えに行こうと思ったけど、『雨の日には 雨の中を』って言うじゃない? だから今日は、歩いてきたよ」と、スイミングスクールのバス停まで、母が傘を持って迎えに来てくれた日の記憶と一緒に、みつをさんの詩が浮かんでくる。


例えば、どうしても他人と比べて卑屈になり、「幸せになりたい」と願う時。遠くの記憶を頼りに、この言葉へたどり着く。

しあわせは いつも じぶんの こころが きめる


小さい頃に繰り返し見聞きした言葉は、何年経っても自分のこころのどこかに置かれていて、時々ぽろっと出てくるものだ。そしてそれに、何度も背中を押されているような気がする。


元気の出る本が好きで、おしゃべり好きだった母は、読んでいる本の話をいつも聞かせてくれた。覚えるのが苦手な母。心に残った言葉はノートにメモをして、それを見ながら私に話しかける。ある時は朝、母が仕事に行く前、ある時は夜、寝る支度が終わった時。

当時は話半分に聞いていたけれど、20年以上経った今でも忘れないのだから不思議だ。

特にこの言葉は、母が常に言っていて、ぽろっと出てくるどころか知らない間に染み付いてしまったものだ。

海外に行って、「笑顔が素敵だね」とほめられるたびに、初対面の人に「ずっとニコニコしてるから話しかけやすい」と言われるたびに、この言葉を思い出す。

明るいほうへ、明るいほうへ。人も、動物も、虫も、みんな明るい方に寄っていく。明るくしていれば、周りにみんなが集まってくれる。だからいつも、明るくしていようね。

そして、「お母さん、ありがとう」と、心の中でつぶやいている。

#毎日note

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