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そっと手を当ててみる

やるべき仕事がたくさんあるのに不安だけが先行してしまい、気持ちがソワソワ落ち着かなくなっていた日曜の夜。呼吸をするにも苦しくて、すべてをやめて眠りたいけどそういうわけにもいかなくて。

「やることがあるのに全然行動にうつせない。息切ればかりしてしまう」と、家のリビングで同居人にぼやいていたら、「ちょっとこっちに寝てみて」とソファに誘われた。

マッサージやアロマセラピーなどを仕事の一部で使っている彼女は、働いている美容院のオーナーに髪を切ってもらった時、心の余分なところも一緒に切り落としてもらえた気分になれたという。「髪を切ってもらった後、人のやさしさがすごくわかるようになって、自分も他人に、少しやさしくなれるような気がしたの」と話した。そんな会話の後だったからか、落ち着く香りのアロマを使って、ソファに寝転がった私の頭をゆっくりマッサージし始めた。

「マッサージ」と聞くと指圧をかけてもんでいくイメージだけれど、彼女のマッサージは少し違う。時間をかけて頭に手を置き、そのまましばらく動かない。そしてまたゆっくりと場所を移動し、手を置いたままにする。すると手が当たっている部分の頭皮がじんわりと温かくなり、おだやかな気持ちよさが身体中に流れ始めた。

時折指圧で刺激も受けるが、ほとんどの時間は頭に手を置いた状態。突然始まったマッサージに最初は戸惑っていたけれど、次第に呼吸もゆっくりになり、眠ってしまいそうなほどだった。

昔の人は、身体の悪いところに手を当てて、病気を治したなんて言う。だから今でも、病気やケガを処置する言葉を「手当て」と言うのだそう。そっと触れるだけでそんなに変わるものかと思っていたけれど、あながち嘘でも無いような気がする。

手のひらから伝わるその人の体温や、一緒になって感じられるやさしさは、緊張状態にある身体をそっとほぐしてくれた。誰かがそばにいる、「生命」がそこにあることを感じられるだけで、不安が解消されることもあるのかもしれない。

「確かに、呼吸が浅かったね」と声をかけられ目を覚ました。改めて言われて、自分がさっきまで苦しかったことを思い出した。ありがとうを伝えて部屋に戻り、ゆっくり深呼吸をした。

大丈夫、なんとかなる。まずは今、自分が出来ることからやっていこう。

そんなふうに仕切り直して、月曜日がスタートしたのだった。


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