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司法浪人、初めての海外旅行で昏睡強盗に遭遇し、ホームレスと共に空を仰ぐまでの話。

司法試験に合格できずにいた僕が、勉強に煮詰まり、初めての海外旅行へ行った時のお話をしています。

今回は第5話となりまして、僕が昏睡強盗に会い、異国の地で文無しになる迄の話をしています。

朝からシンガポール市内を散策

滞在期間も限られているので、少しでも長く、シンガポールの街の雰囲気に触れていたかったのだ。

帰りに迷わないように、宿の雰囲気を目視で確認する。でもまあ「地球の歩き方」の本にも掲載されている宿だし、迷うことはないだろうとタカをくくりテクテクと歩きはじめる。

歩くうちに、大きなビルが立ち並ぶエリアが見えてくる。ビジネスマンたちが集まる金融街を見て、シンガポールに来たなあと思うが、司法試験に合格できず、なかなか世に出れない状況にある今の自分と対比してしまう。

テクテクと歩き続ける。次第に海辺の観光エリアにたどり着く。

「おっ?!」

そこにはマーライオンの像があったのだ。雑誌やテレビで目にするマーライオン。「やっぱりシンガポールに来たんだなあ」と、やはり一人で灌漑にふける。

マーライオンの近くには、観光客は見当たらない。その日は平日の午前中だったからだろうか。人は歩いていない。

周囲には1件だけお土産物屋さんらしきお店がある。僕には何かを買うお金は無かったが暇つぶしに店内をブラブラする。特に面白いものは置いていないので直ぐに店を出る。

知らないうちにランチタイムに差し掛かっていた。

「さて、お腹が空いたな」

何か食べたいとは思ったものの、店の周辺には、貧乏旅行をしている僕が入れるような安い食べ物屋さんは見当たらない。

さて、どうしたものかと「地球の歩き方」を取り出して、地図を見ながら思案を始める。バックを背負いながら、ガイドブックを見ている日本人。

背後から突如、「ハロー」と話しかけてきた男性がいた。チャイナ系の男性で笑みを浮かべている。

そう、ここから事件は始まったのだ。

事件の始まり、チャイナ人との出会い

声をかけてきたはチャイナ系の男性は、
年の頃が30歳〜40歳位。

タドタドしい英語を話している。でも、英語を話せないはずの僕でも聞き取りやすい英語だった。解りやすい英語を話してくれるというだけで、微かな親近感も抱く。


僕は司法試験の勉強に専念していたこともあり、英語の勉強をしてこなかったけれど、英語には興味があったし、この旅では英語を話す機会も求めていた。

解りやすい英語を話す、親切そうな人。

これは英会話の練習をする良い機会かも、と考えてもいたのだ。

この笑顔の男性は、嬉しいことに親切な提案をしてくれているようだ。

「日本人かい?」
「旅行中なの?オレが案内してあげるよ」
「お腹すいたでしょ、食べに行こう」

親切な人っているものだなあと思い、これが旅の楽しさなのかもと思っていた。でも、なんだか妙に馴れ馴れしいことも気になった。

僕も片言英語で回答する。そのチャイナ系の親切な男性は立て続けに僕に話しかけてきて、なかなか僕のそばから離れない。

「オレの兄弟は金持ちでね」
「オレについてくれば良いことあるよ」
「綺麗な女性も紹介してあげるよ」

「でもね、今ちょっとお金に困っててね。。」
「ちなみに君は、キャッシュカードかクレジットカードをもっていたりする?」


むむ、これは何だかこれはオカシイ。いかにも怪しい。
確か「地球の歩き方」にも書かれていたなあ。

日本人旅行者を騙してお金を巻き上げる人がいるので、親切に話しかけてくる人には注意しろって。

これだ。コイツだ。まさしくこの笑顔の男は僕を騙そうとしているに違いない。僕のことをカモにしてお金を巻き上げようとしているな!

僕の心は警戒心が最高値に達する。

イカ様男?⇒僕の脳裏によぎったこと

僕は早々に、この「イカ様男」を置き去りにして、足早に立ち去ろうと思った。でも、なかなか振り切れそうもない。

しかし、ふと思う。

「ちょっと待てよ。」

このイカ様男は、せっかく奢ってくれるって言っているんだし。。
今はランチどきでお腹も空いたしなあ。貧乏旅行で一食浮けば助かるだろう。お金も節約できるし。そうだ、奢らせてしまえ。

御馳走してもらった後に、こっそりと立ち去れば良いさ。

そんな思いが僕の頭によぎったのだ。
いざ実行することに。

イカ様男と、シンガポールのフードコートへ


イカ様男は、相変わらず調子のいいことを言っている。

「俺は金持ちだよ」
「うまいもの食わしてやるよ!」

散々と調子の良いことをのたまって、僕の案内を続ける。
僕は導かれるがまま、このイカ様男について行く。

人気のないところに連れて行かれるようであれば、即行で逃げよう、と警戒はしていたのだけど、
連れて行かれた先は、庶民的なフードコートだった。

「御馳走してくれるって、、フードコートか。。」

人混みにある賑やかな場所なので、ほっと安心をするものの、でも高価な食事を期待していた僕は、拍子抜けしていた。

だけど、それでも、貧乏旅行中の僕にとっては、食費を節約できることに違いはなかった。

「まあ、しょうがない、フードコートで勘弁してやろう。」
その時の僕は、そんな思いでいたのだった。

予定通り、イカ様男に食事を奢らせる


「何が食いたい?買ってきてあげるよ」

フードコートの中央にあるテーブルを陣取ると、イカ様男はそう言った。テーブルがある広場の周りには、屋台風のお店が立ち並んでいる。お客さんはお店から好きなものを買ってきて自分のテーブルで食べるシステムなのだ。

僕は自分も行くと言ったが、イカ様男は頑として譲らない。
「いいよいいよ、オレが買ってくるから君はそこで待ってなよ」

あまりにも頑ななので、僕は「それじあ、なんでもいいから買ってきてくれ」とイカ様男に言う。

男が買い物に行った後、僕はテーブルでぼんやり座って待っていた。
10分ほど待っただろうか。待っている僕としては結構長い時間だった。次第に面倒になってきたこともあり、「イカ様男は遅いなあ、帰ろうかな」とも思っていた。

立ち去ろう。その決意をして、ちょうど椅子から立ち上がったときだった。イカ様男が食べ物を持って帰ってきたのだ。
焼きそば風の食べ物と、ドリンクの2つを手に持っていた。

予定通り?昏睡強盗の被害に。。

ここで感のいい僕は気が付く。

「ドリンクは怪しい、この飲み物だけは飲んではいけない」と感づいたのだ。

地球の歩き方に書いてあったのだろうか。

観光客狙いの詐欺師は飲み物に薬を仕込んでいることが多いから、飲み物を勧められても決して飲んではいけない、という注意書きがあったのを覚えていたのだ。

予想通り、イカ様男はドリンクを勧めてきた。しかし、僕は一切ドリンクを飲まず、シンガポール風の焼きそばのようなものだけをせっせと食べることにした。

焼きそばを半分ほど食べただろうか。

ん??。。。
実はそこからの記憶が全く無い。
僕の頭はぐるりぐるりと周り、意識が遠のいて行ったようだ。。


シンガポール、夜空の月と、おぼろげな記憶


目を覚ますと、僕は夜空の月を眺めていた。
この時期のシンガポールの夜は気温も暖かく過ごしやすい。気持ちの良い風が吹き心地よかった。

寝転びながら仰ぎ見る、夜の月はこの上なく綺麗だった。

しばらくしてから、いま自分が草の上で寝転んでいる事実に気がつく。
周囲を見渡すと、ここは広場のような場所のようだ。一面に芝生が生えていた気がする。

僕は何かを吐いたのだろうか。
洋服は少し汚れているように感じた。

頭は少しズキンズキンとする。二日酔いと同じような状態だ。

意識が徐々に戻ってくる。
周囲を見渡すと、僕と同じように草の上に寝転んでいる人たちが10数人いる。

皆ホームレスのようにも見えるが、実際のところはわからない。自分は一体何をやっているのだろう。。

ボンヤリしていると、僕に話しかけてくる若者がいた。隣で寝ていた青年だ。

「どうだ、大丈夫か?気分はどうだ?」

今から思っても不思議なことだが、英語が苦手なのに、何故だか青年の話す英語は全て聞き取れた。
青年は話し続ける。

「あそこにベンチが見えるだろ、お前はあそこのベンチの上で苦しそうにしていたんだ。芝生の生えているこの場所の方が眠りやすいから、ここまで運んできて寝かせたんだ」

青年はそんなことを言っている。

「お前は旅行者か?」
「シンガポールには何をしに来たんだ」
「水は飲むか?」

ただただ優しく接してくれるホームレスの青年だった。

しかしオカシイな。さっきまで昼だったのに、なんで今は夜なんだろう、、
僕は混乱していた。

おぼろげな記憶だった。僕はイカ様男とご飯を食べていたのだ。

必死に思い出すが、記憶はボンヤリしている。でも、少しだけ覚えている記憶によると、僕はイカ様男に肩で担がれながら、無理やり歩かされていた気がする。

そうだ、確か、ATMみたいなところに行って、お金をおろせ下ろせと言われた気が。。

ハッとして手探りして所持品を探す。でも、持っていたはずの荷物は何も見当たらない。
財布はあったけれど、カードとお札が抜き取られている

確か、イカ様男が執拗に暗証番号を教えろ教えろと言われていたような気が。。

僕は愕然とした。
ようやく自分に起きた出来事が理解できた。
僕は「昏睡強盗」にあったのだ。イカ様男は僕のカードを使って、お金を引き出したということを。

僕はシンガポールで昏睡強盗にあったのだ


イカ様男にカードとお金を盗まれた。その状況は理解できた。
でも、「あれ、パスポートはどうしたっけ?」

宿の部屋には簡易式の鍵しか付いていなかったので、無用心だったものの、観光中に落とすことを心配した僕はパスポートを宿に置いてきたはずだった。

あの安宿の部屋に置きっぱなしにすることも十分危険だったけど、今回はそれが幸いしたようだ。

でも、本当に宿にパスポートを置いてきたのかな??

兎に角、一刻も早く宿に戻って、パスポートが安全であることを確かめなくてはならない。

僕の意識は次第にはっきりしてきた。

宿泊していている宿の場所がわからない


早速、宿へ帰ることにする。足はふらついているけど、なんとか歩くことはできるようだ。

でも、どうしよう。宿の場所がわからない。

僕は日中、「地球の歩き方」を持ちながら観光していたのだけど、今は手元に見当たらない。イカ様男が持って行ってしまったようだ。

どちらの方向に歩き出せば良いのか、まるで解らない。

優しいホームレスの青年と、手を繋いで宿探し

そんな僕の状況を察したのか、優しいホームレスの青年が話しかけてくれる。「宿まで案内してやるよ」と。

青年はこの辺りの地理に詳しいようだ。ありがたい。僕は青年に宿探しを頼むことにする。

記憶が定かではなかったけど、「一階にカフェやらバーがあること、一泊1500円であること」を青年に教えた。

ホームレスの若者は、僕の手を取って歩き出す。

今思うと、何故手をつなぎながら歩くのだか、僕には理解できないのだが、意識がもうろうとしており、異国の地で無一文となってしまった僕は兎に角必死だった。その時は手を繋いでいることに違和感を持っていなかった。

青年はいくつか自分の知っている宿に連れて行ってくれた。
しかし、どれも違う宿だった。

やばい、宿にもたどり着けないかもしれない。
僕は次第に焦り始める。時間は夜中の午前3時位だったと思う。

宿泊宿にたどり着く!


僕は、焦りで心臓の鼓動が早くなっていく。パニック状態になりかけていた。
それでも、青年は新たな宿に向かって歩いてくれる。

思考回路は完全停止していた。

でもそんなときだった。ふと顔を見上げると、朝見たお店の風景がそこにあったのだ。
幸運なことに、ホームレスの若者が僕を宿まで導いてくれたようだ。

優しいホームレスの青年との別れ


ここだ、この宿だ!

僕がそう言うと、ホームレスの若者は、自分も僕の部屋がある2階に上がってこようとした。

しかし、これ以上ついて来られても僕も困る。ここでサヨナラしないと面倒な事が発生しそうな気がしていんだ。

僕は、無理やり、「ありがとう、ここでもういいよ」と強引にサヨナラすることにした。でも青年は立ち去ろうとしない。

ホームレスの若者は、僕から何か御礼を貰いたそうな気配も感じた(今思うとホモだったのかも)。だけれど、僕はカードとお金を盗まれてしまい、すっからかんなのだ。アゲルものは何も無い。

僕が困っていると思ったのか、1階のバーの人がホームレスの若者を追っ払ってくれる。
(バーには人がまだ居て、賑わっていた)

ホームレスの若者は渋々立ち去る。僕は店員さんにお礼を言い、青年が立ち去るのを確認してから、急いで2階にある自分の部屋へダッシュする。

鍵を外して部屋に入り、荷物がパイプベッドに括り付けられていることを確認した。直ぐにバッグを開けると、そこには、パスポートが入っている。

良かった!
本当によかった!

不幸中の幸いというのだろうか。
僕は心の底からほっとした。

しかし、問題はまだまだ山積みだ。

何せ僕はカードを取られた上に、お金も取られている。兎に角一文無しなのだ。
幸いなことに宿代は前払いだったが、一体これからどうすれば良いのだろうか。。

この記事を書いた人
湯川 七八貴
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