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読書日記「だからダスティンは死んだ」

ミステリーでは一押しの作家であるピーター・スワンソンの新作。スワンソンの『そしてミランダを殺す』は「このミステリーがすごい!海外編」で第2位を獲得。犯人像がいつもグロテスクだが読みだすとクセになる。今回も期待を裏切らない内容だった。

作者について

ピーター・スワンソン
アメリカ、マサチューセッツ出身。コネチカット州のトリニティ・カレッジ、マサチューセッツ大学アマースト校、エマーソン・カレッジに学ぶ。2014年に『時計仕掛けの恋人』でデビュー。2015年に刊行された第二長編となる『そしてミランダを殺す』は、英国推理作家協会(CWA)賞のイアン・フレミング・スチールダガー部門で最終候補となった。その他の著作にHer Every Fear(2017)がある。現在はマサチューセッツ州サマーヴィルで妻や猫と暮らす。

東京創元社より引用

内容

ボストン郊外に越してきた版画家のヘンと夫のロイドは、隣の夫婦マシューとマイラの家に招待された。食事後にマシューの書斎に入ったとき、ヘンは2年半前に起きたダスティン・ミラー殺人事件で、犯人が被害者宅から持ち去ったとされる置き物を目にする。マシューは殺人犯だと確信したヘンは、彼について調べ、跡をつけはじめるが……。数人の視点で語られる物語は読者を鮮やかに幻惑し、衝撃のラストへとなだれ込む。

Amazonより引用

感想

もしも隣家の住人が殺人犯だと知ったら、あなたはどうするだろうか?主人公のヘンはそのような恐怖の体験をする。隣人の家を訪問したヘンは殺されたダスティン・ミラーのトロフィーを発見してしまう。隣人のマシューはダスティンが通っていた高校の教師である。

マシューについて調べ、後を付けたヘンは、偶然マシューが人を殺す場面を目撃する。当然警察に通報するのだが、ヘンはマシューの思わぬ妨害にあってしまう。過去においてヘンは躁うつ病からある事件を起こしたことがある。ヘンの過去を知ったマシューは、警察にヘンの事件を話し、彼女の証言は信用できないと印象づけてしまう。

物語は途中までヘンの視点、マシューの視点が続きヒッチコック映画のような上質なミステリーを思わせる。ヘンは過去の事件により警察に信じてもらえず歯がゆい思いをする。マシューはヘンの動きを封じるため、マシューと彼の妻に近づかないようにと保護命令を申請する。ところが、マシューは保護命令を申請したにもかかわらず、ヘンとコンタクトを取ろうとするのだ。犯人が主人公とコンタクトを取ろうとするならば、当然殺そうとしていると思うだろう。

しかし、マシューはヘンを殺す気はないのだ。彼女の言うことを警察が信じていないことを確信し、彼女に過去の殺人事件について告白する。二人の関係は奇妙だ。私にはなぜかマシューがヘンに愛情を持っているようにも感じてしまう。実際にマシューがヘンに愛情を持っていると語るシーンもないし、愛しているのは妻のマイラだと語っている。マシューにとってヘンの存在は自分の殺人に至る心境を語れる唯一の存在。ヘンによってマシューは心の均衡を保っているようにも感じた。

そのままヒッチコックのような展開が待ち受けているかと思いきや、さすがスワンソン!とんでもない人物が登場し、物語は新たな緊張感に包まれる。ヘンとマシュー2人の視点から新たな人物と妻マイラの視点も加わる。
マシューを驚愕させるような事件が起き、マシューの心の均衡が壊れていく。

新たな人物は今までのスワンソンの小説のようにグロテスクな人物。
最後は息もつかせぬ展開となり、読者はスワンソンに騙されていたことに気づく。事件が解決した後に知った衝撃の真実!その時初めて「だからダスティンは死んだ」というタイトルの意味を読者は知ることになる。

スワンソンは構成と心理描写が上手い。そして何よりも優れているのは犯人のグロテスクな心理描写。スワンソンの小説に出てくる犯人は、何か理由があって殺すというより快楽のために殺人を起こしている。現実の世界でも「人を殺したかったから」という理由で殺す人たちがいる。そのような犯人を彷彿とさせるぐらいの不気味さ。私たちが知りたくない世界を教えてくれる作家だといえよう。

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