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ライターになる道はいと険し6

ライターとして憧れてしまうのは向田邦子。優れた文章を書きながらいつもおしゃれなライフスタイルを送っていた。
「向田邦子のようになりたい!」
そんな夢のようなことを想像していたバカな私。
現実はそんな生活とは程遠かった。
初心者の私が高単価案件を取れるわけもなく、Webマーケティング会社の案件と個人のクライアントの案件をこなす毎日。

Webマーケティング会社には複数の担当者がいた。
彼らはエンドクライアントとの交渉、ライターへの発注、編集作業など全てを一人でこなす。
1つの会社からの発注といっても、担当者が複数いるため、まるで別会社からの発注のよう。社員同士の連携も取れていないようだった。
例えばAさんが私に発注した直後にBさんからも発注がある。
案件は同じ時期に大量にやってきたし、バッティングすることも多かった。

「仕事が来るのはありがたい!お客様は神様です」
とはいうものの、短納期の仕事を大量に受注してこなすのは簡単ではない。
朝から晩まで休みなく働く日々に疲弊するようになってしまった。
テレビもご飯の時以外、見る時間はない。
それでも続けることができたのは、書くことが好きだから。

「こんな毎日を送っていたら体を壊すかも」と感じた。
仕事が忙しく激やせしてしまい、娘にも心配された。
それでも仕事を休むわけにはいかない。ひたすら毎日書き続ける。
心のどこかで「こんな毎日は間違っている」と叫ぶ自分がいた。

「もっと条件のいい案件をもらえたら、こんな日々とおさらばできるのでは?」
頭の中では向田邦子のように優雅な生活を送っている自分がいた。
しかし、現実の私は疲れ果てているだけ。
目の前の仕事でいっぱいいっぱいになり、他の案件に応募する心の余裕はなかった。

とうとう、私の仕事は自分のキャパを越えるほど増えた。
当然後半にやった仕事は疲れた状態で書いてしまうので、質が落ちる。
仕事で疲弊するとライターはろくなことがない。
疲れが出る頃には記事の質も落ちてしまう。
短納期の仕事を続けた結果、私は痛い目にあった。
年末に合格し、継続していた個人のクライアントが突然終わったのだ。
報酬もまあまあのクライアントだったのでショックも大きかった。

早速師匠のカナコ先生に相談を。
「案件を入れ過ぎるとダメですよ!疲れが出ると記事の質が落ちる。
良い条件のクライアントから終わってしまうものなんですよ」
カナコ先生も以前仕事を入れ過ぎて、納期の延長を続けた挙句、倒れたことがあるらしい。

気落ちした私はフリーランスの元夫にも相談。
彼の話で、なぜ自分がダメだったのかよーくわかった。
「フリーランスは細く長くやるのが大事。アップアップするほど仕事を入れると質が落ちる。そんな状態でやっていくと一時的には潤うかもしれない。
ただし質が悪いと次の仕事が来なくなる。仕事を少なめにし質の高いものを提供すると、良い仕事が来るようになる」

個人のクライアントに切られた私の教訓は、仕事を入れ過ぎないということ。リソースには余裕を持ち、単価の高い案件にシフトする。そして延長したり断ったりと、短納期の仕事をそのまま引き受けないこと。
フリーランスの厳しさをまた知った私。
向田邦子になるつもりが、まるでモグラのようだ。

もっと心に余裕を持ちたいし、短納期じゃない仕事もしたい。
そんな風に考えていた私にクラウド・ワークスを通して連絡が来た。
連絡主はクラウド・ワークスの上位サイトのクラウド・リンクス。
クライアントは名の知れた大手企業が多いし、登録者も有名IT企業で働いている副業希望者が多いということ。
希望を託し、私は登録してみた。

しかし、紹介があったのは最初だけ。覗いてみるとクラウド・リンクスの登録者は電通をはじめ、有名企業の人ばかり。
「こんなエリートばかりじゃあ、私なんて絶対に無理!」
「やっぱり私はモグラでいるしかないのか?」
いつしかクラウド・リンクスの存在すら忘れていたが、ある日突然奇跡のような出来事が起きた。
クラウド・リンクスを通し、とある建築士が私に仕事を頼みたいと連絡が来たのだ!

「やったー!建築士の依頼なんて嬉しい!」
「モグラじゃなくて地上に出れるぞ!」
そう、その時の私はまだ気づいていなかった。
いよいよ憧れていた仕事をやることになるのだが、その仕事で赤っ恥をかくことになろうとは思いもよらなかった。



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