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冷たい麦茶が飲めなくなって

小さい頃の母はよく、冷たい飲み物を飲むとお腹を壊すと言っていた。冷蔵庫に常備された麦茶を飲むのはいつも決まって兄か私(父はずっと仕事が忙しく、一緒に夜ご飯を食べた記憶があまりない)。家には祖父母もいたが、やはり飲むのは温かいお茶だ。掘りごたつの上にはいつも急須が置かれ、季節を問わずにいつも温かいお茶を飲んでいた。

当時の私は、「冷たいものが飲めない」母が不思議でしょうがなかった。暑いものを食べた時も、お風呂上りの時も、冷たい麦茶を飲むとあんなに気持ちがいいのに。

ゴク、ゴク、ゴクと喉を鳴らして一気に飲めば、身体中が涼しくなる。確かに冬は、寝る前や外から帰ってきてすぐは温かいお茶が飲みたくなるけれど、温かい部屋にいるなら冷たい麦茶がちょうどよいのに。どうして母はすぐにお腹を壊してしまうのかと、憂鬱そうに耐えている母を見て、どこか信じられない思いがあった。

あと数年もすれば私は、不思議だったあの頃の母に、追いつく年に近づいている。気づけばいつも足が冷たいし、手だってなかなか温かくならない。あんなにめんどくさかったお風呂が今は癒しの時間だ。そして何より、夏が終わると冷えたお茶を飲みたいと思わなくなった。

お湯から作ったお茶を冷蔵庫へ入れることなく、キッチンのテーブルで常温保存するようにもなったのだ。久しぶりに冷たい飲み物を飲んでみると、あの頃の母と同じようになんだかお腹の調子さえおかしい。

母もきっと、小さい頃は、キンキンに冷えた飲み物をガブ飲みしていたのかもしれない。だんだん冷たいものが飲めなくなって、飲みたくなくなって。それは母だけでなく、誰もが通る道だったのか。白い湯気のたつマグカップを両手に持っていると、小さい頃の母親がもくもくと出てくるような気がした。


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