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現世で想定外に通訳本を出版してしまいました [同時通訳者が「訳せなかった」英語フレーズ]

それは突然やってきた。
休校の要請をきっかけに案件の大量キャンセルが発生、ポッカリと時間が空く。
自分はフリーランス通訳者なので、案件が入らない=収入が途絶える。
海外メディア含め、色んな情報を見聞きして分析したところで誰にも予測不可能な、なんとも落ち着かない状態が続いた。

そんなある日、会員になっている日本会議通訳者協会のページにこんな投稿を見かけた。
「今みんなが必要としているのは仕事だと思い、出版社に企画を持ち込みOKをもらいました。こんな状況だからこそ何かポジティブなものを生み出したい。そんな気持ちを共有していただける方は参加してください」
この本の編著者である松下佳世さんの行動力に打たれて、参加を申し出た次第です。

「執筆」「編集」「校正」「進行管理」の作業があり、人手が少なかった「進行管理」に手を挙げつつ、せっかくなら「執筆」できたらな〜とは思っていた。
この世に共著者として名前が載っている紙の本があるなんてかっこいいではないか。という程度の浅い人間である。

同時通訳者が「訳せなかった」英語フレーズを集めた本なので、現場での失敗談やそこからの学びを一般読者に向けてきちんと読み物にしなくてはならない。
執筆アイディアはピッチ方式で提案し、編集者の投票で採用が決まる。
失敗談は誰にも負けないほどあるけど、都合の悪いことはすぐ忘れるというアホな性格が災いして、まったく何も思い浮かばない。

粛々と進行管理をやりながら、ピッチ欄にあふれるみんなのセンスあるピッチに「ほほう」と感心しているだけで数日が経ってしまった。記憶の糸を辿ろうとしたけど、どこにもつながってなかった。
このままではいかんのではないか。そして思いついたのが外部記憶装置「用語集」あさりである。
自称スーパーマメな私は、資料が直前過ぎてムリとかじゃない限り、案件前に用語集を作成し、案件後には案件で知った単語を追加してクラウドに上げている。
こうすると似たようなジャンルの仕事を受ける時にも、参考になるし。
ってことでヒマにあかせて過去何年もの用語集をさらうと、忘却のかなたにあったフレーズが続々と出てくる。

ピッチしたところなんと一本採用!
嬉しいので自慢できる相手には一通り自慢した。フライングのマーケティング活動としてご容赦いただきたい。

私の用語集が神っていたのかその後も続々と採用され、結局七本も執筆した。
通訳者として他者の言葉を話している(訳している)時間が長いせいなのか、書き言葉より話し言葉が優位になるのか、読ませる文を「書く」というのは非常に骨が折れる行為で。
最初は作家気取り(?)で夜更かししながら書いてたけど、最後らへんはヘロヘロになって松下さんに大幅加筆修正していただき、なんとか入稿。

進行管理として他の執筆者の原稿ステータスを管理しつつ、自分の原稿は校正やネイティブチェックに合わせて修正したり。
そんなこんなで気づいたらあっと言う間に本日発売です。
こんな私が現世で出版できるとは。完全に想定外です。
(松下さんと出版プロジェクトの参加者のみなさんのおかげです)
人生何が起こるかわかりませんよ。


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