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捨てられた絵

先日SEの仕事を獲ってきた際は、本気でやろうと思って何冊か入門書を読んだのです。もともとあまりパソコンに興味がないので寝落ちするのを堪えながら何とか読んでいたのです。(言い訳)

今度はイラストの仕事を獲ってきたので、(やだなあ…)と思っていましたが、何冊か入門書をbook offで買ってきました。
デッサンと背景・小物と手の描き方と模写用のイラスト集を2つ。
もう1度、無駄になるかもしれないけど、基礎から丁寧にやるぞー! おー!
今日は何でそんな決心をしたかのお話しです。


幼稚園から高校まで、嫌われることを極めたかのように嫌われまくっていた私ですが、何故か美術の先生たちには好かれていた。と、思う。
どの先生もめちゃくちゃ気にかけてくれていたのを覚えている。

母は私が絵を描くのをあまり良く思っていなかった。
5歳の時には「人真似ばっかりしてオリジナリティがない」「自分の絵が描けないならやめろ」と怒っていた。
小学生高学年になってもアニメの模写ばかりしている私に、もちろんブチギレておりました。

小学校4年生の授業で、学校の近くの公園で森の絵を描いた。
植物を描くのは1番好きだったので、手前から奥まで画面いっぱいの草木を楽しく描いた。
2日間図工の時間で大枠を描いて、放課後何日かかけて仕上げた。
完成した絵を見て、先生は「これは素晴らしい絵だよ。お母さんに額縁を買ってもらいなさい。飾っておくべきだ」と言った。

学校という場所で誉められたことが限りなく0だった私は、母にそれを伝えた。
母は特に絵を見もせず、無言で絵をくるくる巻き始めた。

嫌な予感がした。これは捨てられるやつだ、と。

絵は輪ゴムで止められ、埃だらけの冷蔵庫の上にポンと放り投げられた。
「…で?」
母の声はどうしてこんなに冷たいのだろう。夏なのに冷蔵庫みたいだ。
「お母さん、捨てないよね…?」
私は念の為聞いた。飾らなくてもいい。捨てないでほしい。
「……」
返事はなく、母は背を向けた。
フライパンをコンロにぶつける「ガチャン!!」という大きな音がした。これ以上話しかけるな、という意味だ。

2週間、毎日確認したけど絵はずっと冷蔵庫の上にあった。
埃が丸められた絵の上にも積もりそうでハラハラした。
今日から1週間、教会のグループでキャンプに行かなくてはならない。不安だった。
殴られるのを覚悟でもう1回聞いた。
「…お母さん、絵は捨てないでね?」
「……分かってるよ! さっさと行けば!?」
壁をドンと叩く音に追い出されるように家を出た。分かってるってことはきっと捨てはしないだろう。聞いて良かったと思った。


キャンプから帰ると、私は真っ先に冷蔵庫の上を確認した。
絵はなかった。
絵が置いてあった形で埃がうっすら取れている。絵がここにあったことは夢ではない。
落ちたのかな? と思って裏も確認したけど、どこにもなかった。

「お母さん、捨てないでって言ったよね? 捨てちゃったの?」
あれは、大事なものだったんだよ…そう心の中で付け足した。
母は無言でこちらを睨んでいる。
母が近づいてきた。私は咄嗟に手で頭を防ぐ。あまりにも叩かれるので体が反射的に動くようになっていた。
母は無言でじっとして、数秒後トイレに行ってしまった。


なんで絵が捨てられたのかは今も分からない。
私の物は基本的に何でもすぐ捨てられていた。
先の話だが、卒業式当日にランドセルも机も捨てられた。「デカくて邪魔だったのよ。やっと捨てられるわ」と。
私が描いてきたスケッチブックも殆ど残っていなかった。
大切にしていたセル画も、いつの間にかなくなっていた。

絵が捨てられた日からだと思うのだが、私は何かを作るときに時間をかけることが出来なくなった。
今もそうだが、捨てられても良い物しか買わないし、捨てられても悲しくならない程度にしか制作の時間は使わない。捨てられてもいいくらいにしか思い入れも持たない。
なくなる前提で全ての物に触れてきた。

友達だってそうだ。
遊び友達が出来て母に遭遇すると母は嫌味を言った。
「かわいそう。あなた良い子なのね。だから騙されてるのよ、こいつに」
または存在しないかのように無視した。
私にとってそう扱われるのはいつものことだが、友達は「すごく怖い人だね…」と言った。そしてだんだん、離れていく。

家では、早く友達やめてあげなよ。かわいそうだよ。気の毒がってかわいそうがられてるんだろうけどさ。こんなウザいやつと一緒にいないといけない子がかわいそうだと思わないの? と髪を引っ張られた。
汚い髪の毛だなあ、もう! と、髪を引っ張られて壁や地面に叩きつけられることがよくあった。
そうなのかな、私といると相手はかわいそうなのかな。そんな気持ちも、友達がいなくなる理由の1つだったかもしれない。


大事に扱うとか、丁寧に作るとか。
そういうことが怖かった。

肌のケアや食事、身の回りの全てのことを今でもすぐ放棄してしまう。
頑張っても何かでいっぱいいっぱいになると頑張れなくなってしまう。
何回も頑張って、何回も挫折して。
立ち上がるのが億劫になる。

でも、もう1回。もう1回だけ。
丁寧に絵を描いてみよう。

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