見出し画像

無職アラフォー仕事に悩む | イラスト小話

10歳まで振り返ってきて、絵が好きだったんだなあと思いました。まる。
いやいや。
私の職業履歴は、俳優・声優→イラストレーター→事務職(整体師)→SE(P M)だ。
私が子供の頃に初めて憧れた職業は当たり前のように「アニメーター」だった。でも絶対にならないと決めていた。
今日はその話しをしよう。

小学生の頃、るろうに剣心の劇場版に行けばセル画がもらえるというので、セル画目当てに劇場へ行った。
初めて見る生の原画。どうしたらこんなに美しい線が描けるんだろうと毎日何時間も眺めた。
絶対的におかしいのだ。どう見たって鉛筆なのに、鉛筆の掠れた黒い跡も、迷い線もない。強弱も筆圧も一定で、デッサンに狂いもない。どう見たっておかしい。人間業じゃない。(その後このセル画は母に捨てられる)
色指定、影指定でちょっと文字とか書いてある。当たり前だが、子供から見たらかっこいい大人の文字だ。
同じ人間とは思えない。
こういう時、人は「神」とか表現するのだろう。でも、神じゃない。努力と継続、技術、その結晶を神なんて簡単に表すのは間違っている。

セル画を見ていた時、母に「あんたの目が輝いてるのを初めて見た」と言われた。
だってこんな小さな絵が(B5くらいの用紙だった気がする)! テレビや! 映画で! 違和感なく! 動いてるんだぞ!! 何倍に引き伸ばされてると思ってんだ、おかしいと思わないのか?! 貴様、何も感じないのか?!! とか思ったが、気持ちが高揚しすぎてうまく言葉にならなかった。

しかしアニメーターの絵の単価も小学生の私は知っていた。「これが1枚200円…(※当時そう聞いたのですが、実際は知りません。あとこれは動画の値段で原画だと1カット1,500円くらいなのかな)」
絶対になりたくないと思った。
こんな人間離れした、頭がおかしいくらい美しく、その辺の漫画家より格段に上手い絵が。たった200円。しかも動くために何千枚も描くのだ。
人の仕事じゃねえ。
恐怖と尊敬を込めて、信仰の気持ちを深めた。


そんな私がイラストレーターになったきっかけは、派遣先の先輩が私のストーカーになったことからだった。先輩の名前は仮に橋口さんとでもしておこう。
それは期間限定のDTPの仕事で、橋口さんは誰よりも指示が的確で合理的で尊敬できる先輩だった。
仕事中、切り抜きという作業で人物を切り抜くことがあるのだが、橋口さんは頭の形を捉え、髪の束をイメージし、たまに乱れ毛を描いてあげることで本物の写真よりも可愛く人物が切り取れると教えてくれた。
また、「元の写真には写ってないのですが、反対側にも腕を作ってください」という顧客要望にプロの技で応えていた。手を反転させ、おかしいところは描いている…! マウスで…!
私も意気揚々と真似をした。

私は当時手が異常に早く、出社すると周りの社員が深々とお辞儀をしてくるビップ対応の社畜だった。
頭の中は死んでいるのでずっとサイレンの音が鳴り響いていた。就業中は記憶喪失になる特技を持ち、人間離れした動きができていたのだ。
同じ時間で5人分くらい納品していた。発注数が絶望的な日も、はるのがいればなんとかなる。そんな扱いだった。
納品数が多いということは、チェック担当との衝突もおのずと多くなる。
そんな時は橋口さんを呼んでどうすればいいのか指示を仰いだ。

毎年呼ばれていた仕事の3年目、橋口さんが元々アニメーターをやっていたことを知った。3年目にもなると指示の橋口、作業のはるの2トップという感じで、私たちは新人の育成やフォローも担当していた。

橋口さんは「今度食事にでも行きませんか」と、レシートの裏に連絡先とささっと絵を描いてくれた。
初めて見た生のアニメーター(元)に私は「そんなすごい人と仕事をしていたのか…!!」と衝撃を受けた。

すげえ。
すげえ…!!

あのセル画と同じ、完全な鉛筆の線だった。そして茶目っ気と、優しさみたいなものを感じる。お財布に大事にしまった。
そして、大事にしまい、すごいなあと絵ばかり見ていたので連絡するのをすっかり忘れていた。

1年後、また同じ仕事に駆り出された。他のスタッフから「橋口さんと何かあったの? なんか橋口さんがはるのさんの嫌われているかもしれないって休憩室で嘆いてたよ」と言われた。
私はダッシュで、絵ばかり見ていて連絡先が見えてませんでした。飲みに行きましょうか! と、言いに行った。

橋口さんは仕事の1年目からずっと、私に恋をしていたらしい。
そして勇気を振り絞って連絡先を渡してから1年間、ずっと連絡を待ち詫び、悲しみに暮れていたようだ。
飲みの席で、私が尊敬の念を持っていると橋口さんに伝えたことで、橋口さん的には「もう今しかない!」みたいな感情になったのだろう。
DTPの仕事が終わると、私の家の前に現れるようになった。毎朝。「やあ」と片手を上げて。

え、こわっ! と思った。

ストーカー橋口から、40代のムサイ男3人(刑務所帰りと150kgの無職男性)が暮らすゴミ屋敷アパートで同居、お金がなくてインドネシアへ飛んだ話はまたいつか書くとして。

半年後、私と橋口さんはインドネシアにいた。ほぼ無一文で。

世はスマホゲームの大ブームで絵師不足だった。仕事がいくらでもあった。
私は橋口さんに絵を描かせてお金を稼ごうと思い仕事を取ってきたが、橋口さんは絵を描いてくれなかった。(今の私にはその気持ちが少し分かる)
取ってきた仕事を素人の私がこなし、発注元に怒られていると、橋口さんは赤ペン先生をしてくれた。
また、アニメーター時代の絵の練習方法を少しずつ教えてくれた。

まず、毎日まっすぐな線を描くこと。同じ長さ・太さで描けるようになるのが基本だ。
そしたら次は丸を描く。定規を使わなくても完全な丸になるように、線の始めと終わりが分からないように。
これが絵を描き始めるまでの前提条件だ。

しかしもう仕事はある。私は1日30分くらいその作業をしたが、板タブでこの作業をすることに何か意味あるのかな? とも思っていた。

練習をしなくなっていく私を見て、次はとりあえず目をなんとかしろと課題が出た。
体や背景は数を描いていれば勝手に身につくし、他の人にやらせることもできる。目と表情がそのイラストレーターの価値を決める。言ってしまえば、目と表情が魅力的に描けるかどうかがこの分野で大成するかの分かれ道だ。
最初から「これが自分の顔の描き方だ」というものを探った方がいいと言われた。
これはかなり難しかった。今でも超難しいと思う。
目だけ毎日何枚も描いた。仕事しながら。

次は模写の方法を教えてもらった。
隣に模写の対象の絵を置く。最初は見て描いていい。
描き終わったらデジタルなので、自分の描いた絵の上にお手本を置く。違っている部分を赤線で直す。これを続けると目が実際に描きたいものとどれくらいズレているかが分かるようになる。
慣れてきたら、1分だけお手本を見てお手本を消す。記憶だけで模写する。そして重ねて同じように差分をチェックする。
この模写の場合は、細部は模写できてなくていい。骨格や大事な部分の要素が取れているかをチェックするのだ。

ちゃんとやっていたら、私はもっと絵が上手になっていたと思う。
難しすぎてあまり出来なかった。そして、仕事の絵を仕上げるだけで当時は一杯一杯だった。

日本に帰ってから、橋口さんはプロ御用達のデッサン本を2冊買ってくれた。
私はとりあえず全部模写した。何か意味あるのかなこれ。と思いながら。

1年くらいして、自分の絵でも仕事が取れるようになった。
だが依然として1枚描くだけで体力が全て持っていかれる。何枚も描けないのだ。

橋口さんからは、漫画技法のこぼれ話しと萌え系女の子の裸体を描くことを教わった。
漫画にも技術がある。とブックオフに行って、あだち充の本を1冊取る。視線の誘導。背景からキャラへのカメラの動かし方や、開いたページでの構図の作り方による読者の感情操作。
漫画は作画力よりも、そういったカメラ構図の技術の方が大事なのでそっちもやってみなさいということだった。
女性の裸体はデッサン力が上がるし、エロゲーは金になる。仕事しながら勉強するには一石二鳥だ。
線の強弱も漫画はお手本になると教わった。柔らかい部分の線を細くして丸みを強調したり、Gペン特有の武器をうまく使えば絵が更に綺麗に見える。


2年間の間にこれらのアドバイスを1つ1つ実践して落とし込んでいった。私の絵の単価はエロ絵なら7万円、普通の絵でも4万円ほどになっていた。
しかし、圧倒的に描く量が足りていなかった。デッサン力や物の形を捉える力が、鬱病のせいもあって全然なかった。
描いても描いても、あの線に、あのフォルムに、ならない。
それは粘土を何度こねても、思い描いた形にならないような、もどかしい気持ちといえばいいのだろうか。同じ粘土で精巧なフィギュアを作る人もいれば、何だか分からない4本足の何か? みたいなものしか作れない者もいる。精巧なフィギュアを求められてるのに、全然ならないよう! そんな気持ちだった。

できない、できない、できない…。
気づいたら、絵を描くことがすごく嫌な作業になっていた。


今、自分は絵の仕事をしようかなーとか思っている。もう会社勤めには戻れないのだろう。悲しいけど。やる気がないんだもん。(←
そして当時の液タブの値段を知っていたもので、「すげー安いな!」と思って買っちゃったのだが、iPadとapple pencilの方が圧倒的に使いやすいことに衝撃を受けている。あと液タプって、板タブより難しくない…?

絵の仕事を少量受けて、絵の勉強をしようかなーとか。
軽く考えて
10年以上前のこの苦悩にまたぶち当たっている。

ヘタクソがー!!!!(叫)

…止めた方がいいのかな?
そう思ってnoteでアニメーターとか検索してみた。

…練習が、大事なのかなあ。

とか、当たり前の感想に落ち着いております。ウーン。


昨日、液タブとクリスタの練習用にとりあえず2枚描いた絵。

なんか悲しそうな顔の横顔
推しの子の新OPいいよね

ちなみにタイトルの絵は23歳頃、2年目の絵です。

発売前に会社が潰れ未納に終わったので公開できるやつ

ラフと線画をiPadに、背景と塗りをPCでやればなんとかなるのかなあ。
自分はシステムでPM(プロジェクト管理)経験があるので、イラスト系だとプレイヤー兼管理のキャリアが…あるのか? ないか? とか、思うところです。
管理職が無理だったからなあ。技術系でいくしかないなら自分にはもう絵しかないのかにゃあ…。つってもたった3年しか経験ないけどな。生きるって辛い。

体力的に厳しそうだけど、アニメーターになって地獄の修行をしてみたい気もする。アニメーターになると師匠がつくらしい。魅力的な響きだ。

起き上がれないで悶々とそんなことを考えていたので、noteにまとめてみました。いつも独り言でごめんなさい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?