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インスリンから見たダイエットの科学

 太るとは、脂肪の蓄積である。
 しかし、筋肉細胞で使用される1日の多くのエネルギー源は、グルコースよりむしろ遊離脂肪酸である。なぜなら、筋線維が特殊な環境にある場合を除き、安静時の筋線維内のグルコース透過性は小さいからである。
 それなのになぜ、人は太るのか。
 先ほど述べた特殊な環境とは以下の二つである。

  • 中等度から高強度の運動時

  • 食後の数時間においてインスリンが大量に分泌されるとき

 今回はこのインスリンというホルモンの視点から考察していく。

インスリンとは

膵臓のランゲルハンス島のβ細胞から分泌される。
その働きは以下のとおりである。

  • グリコーゲンの貯蔵

  • 脂肪への変換・貯蔵

  • アミノ酸の細胞内への取り込み促進

  • タンパク質合成促進

  • タンパク質分解抑制

インスリンの分泌機構

インスリンの分泌は、以下のように行われる。

  1. グルコースが細胞内に入る

  2. グルコースによりATPが作られる

  3. ATPがATP感受性K⁺チャネルに作用し、閉鎖する

  4. 細胞外に出られないK⁺イオンが蓄積し、電位を起こす。

  5. 電位が電位依存性Ca²⁺チャネルが開口し、Ca²⁺が細胞内に流入する

  6. インスリンの細胞膜との融合と開口放出を促す

つまり、グルコースの細胞への流入が要因であり、これは血糖値上昇の際に起きる。

インスリンの分泌機構

インスリンの作用機序

 インスリン受容体はαサブユニットとβサブユニットの4つのサブユニットからなる。それぞれはS-S結合でくっついており、αサブユニットは細胞外に、βサブユニットは細胞外から細胞内を貫くように存在する。

  1. インスリンは細胞膜に存在するインスリン受容体αサブユニットに付着する。

  2. βサブユニットを自己リン酸化する。

  3. 細胞内チロシンリン酸酵素が活性化する。

  4. チロシンリン酸酵素によりインスリン受容体基質酵素のリン酸化が行われる。

  5. 細胞内でいくつかの作用が起こる。

    • グルコース輸送小体の細胞膜への移動(グルコースの取り込み促進)

    • タンパク質合成

    • 脂肪合成

    • グリコーゲン合成

    • 生長と遺伝子発現

インスリンの作用機序

糖質が脂質に変わるまで

肝臓でのグルコース取り込み、貯蔵、利用を促進する仕組み

 インスリンは、糖を細胞内にためる働きがある。特に肝臓ではグルコースを集めてグリコーゲンを作り、その状態で貯蔵する。ここでは、インスリンがどのようにグリコーゲン貯蔵を促進するかを記載する。

  • インスリンは、肝グリコーゲンをグルコースに分解する主要な酵素の肝ホスホリラーゼを不活性化する。

  • 細胞内に入ったグルコースを最初にリン酸化するグルコキナーゼを活性化する。そうしてリン酸化されたグルコースは細胞外に出られなくなる。

  • グルコースを重合してグリコーゲンにするグリコーゲンシンターゼを活性化する。

脂肪の合成と貯蔵

  1. 肝臓のグリコーゲン貯蔵量が5~6%に達するとグリコーゲンの合成は抑制される。これ以上のグルコースは解糖系でピルビン酸となり、ピルビン酸はアセチルCoAとなる。

  2. グルコースが過剰に解糖され、クエン酸回路に入ると、過剰なクエン酸、イソクエン酸が産出される。これらは、アセチルCoAカルボキシラーゼを活性化する。その結果、アセチルCoAがカルボキシル化され、マロニルCoAとなる。これらにより、脂肪酸合成がなされる。(化学式を交えて図で説明する)

  3. 大部分の脂肪酸は、肝臓で中性脂肪を形成する。中性脂肪は肝臓の細胞からリポタンパク質として血液中に放出される。

  4. インスリンは血管壁のリポタンパク質リパーゼを活性化する。その結果、中性脂肪は脂肪酸に分解され、遊離脂肪酸として血中を流れ、脂肪細胞に吸収される。

  5. インスリンは脂肪細胞でもグルコース輸送(細胞内へのグルコースの移動)を促進している。グルコースは一部脂肪酸に変換され、解糖系に入った結果、αグリセロリン酸を多量に形成する。このαグリセロリン酸はグリセロールとなる。グリセロールは、グルコースが変換されてできた脂肪酸や肝臓から遊離脂肪酸としてやってきた脂肪酸と結びついて、中性脂肪となる。

脂肪酸(ステアリン酸)の合成


太らないためには(まとめ/考察)

 インスリンが糖を貯蔵し、高血糖を予防することは、生命の維持や生活習慣病のリスク軽減において大変重要である。しかし、現代の日本において、糖が枯渇するような生活はまずなく、むしろ食べすぎに注意を向けるべきだ。
 脳・網膜・生殖器は、グルコースでしか栄養できない。このことを考えると、単純にグルコースが0になる状況を作るわけにもいかない。
 ここで、肝臓は5~6%までであれば、グリコーゲンとしての貯蔵を許容していることに着目するべきである。要するに、急激なグルコースの吸収を抑えることができれば、ある程度の脂肪の蓄積は抑えれるのではないだろうか。現在では低GI食品などが流行っているようだが、活用することも理にかなっていると思われる。
 また、グルコースの利用を抑えることが脂肪代謝の促進につながるとすれば、初めに述べた中等度・高強度の運動ではなく、有酸素運動等の低強度の運動が望ましいことが推測される。

 今回は、インスリンの視点からダイエットを観察した。ここに記載したことは、インスリンだけであり、体内では多数のホルモンや作用がかかわる。ここに記載したことだけで、すべてを説明することはできないが、ダイエットを考えるうえで必要であることに違いはないだろう。
 インスリンはタンパク質の合成にもかかわっている為、次回以降まとめていきたいと考えている。


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