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現場観察力 ~どこでも通用するスキルを身に着ける⑩~

何かしらの課題があり、それに対する打ち手に手触り感を持たせるためには現場観察力が必ず必要だと思っている。机上で考えること自体はいいけども、やはり現場感覚とは乖離が生じてしまいがちなので、折角の打ち手が机上の空論で終わらないためにも、且つ有効な解決策を導出するためにも、現場観察は確実に必要なプロセスである。ということで、今回は現場観察に焦点を充てていきたい。

そもそも現場観察は何のために?

現場観察を実施する目的は、「課題や原因の仮説を検証すること」である。課題解決プロセスは、①課題を発見する、②課題の原因を深掘りする、③真因に対する打ち手を考える、である(詳細は以下noteを参照)。最初に構築した初期仮説はあくまで仮説なので、それを幾つかの方法で検証する必要がある。その方法の一つが現場観察である。

経営コンサル・プロジェクトを実施する前に、3-4週間かけて現場に入り込み予備診断(無償)を行うことが多い。経営陣からテーマをもらい、何が本当に解決すべき課題なのか、原因は何か、真因は何か、打ち手は何か、どれくらいの経営インパクトがあるのか、ROIはどれくらいなのか、を予備診断中に見極めて、経営陣にプロジェクト提案をする。その予備診断の核となるのがこの現場観察である。

現場観察で何をするのか?

現場観察には大きく2種類ある。ある社員と1日行動を共にする「行動観察」と、製造現場や店舗などの状況を見る「オブザベーション」である。対象を特定の社員とするか、特定の現場とするかの違いであり、これは何を検証するのかによって異なる。例えば、営業担当の動き方や商談の仕方が妥当なのか、その上司によるマネジメントが的確なのか、を検証するのであれば、「行動観察」の方がいい。例えば、製造工程における生産性やボトルネックや、店舗の運営状況を見るのであれば、一人の社員にべったりくっつくよりも、製造工程や店舗運営を引いてみながら、「オブザベーション」をした方が検証しやすい。

行動観察にしろ、オブザベーションにしろ、やることは大きく5つある。

①情報収集する:仮説を構築する上で必要な情報を収集する。ネット等での二次情報や、お客さんから一次情報を集める。

②仮説を構築する:何が課題で、その原因としてどんなことが考えられ、その真因は何かを構造化する。

③観察する/質問する:観察と質問を通じて、仮説を検証していく。観察が主であるけども、観察しているだけでは分からないので、質問を織り交ぜる。

④観察結果を纏める:観察中にその日発生したことや質問への解答は全て記録に残す。大体ノート1冊分くらいになる。それを観察レポートとして仕上げていく(Word文書で10ページくらい)。

⑤拡大検証を行う:観察結果がたまたまなのか、その他の日やその他の現場でも発生していることなのかを拡大検証を行い、全体としての改善向上余地(=インパクト)を推計していく。

何れにしても仮説を検証するために観察するので、当然、仮説を持って挑む。仮説なので、それが外れても全然OKである。何が事象として発生していて、何がその原因で、その真因が何かを突き詰めていくこと姿勢が大事となる。

現場観察を具体的にどうやるのか?

では、具体的にどうやるのかを上のプロセス別に見ていく。

①情報収集:業界レポートや特集記事などは当然として、その業界における営業プロセスや製造プロセスなど、現場プロセスに関連する情報や、対象となる組織情報(年度方針、職務分掌、KPIや目標値等)も有益である。また、その業界でその職種の経験者からの生の情報も有益である。最近だと、元従業員や現従業員の声が掲載されているサイトも、正しいかどうかは別にして、仮説を構築する上では参考になる。

https://www.vorkers.com/

②仮説を構築する:限られた時間の中で、課題と課題の原因を構造化していく。まずは自分一人で作り、そして他メンバーと議論をしながら、完成させていくのがおススメである。その仮説の中でどのような調査モジュール(インタビュー、観察、データ分析、アンケート、帳票分析等)を使ってどう検証していくのかも整理しておくといい。

課題の構造化(初期仮説)

③観察する/質問する:仮説を検証するための観察ポイントや質問を整理しておき、観察を行う(下図参照)。この時に大事なのは起こっている事象の5W2Hを確認し、記録に残しておくことである。例えば、営業担当の行動観察をし、顧客訪問をした時に、その商談に至る背景、当日の訪問の目的や位置づけ、会話した相手の名前と役職、営業担当の設定したゴール、具体的な会話や提案した内容や顧客の反応、訪問終了後の営業担当のコメント、この訪問に関連した他部署や上司の関わりなどをこと細かに記録しておく。観察だけでは当然分からないので不足する情報は質問しながら補っていく。

観察する・質問する

④観察結果を纏める:観察した結果は時系列、又は事象毎に記載していく(下図参照)。事実ベースで5W2Hを意識しながら、纏めていき、”ここは問題だな””その原因はここ”という箇所(指摘事項や示唆)をハイライトしていく。

観察調査アウトプット

⑤拡大推計する:観察して発見した課題(=改善向上余地)がたまたまなのか(その人やその日だけの問題なのかどうか)、他でも同じようなことが発生しているかどうかを検証していく。それがたまたまであれば、課題・原因発見としては成立しない。その時に重要な視点が3つある(下図参照)。

①深掘する:問題の原因を掘り下げておくことと、原因を人に求めないことである。そうすることで、普遍的な原因・真因(仕組みやルールやマネジメント等)に辿り着ける。

②拡大する:一過性の事象でないことを検証するために拡大質問を行う。「こういうことはどれくらいの頻度で発生しますか?」「他の方や他部門ではどれくらい発生していますか?」「その影響度を把握するためには誰に聞いたらいいですか?」「こういう事象が発生するとなると、どんな悪影響がありますか?」などオープン型の質問を駆使しながら拡げていく。

③構築する:問題について解決する方法があったのかどうかを確認する。私がよくする質問は「どうしていたらこの事象の発生を防ぐことができたと思いますか?」「もしやり直すとしたら、何をしていますか?」など。現場に知恵はあるのか、現場に知恵はあるけどそれが活かされていないのかを確認していく。多くの場合は後者である。

指摘事項完成のポイント

総括

私は若い頃に様々な業種業態の第一線の社員の行動観察や、現場オブザベーションをしてきた。その数だけでいけば、社内ではトップだろうと思う。ある1年は毎週違う企業に行き、この観察だけを繰り返していた。組織の機能としては、開発・設計・製造・調達・物流・営業・店舗・コールセンター・保守運用などを経験した。業界でいえば、自動車・自動車部品・食品・商社・卸・医薬品・半導体・不動産・保険・ディーラー・レストラン・居酒屋・アパレル・家電などを経験した。だから、その業界×機能の話になると、パッと忘れかけた観察当時の記憶が蘇ってくる。もちろん、当時の上司に怒られた思い出とともに。

その経験から観察を行う時のポイントは、

①その業務を翌日から担当できるくらいに精通する

②事前に仮説構築を入念に行い、仮説検証のための質問を考えておく

③目線を上げて、スーパー優秀な人だったらどうするかを自問自答する

④発見した問題や原因が本当にそう言い切れるかを立ち止まって考える (足りないFactやロジックは何かを考える)

⑤その業界のその業種を観察をするのは一生に一度だから、興味関心を持って、面白がって臨む





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