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皆既月食の夜に

「見て!お月さま、綺麗だよ」
80代くらいの可愛いらしいおばあちゃんから、突然話しかけられた。
最寄駅から家に向かう途中のことだった。

「今日は皆既月食だからね。ほら、この場所、何も遮るものないでしょう?よく見えるのよ、特等席でしょう」
そう言って、目をキラキラさせながら空を指さす。

指さした方向には、たしかに、とても美しく光る月。

そっかぁ。知らなかった。
私、ここに引っ越してきてから、帰り道に空を見上げることなかったから。
ここからお月さまがこんなに良く見えるなんて、初めて知ったよ。

しばらく、「すごいねぇ」「綺麗ねぇ」と感心しながら月を眺めた。
思わずスマホを手に取る。
むむ、写真上手く撮れない…私のiPhone、まだ8plusだもんな…。
がっかり、機種変しておくべきだった。

おばあちゃんも一緒にスマホを構える。
お互い、上手く撮れないね、と言って笑う。
「でも、目と記憶に焼き付ければOKですよね!」と言ったら、おばあちゃんは今日1番の笑顔を見せてくれた。

たった10分程度の出来事だったけれど、幸せで満たされた時間だった。
月が綺麗で、そして、綺麗な月を眺める心の余裕があって、ゆっくり月を眺める時間があって。
綺麗なものを綺麗だと思えて、それを人と共有できて。

つい自分は不足感を強く感じてしまうことがあるけれど、そんなことはなくて、
満たされていることに気づいていないだけなんだな、と。

月を眺めながら、そんなことに気づかされて胸がいっぱいになってしまった、11月8日の夜。


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